管理職に就いたけれど、自信が持てない、悩みが尽きない…何かヒントはないか──そんなときぜひお薦めしたいのが、市原義文さんの著書『いつも結果を出す管理職が必ずやっている80のこと』です。本書に一貫している、簡潔で分かりやすく、真っすぐに届く言葉は、どのような経験から導き出されたのでしょうか。市原さんご自身に語っていただきます。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
部下のやる気を引き出すコミュニケーション
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回も、『 いつも結果を出す管理職が必ずやっている80のこと 』の著者である市原義文さんと、編集を担当された小田舞子さんをゲストにお迎えしています。
本書の目次には、「時間がないというあなたは、☆マークのある項目から先にお読みください。」と記されています。今回は、その☆マークがたくさん付いているシーン5「部下と仕事を進める 部下にどんどん仕事を振り、育てる」からお話を聞かせてください。管理職になったばかりだと、部下のやる気を引き出すのが難しいと感じることも多くありそうですね。
市原義文(以下、市原) 「上司」と「部下」、それぞれ「上」と「下」という漢字が使われていますが、できるだけ横並び、双方向であるのがいいと思います。日常的な仕事では、必ずしも上司が部下よりも優れているわけではありませんよね。部下も「あの人(上司)は、こんなこともできないのかな」と思うこともあるかもしれません。まずは、対等な立場で臨むことがすごく重要だと思います。
市原 もう1つ、部下にやる気を出してほしいとき、ストレートに指示を出すのではなく、相談を持ち掛けるようなスタンスで話すといいと思います。上から「これやって」と言うよりも、「相談したいことがあるんだけど、10分くらい、いいかな」と持ち掛けると、言われたほうは「今、忙しいのに」なんて思いながらも、相談だったら聞こうかという気持ちになります。そういうとき、「あなたがよく知っていそうだから」「私もやれるけど、あなたのほうがもっと効率良くできそう」「やり方も教えてほしいんだよね」と言われれば、「いいですよ」と答えたくなりませんか。何かを依頼するとき、仕事を振るとき、言い方はとても大切だと思います。
尾上 前提として、前回もお話しいただいた信頼関係も重要ですね。
市原 その通りです。それから、どう言えば伝わるかも相手によって考えたほうがいいと思います。同じことを言っても、人によって捉え方は違いますから。話の内容というよりも言い方で引っ掛かって、話が進まなくなるケースも多いのです。
例えば、右脳派の人には大ざっぱなアウトラインから話して、何となく理解してきたら、もう少し細かい話に持っていこうとか。また、左脳派の人に大ざっぱ過ぎることを言うと「結局何が言いたいのか分かりません」となるので、細かいところまできちんと伝えることが大切です。やる気を出してもらう以前に、ちゃんと伝えるために相手のタイプに合わせて言い方を工夫するといいですね。
尾上 なるほど。普段からコミュニケーションが取れているかどうかでも変わってきそうですね。
市原 そうですね。相手がどういうタイプの人かすぐに分からないときは、少し気にしながらちょっとした声掛けを何度かしてみるといいと思います。何となく「こういうタイプかな」と分かるようになると、自分の言い方も変えられますよね。
仕事人生の転機となった2人との出会い
尾上 部下と仕事を進めることは、管理職として大きな部分です。そして、それ以外にも様々な課題はあると思いますが、シーン12「長い目で考える つまるところ、『自分はどう生きたいか』」というのも気になります。
小田舞子・日経BP 管理職について市原さんといろいろディスカッションをするなかで、市原さんはどうしてこのような管理職のスタイルにたどり着いたのだろうと思ったんですよね。その点を探っていくと、市原さんの仕事人生に転機を与えたという、2人の方がいたそうです。
市原 はい。1人はイギリス人の元上司で、彼にこう聞かれたことがありました。「What are you doing for a living?」。通常は職業を尋ねるときに使うフレーズですから、私は普通に「日産(当時)で働いているよ」と答えたら、彼に「いや、そんなことを聞いているんじゃない。これからの人生をどう生きていきたい? 5年後、10年後どうなっていたいと思う?」と返されました。その質問にすぐ答えられない自分と向き合ったときの衝撃は大きかったですね。以来、本当はどう生きていきたいのかを考えるようになりました。
2人目は、本書にも書いているのですが、私が39歳でローソンで働いていたとき、55歳で役職定年を迎え退職された方です。その方はローソンが小さい会社だった頃からの功労者なのに、その社会人の終わり方には寂しさを感じました。背景にあるのは役職定年という会社の制度です。まだまだバリバリ働ける人がなぜこうなるのか、よく分からない会社の制度で自分のキャリアや人生を左右されるのは冗談じゃないと思いました。もっと自由になるためには何をすべきなのか、自分は本当はどう生きたいのか、考えるようになりました。
尾上 イギリス人上司の「What are you doing for a living?」という問いを、自分で自分に問うていくのですね。そこから実際に行動へ移したことなどありますか。
市原 「can=できること」「want=したいこと」「should=すべきこと」を、自分に向き合うための質問としてノートに書くようになりました。「今の私は何ができるのか」がcan、「本当は何がしたいのか」がwant、「そもそも自分は何をするために生まれてきたのか」がshouldです。
事あるごとに、1つの仕事が終わったら「これができるようになった」と書く。そして「これってやりたかったことなのかな」「これを踏まえて、何かしたいことが増えたかな」「でも、それって自分が本当にやるべきことなのかな」というのを、いつも書くようになりました。
尾上 canとwantとshouldの答えは、その時々の自分がどういう状態で、何をどう考えているのかという軸につながっていくのかもしれませんね。
信頼関係のベースとなる、基本の型
市原 今は、ネットで少し調べれば解決策がたくさん出てきます。でも、解決策の前に、本書に書いたようなベーシックな型が必要だと思いました。そして、その型の根本にあるのが、やはり「信頼」だと思います。
尾上 例えば「挨拶」は無意識にしていることも多いですが、身に付いていると、まさに型として信頼関係のベースになっていきますね。
市原 はい、そう思います。また、明日が締め切りで、全然間に合わなくて締め切り当日に「すみません」と言うよりは、事前に「明日、間に合わないかもしれません」と伝えるだけでも状況は変わると思うんですよね。こういう振る舞いも型の1つだと思います。
尾上 その型となる80、その前提も含めるとプラス3ですが、今の自分には何が必要かを見つけてほしいと思います。今は必要がなくても、タイミングが変わると改めて必要になる項目が出てくるかもしれません。それから、カバーをめくった所にある「市原語録」も実践してもらいたいですね。
市原 ありがとうございます。ぜひ、手に取って読んでいただければと思います。
文/三浦香代子 構成/山崎 綾、市川史樹(日経BOOKプラス編集)
