もしかしたら、発達障害かもしれない──子ども、身近な人、自身について、そんな不安と生きづらさを感じていたら、まず手に取ってほしい『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』。ありそうでなかった「発達障害の教科書」として、多くの人に読まれています。本書の著者であり、発達障害を持つ息子を育てる黒坂真由子さんを迎え、お話を伺います。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

すぐに認められなかった我が子の発達障害

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回は、『 発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて 』を取り上げます。ゲストには、著者の黒坂真由子さんをお迎えしました。では黒坂さん、まず自己紹介をお願いできますか。

黒坂真由子(以下、黒坂) ご紹介いただきありがとうございます。現在は、フリーランスで編集やライティングをしています。子育てや子どもの発達、教育問題を扱うことが多く、受験本や絵本も担当しています。絵本では、せなけいこ先生の編集担当をしていました。

息子の学習障害を知ったとき、何をどう調べていいのか分からなかったという黒坂真由子さん。「今、知りたいこと」という当事者家族の目線で、識者に取材を重ねました/画像クリックでAmazonページへ
息子の学習障害を知ったとき、何をどう調べていいのか分からなかったという黒坂真由子さん。「今、知りたいこと」という当事者家族の目線で、識者に取材を重ねました/画像クリックでAmazonページへ

尾上 本書『発達障害大全』は、「日経ビジネス電子版」の連載「もっと教えて!『発達障害のリアル』」がベースとなっているのですね。

黒坂 はい。約40回分の連載をまとめてこの一冊になりました。連載をさせていただけたのは、私がライターであると同時に、当事者家族だからです。息子には、発達障害の一つである学習障害があり、文字を読んだり、特に書いたりすることが苦手なのです。

 息子が発達障害かもしれないと最初に思ったときは、何を調べていいのかまったく分かりませんでした。連載では「当時、こういうことを知りたかった」「将来に向けて知っておいたほうがよさそう」ということについて識者を探し、一人ひとりにかなり時間を割いていただいて、話を聞きました。

尾上 息子さんの学習障害が分かったときは、かなり戸惑ったのではないでしょうか。

黒坂 そうですね。息子が小学1年生のとき、担任の先生から「目に何か問題があるのでは」と言われて、「問題を飛ばして解いているが、わざとやっているようには見えない」という話でした。私も「見間違いか何かで、うまく答えを書けないんじゃないか」と、すぐには認めたくない気持ちがありましたね。

尾上 担任の先生は、目になんらかの問題があるから読めない、書けないのではないかと思った、と。親としては、心のどこかで「ちゃんとできない子なのかな」と思ってしまいますよね。

黒坂 本当にその通りです。小1の息子が漢字練習をしているときなど、お手本の漢字をそのまま写せなくて、私は「ちゃんと見なさい」「ちゃんと写しなさい」とすごく怒ってしまって、子どもが泣く、という繰り返しでした。算数ドリルはノートに問題を書き写す時点で間違っている。これは、やはりちゃんと調べなきゃいけないと覚悟しました。

初めは不安と分からないことだらけ

尾上 そこから、発達障害、学習障害と向き合う旅が始まったわけですね。

黒坂 はい。息子のことに気付いてくれた担任の先生には本当に感謝しています。先生も言いづらかったと思うのですが、言ってもらえなかったら、私は今でも気付かないまま、ずっと怒りながら育児をしていたかもしれません。

尾上 本書には、気付くきっかけとなることの他にも、様々なトピックスが紹介されています。

黒坂 分からないことだらけのときにこんな本があったら…と考えて、項目を考えました。例えば、最初に知っておきたかったのは遺伝についてです。それから知能との関係ですね。他にも、診断、検査方法、投薬の有無、そもそも治るのか、治らないのか。最初に感じる不安や悩みを明確にできれば、だいたいの見通しが持てるかもと思いました。

尾上 最初は、不安や悩みがあふれるように出てきますよね。

黒坂 そうですね。私自身がライターなので、読めないことや書けないことに対する不安はかなり強かったと思います。どうやって勉強したらいいのか、と。

尾上 確かに。自分ができることができないというのは、理解しづらいかもしれません。

黒坂 ご自身やお子さんが「発達障害って何だろう」と思ったときには、本書に登場する先生や当事者のお話から、いくつかのヒントや答えを見つけてもらえればと思っています。

学校、受験、就職…ポイントやヒントを網羅

尾上 最初に知りたかったことを理解していくと、そこからまた「次はどうすればいいのか」ということが出てくるわけですよね。

黒坂 そうなんですよね。受験も迫ってきますし、どんな学校を選んだらいいのかという点も悩みます。「合理的配慮」という言葉が広がってはきましたが、進学や受験の際は進学先の配慮についても知っておいたほうがいいと思います。

 今は「特別支援教育」が総称ですが、学校として独立している「特別支援学校」、普通校に設置された学級である「特別支援学級」、普通学級に在籍しながら障害に応じた教育が受けられる「通級による指導」など、いろいろな教育形態があります。呼び方は地域や学校によって違うこともあり、分かりにくい場合もあります。どんなサポートを利用すればいいのか、どれが自分の子どもに合うのか、そのための手続きをどうすればいいのかを知っておくとスムーズです。「特別支援教育」という言葉は知っていても、実際にどういう教育がされているのか、中に入ってみるまでは分からないこともあります。

尾上 知る機会はなかなかないですものね。

黒坂 はい。私自身は息子が特別支援教育を受けるなかで次第に理解していったのですが、これから特別支援教育を選ぶ方やその家族の方は、最初からある程度知っておいたほうがいいと思います。

尾上 教育を受けた後の未来の話も出てきますね。

黒坂 自立について考えると、就職支援、医療や福祉サービスなどの制度も知っておいたほうがいいと思います。福祉や制度についても専門家に聞き、多方面から発達障害について光を当てているので、だいぶ厚い本になってしまいました。

尾上 600ページ近くあって読み応えがありますし、関心のあるところだけを読んでも理解が深まると思います。

黒坂 識者の先生や当事者のインタビューの後に、私自身が感じたポイント、皆さんのお話で共通している部分をまとめてあるので、そこを中心に読んでいただいてもいいと思います。

尾上 「インタビューして考えた」という振り返りの部分ですね。

黒坂 インタビューの中で、皆さん同じようなことを言っている部分もありましたし、違う考え方の先生もいました。そういった「ここが違う」「一見違うように見えても、実は同じことを言っている」ことについても、「インタビューして考えた」の中で示しています。

尾上 「インタビューして考えた」だけでも読み応えがありますね。では次回は、序章の「『発達障害』とは、何か?」から深掘りしてお話を伺いたいと思います。

文/三浦香代子 構成/山崎 綾、市川史樹(日経BOOKプラス編集)

音声でこの記事を楽しみたい人は…