少子化に歯止めがかかりません。2022年の出生数は80万人を割る見込みです。現状はどれぐらい深刻なのでしょうか。なぜ少子化は進むのでしょうか。少子化や人口減少の問題に詳しい日本総合研究所 調査部上席主任研究員の藤波匠さんが、様々な調査データを基に解き明かしていきます。藤波さんと30代の女性、20代の男性による架空鼎談形式で、結婚・出産適齢期の人々の実感や考え方を踏まえながら、分かりやすく説明します。第1回。
※本記事をもとにした書籍『
なぜ少子化は止められないのか
』(日経プレミアシリーズ)を2023年5月に刊行予定です。
わずか7年で20%以上減少
宮本 藤波先生は、今日の授業で、少子化がもたらす日本社会の行く末について、悲観的なイメージを持っているというようなことをおっしゃっていました。私は子どもを対象にした教育産業に勤めているので、少子化に関してはかなり危機感を持っています。そして何より、もう1人子どもを持つかどうか悩んでいるところです。お時間があれば、少子化の現状や課題についてもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。
大森 私も少子化に強い関心があります。もう手遅れといった指摘もありますが、人口減少を少しでも緩やかにしていくことは、国の安定という面から考えても重要なことではないでしょうか。
藤波 もちろんかまいませんよ。この後はもう予定がないので、私の知見の範囲で、先日書いたリポートのデータなどを使いながら、お話ししましょう。あと、お二方とも、まさに結婚・出産の年齢に該当していますから、逆に私のほうがいろいろとお話を聞きたいくらいです。
まず見てもらいたいのが、図表1と図表2です。図表1は長期の出生数と出生率の推移。図表2は、2000年以降の出生数に注目したものですが、実績値とともに、2015年の国勢調査のデータを基に国が推計した出生数の中位推計値も付記してあります。実績値が推計値よりも大きく下振れしているのが分かりますよね。実績を見てもらうと、2015年までは年率1%程度の減少率だったものが、2016年以降は加速して3.7%の減少率となっています。
中位推計から下振れし、推計値では2030年と見込まれていた80万人割れが、早くも2022年に到達してしまっています。怖いのは、2015年までは100万人あった出生数が、わずか7年で20%以上減少してしまったという強烈なスピード感です。
大森 確かに衝撃的なスピードですね。グラフを見る限り、2000年から15年かけて20万人減ったわけですが、その後は7年で20万人以上減っている。
出産の年齢的な制約
藤波 大森さんは23歳でしたね。これから結婚・出産を控えているわけですが、実際、「少子化問題」と言われて、どう思いますか。
大森 私は社会政策論を学ぶ学生ですから、少子化を一大事として捉えるべきだというのは分かります。ですが、正直自分のことではないというか、自分が結婚して子どもを育てる生活をイメージできないという感じです。私の場合、結婚をしないとか、子どもはいらないということではないんですけれど、大学を出て就職したら、当然、仕事で成果を求められるでしょうし、自己研鑽(けんさん)にも時間をかけなければならず、結婚はまだまだ先のイメージです。
藤波 23歳だとそうだよね。私もそんな感じでした。宮本さんはどう? 女性は少し違うんじゃないでしょうか。確か宮本さんは今、育休中だと聞いたけど、お子さんは1人ですか。
宮本 私は29歳で結婚し、32歳で子どもができて、育休中です。妊娠する前から大学院に社会人学生として在学していて、一時休学していたのですが、大学に相談したら、学内保育所で預かってくれるということだったので、復学したところです。1人目を生んだばかりなので、もう1人という感じは今のところありません。ただ、今34歳なので、もう1人生むとすれば、なるべく早いうちに決断をしなければいけないということは分かっています。
藤波 女性の出産に関する年齢的な制約、よく言われる卵子の老化の問題を気にしているということですか。学校教育の場でも、そうした生殖に関する情報のインプットがかなり浸透しているという話は聞きます。実際、図表3にあるように、女性の初婚年齢や第1子出産年齢は、2010年代半ばまでは明確な上昇傾向でしたが、このところほとんど上昇していない。若い人たちがしっかり考えていることがよく分かりますね。
子ども3人は難しい理由
宮本 ただ、人口を維持していくためには、合計特殊出生率(女性1人が生涯に生む子どもの数)は2.07が必要という記事を読んだことがあります。子どもを持たない女性も一定数いるわけですから、3人以上生む女性もある程度いないといけません。今、私の場合は2人目を生むかどうか迷っているのですが、3人の母親になる覚悟があるかと聞かれれば、それは明確にノーです。
藤波 それはなぜですか。
宮本 最大の理由は、経済的負担です。子どもがいれば広い家が欲しくなり、そのための住宅ローンを抱えながら、何人も子どもを育て、大学まで進学させられるのか。まして、私たちの世代は年金制度が崩壊するだの、老後の備えとして2000万円が必要だとかさんざん脅されているわけです。ご存じだと思いますが、ネットを見れば、子どもを持つことはリスクだとか、罰ゲームだという表現までありますよ。
藤波 子どもを持つことを金銭的損得の問題で考えるべきではないとは思いますが、若い人たちの経済環境や雇用の状況を見ると、やむを得ない部分はあります。ただ、宮本さんは、正社員として比較的安定した職に就き、所得も世代平均よりももらっているはずですよね。それでも厳しいと感じますか。
宮本 私の場合、給料はしっかりもらえていますが、大学に行くために借りた奨学金の返済が終わっていません。貸与型の奨学金は基本的に借金です。自分の借金返済のこともありますけど、将来自分の子どもには、奨学金を借りなくても大学に行かせてやりたいと思いますし、自然と子どもの数は抑えようと考えてしまいます。
大森 私は、少子化問題は、時すでに遅しという印象を持っています。私の親世代に当たる団塊ジュニア世代が出産期にあった時期に有効な手を打てなかったことで、今の流れは決まってしまったと思います。
よく言われるように、団塊ジュニア世代は、バブル崩壊後に社会に出ることになり、不況の波をもろにかぶった世代ですよね。先ほど示してもらった図表1を見て気が付いたんですけど、1970年代生まれの団塊ジュニア世代は、年間200万人を超える出生数があったにもかかわらず、その子どもに当たる私たち世代では、明確なピークは見られません。問題はやはりこの時期にあったのではないかと思ってしまいます。
藤波 団塊ジュニア世代以降の就職氷河期世代の不遇に関しては、私の同僚が書いた本、 『就職氷河期世代の行く先』 (下田裕介著/日経プレミアシリーズ)が参考になると思います。今日はこのくらいにして、時間があればこの本を読んだ上で、来週にでもこの時間に少しお話をしませんか。
『就職氷河期世代の行く先』
・約111万人が生活不安定になる?
・追加の生活保護費は8兆円超え
・どんな就業支援策をとるべきか……
解決の糸口はどこに? 第一人者のエコノミストが分析する。
下田裕介著/日本経済新聞出版/935円(税込み)