ビジネスパーソンが新しい仕事のために必要となるスキルを習得する「リスキリング」が注目を集めており、政府も強力に後押ししています。では、具体的に、スキルを身に付けるために何をすればいいのでしょうか?  『ビジネススキル強化メソッド』 『ビジネススキル図鑑』 (以上、日本経済新聞出版)などの著書がある組織コンサルタントの堀公俊さんに解説してもらいました。

仕事を通じて新たなスキルを習得する

 前回 「リスキリング DXの前に必要な3つの共通スキル」 では、自分が身に付けるべきスキルを見つけ出すためのアプローチを紹介しました。

 では、自らに必要なスキルを決めた後、具体的にどうやってスキルを身に付けていけばいいのでしょうか。スキルアップの方法はたくさんありますが、中心を成すのがOJT、すなわち職場での学びです。

 OJTは、何をどこまで身に付けるか、学習目標の設定から始まります。併せて、自己流や自社流にならないよう、読書や研修などから正しい「手順」を学び、デモ動画や熟達者の振る舞いを「手本」としてじっくりと観察しなければなりません。

 ただ、これだけでは単なる知識であり、やってみないと血肉になりません。学んだらすぐに実践する必要があります。その際には、必ず学んだ通りにやってみなければなりません。まずは、手順と手本通りにそのままそっくりまねるのです。「徹底的にパクる」(TTP:Tettei Tekini Pakuru)ことこそが上達のポイントです。

 とはいえ、やりっぱなしではスキルアップしません。やったことの出来栄えややり方をチェックしてこそ上達の道が拓けてきます。振り返りとフィードバックが大事です。

 よいフィードバックが得られるかどうかは受け手で決まります。相手の言葉を素直に受け取り、自らの糧にして改善していく姿を見せれば、「フィードバックしがいのある人」と思ってもらえます。「受け上手」になることが成長の秘訣です。

 その上で、思考や行動を修正していきます。気合いと根性を入れ直しても、やり方が同じなら違う結果は生まれてきません。大切なのは考え方や振る舞い方を変えることです。安易なガンバリズムに陥らないように気をつけ、徹底的に行動に落とし込んで、無意識でできるようになるまで努力を続けなければいけません。

アウトプットの時間がどれぐらいあるか

 スキルアップには、Off-JTすなわち職場の外での学びも重要です。その代表選手がセミナーや講習会などの研修です。それは適切な研修を選ぶところから始まります。

 知識を学ぶ研修を選ぶ際に大切なのは、コンテンツ、すなわちカリキュラムです。それに対して、スキルを学ぶ際に一番重要なのは講師です。誰に稽古(けいこ)をつけてもらうかで学びの質がまるで変わってきます。スキルを教える講師は豊かな実践知を持った実践者でなければいけません。それは、講師のプロフィールを見るか、ネットで検索すれば分かります。

スキルを学ぶ研修で一番重要なのは講師(写真/shutterstock)
スキルを学ぶ研修で一番重要なのは講師(写真/shutterstock)
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 もちろん、研修の中身も重要です。研修のスケジュールが分かるなら、インプットではなくアウトプットの時間がどれくらいあるかを調べてください。ワーク、エクササイズ、ロールプレイング、ダイアログ、リフレクション、と書かれた参加や体験の時間です。

 加えて、できれば多様な人が集う研修を選びたいものです。考え方が違う人同士で切磋琢磨(せっさたくま)するからこそ、稽古の質も熱量も上がってきます。自らの壁を打ち破るのに効果があります。見知らぬ人同士のほうがフィードバックしやすくなり、他流試合につながります。

 それと、研修は1回受ければ終わりではありません。ホップ・ステップ・ジャンプと、同じテーマで3回受けてこそ上達につながります。1回目(ホップ)は、初心者が大枠をつかむための研修です。2回目(ステップ)は、現場でさまざまな実践をした中級者が、もう一度基本に帰って学び直す研修です。そして3回目(ジャンプ)は、実践者としてさらなる成長を目指すために、「自分の何を変えればいいか?」をつかむための研修です。講師や他の受講者からフィードバックを受けます。

 いずれも、研修が持つ効果を最大限に発揮するには、事前のお膳立てがポイントになります。職場を巻き込んでしっかりと動機づけをすること。予備知識を頭にインプットしてから受講すること。この2点が研修当日の学習を大きく左右します。

研修は同じテーマで3回受ける
研修は同じテーマで3回受ける
(出所)『ビジネススキル強化メソッド』(日本経済新聞出版)
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スキルアップにつながる読書法

 最後に、読書についても述べておきます。多くの人は、「何をすればいいか?」を知りたくてビジネス書を紐解(ひもと)きます。具体的な手順が書かれた部分が最も重要であり、しっかり読んで頭に刻み込まなければいけません。

 そのためにお勧めしたいのが「音読」です。心に刺さった部分だけでもいいので声に出して読むのです。音読には、理解力が向上する、記憶力が上がる、意欲が高まるなど、さまざまな効果が指摘されています。動作をつけながら手順を読み上げれば、イメージトレーニングにもなります。

 一方、本を使ったスキルアップの難敵は、「なるほど、そうすればいいのか!」と納得してしまうことです。何もやっていないのに、自分で経験したかのような錯覚に陥ってしまうのです。そうならないよう、インプットしたらすぐにアウトプットしましょう。

 そのために筆者が続けているのが「DJ(読書&実践)ノート」です。本を読んで「学んだこと」(M)、読後に「やったこと」(Y)、実践して「分かったこと」(W)をノートにメモしておくのです。こうしておけば、読書と実践のサイクルが回るようになります。自身の成長の記録にもなり、自分を見つめるいい材料となります。

DJ(読書&実践)ノートの例
DJ(読書&実践)ノートの例
(出所)『ビジネススキル強化メソッド』(日本経済新聞出版)
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 それと、本は実践前に読むだけのものではありません。実践した後でもう一度読んではじめて、本当のところが理解できるようになります。実践する前に読んで、実践した後にも読む。そうやって、読書と実践を何度も往復しながら熟達を図っていくのが、スキルアップにふさわしい読書法です。

 ちなみに、スキルアップに関して実践的なノウハウを知りたければ拙著 『ビジネススキル強化メソッド』 (日本経済新聞出版)を。ビジネススキルの理論的な内容に興味があれば、 『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』 (加藤洋平著/日本能率協会マネジメントセンター)や、 『実践知 エキスパートの知性』 (金井壽宏・楠見孝編/有斐閣)をお薦めします。

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堀公俊著/日本経済新聞出版/2090円(税込み)