中学受験に親としてどう関わり、どんな姿勢で子どもを見守ればいいのか。5人の子どもの父であり、三女の中学受験を一緒に取り組んだ俳優、歌手、タレントとして活躍中のつるの剛士さんに伺いました。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2026年版』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。

「制服が着たい!」自分で受験校を選んだ三女

 三女が中学受験を意識し始めたのは、彼女が小学4年生頃。本人が「お兄ちゃんやお姉ちゃんとは別の中学校に行ってみたい」と言ってきたんです。そのひと言から我が家の三女の中学受験がスタートしました。僕たち夫婦も彼女の意向をかなえるために気合を入れて、受験校のリサーチを開始。様々な学校のパンフレットを取り寄せたり、親子で学校見学に行ってみたりして、あれこれ比較しました。

 偏差値や自宅からの距離などを考えると、夫婦のなかでは、「この学校がいいんじゃないかな」と候補を絞ることができました。ところが娘は、別の中学校への受験を希望したんです。理由を聞くと「学校の雰囲気が気に入った。あと制服を着てみたいから!」とのこと。僕と妻が候補として挙げた学校には制服がなかったんですね。

 最終的には「学校生活を送るのは本人」という原点に立ち返り、本人が希望する学校への受験を応援することに。そして見事合格!

 今は学校生活を満喫しており、親としても本当によかったと思っています。

志望校を決めるのは子ども、親の役割はサポート

 僕が強く思うのは、最後に受験校ひいては進学先を選ぶのは子ども自身だということ。親の役割は「こんな学校もあるよ」と選択肢を伝えることまでではないでしょうか。「海外に興味があるなら、この学校は国際交流に力を入れているみたいだよ」「○○部が強いこの学校はどう?」などの情報は子どもたちにしっかり提供する。

 そのうえで、最終的にどの学校を選ぶかは、やっぱり本人に任せるのが大切だと思います。中学校生活を送るのは親ではなく、子ども自身ですから。

 実際、三女が受験校を選んだとき、僕たち夫婦も「最後に決めるのは本人。僕たちもできる限りリサーチをして、それを彼女に伝えた。だから後悔はないね」と話し合ったのを覚えています。

 学校の雰囲気はやっぱり実際に学校に行かないとわかりません。「声をかけてくれた先輩が明るくてよかったね」「校舎がすごくきれいだったね」など、親子でより温度感のある情報共有ができます。僕自身は実際に学校見学に参加することはできませんでしたが、よく話を聞いていました。

 個人的に中学受験の志望校選びで大切だと思っているのが「保護者の負担が大きすぎないか」という視点です。例えば自宅から遠い学校に通うことになれば、お弁当づくりで早起きが続いたり、授業参観やPTA活動への参加も大変になったりします。親が疲れて、家庭内の雰囲気が悪くなってしまう恐れがあります。すると、子どもはのびのびと学校生活を送れないかもしれません。それは親としても避けたい事態でよね。

 だから僕たち夫婦も「子どもの気持ちは最優先にしつつ、受験校はまずは家の近所から検討しよう」と話し合いました。

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つるの剛士(つるの・たけし)
俳優、歌手、タレント
1975年生まれ。福岡県北九州市出身。2男3女の父親。1997~98年放送の『ウルトラマンダイナ』の主演を務めて以降、俳優、歌手、タレントとして幅広く活躍。子育てにも積極的に関わり、2022年に幼稚園教諭二種免許、保育士資格を取得。25年、東京未来大学こども心理学部通信教育課程を卒業し、非常勤で幼稚園教諭として勤務している。趣味は、将棋、釣り、楽器、サーフィン、バイクと多彩。著書に『 「心はかけても手はかけず」つるの家伝統・見守り育児 つるのの恩返し 』(講談社)がある。(写真:八藤まなみ)

子どもと経験を共有し行動で示す

 僕たち夫婦は、子どもたちに「勉強しなさい」と言ったことがありません。ただ、大変だったのが、長男の中学受験でした。とにかく勉強が嫌いで、ついには「塾にも行きたくない」と言い出したんです。普通であれば「塾に行きなさい! 勉強しなさい!」と一喝するところでしょうが、そのとき“おバカタレント”とも呼ばれていた僕が言っても響かないなと思ったんです。そこで「じゃあパパも塾に行って勉強する!」と宣言し、息子と同じ塾に通って勉強を始めました。

 その結果、息子も自然と机に向かうようになりました。このときに痛感したのは、「親が行動で示すこと」の大切さです。結局のところ、親が口で言っても子どもは言うことを聞きません。楽しそうに勉強する僕の姿に息子は刺激を受けて教科書を開くようになったのだと思います。

「『親が行動で示すこと』が大切」(写真:八藤まなみ)
「『親が行動で示すこと』が大切」(写真:八藤まなみ)
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 これは勉強に限らず、親子の約束を守ってほしい場面でも同じだと思います。例えば、親御さんのなかには、「子どもが約束の時間を守らずにずっとゲームをしている」と悩まれている方も多いでしょう。僕自身も同じ悩みを抱えていました。

 でも僕は、ゲームにもよい面があると考えています。ゲームから歴史を学んだり、戦国武将の名前を覚えたり、音楽の素晴らしさを知ったりした経験があるからです。僕は「ゲームをやるとバカになる」と言われた世代ですが、僕自身は、ゲームも教科書の一部のような存在だったと感じています。

 だから僕は「ゲーム=ダメなもの」と一蹴するつもりは毛頭ありません。そこで、まずは息子が夢中になっていたゲーム『Minecraft(マインクラフト)』を自分でもやってみたんです。すると、これが面白いのなんの。子どもが夢中になる理由がよくわかりました。

 そのうえで「パパもこのゲームが面白いのはよくわかった。でも時間を決めて遊ぼう」と話すと、息子はきちんとルールを守るようになりました。

 もし自分が一度もゲームを体験せず「やめなさい」と言っていたら、聞く耳をもたなかったでしょう。子どもからしたら「このゲームの面白さを知らないのに、そんなこと言わないで」という気持ちになるはずです。

 だからこそ、僕は子どもに親子の約束を守ってもらうためには、できる限り親自身が子どもと同じことを経験したうえでコミュニケーションをとることが大切だと思っています。

<ルール>
・1時間半やったら1時間きゅうけいする。時間をまもる。(8時半まで)
・ゲーム中イライラしたり、わる口をいわない。
・しゅくだいをやってからやる。
・きゅうけいはテレビやけいたいじゃなくて、外やおもちゃであそぶ。
・ルールをやぶったらもうやらない。


ゲームについてのルールは、つるのさんの息子さん自身が決めたもの(誓約書)。そのルールをしっかり守りながら、ゲームと勉強に励んでいるそうです(写真:つるのさん提供)
ゲームについてのルールは、つるのさんの息子さん自身が決めたもの(誓約書)。そのルールをしっかり守りながら、ゲームと勉強に励んでいるそうです(写真:つるのさん提供)
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 またわが家では「家は安全地帯である」という考えを大切にしています。子どもたちは学校や部活動など、自分の社会のなかで日々頑張っている。だからこそ、家は「安心して心を緩められる場所」であってほしいと思っています。

 そのために僕は「帰宅した子どもにガミガミ言わないこと」を心がけています。カバンをソファに放り投げる、制服のままベッドにダイブする、靴をそろえない…。よくあることですが、そのときも「おかえり~。お疲れさん!」という声かけだけして、あとは何も言いません。注意が必要なときは子どもが落ち着いたタイミングで伝えるようにしています。特に受験直前のようにピリピリしがちな時期は、家が心安らげる場所であることが何より大切だと思っています。

つるの家のリビングは、家族が自然と集まる場所(写真:つるのさん提供)
つるの家のリビングは、家族が自然と集まる場所(写真:つるのさん提供)
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「心配」より「信頼」の気持ちで見守る

 僕は2022年3月に小田原短期大学の通信教育課程を卒業し、幼稚園教諭二種免許を取得しました。同年に保育士資格、25年は認定心理士の資格を取得しました。現在は芸能の仕事をしながら、非常勤の幼稚園教諭としても働いています。

幼稚園教諭としても働くつるのさん。勤務先の園児からプレゼントされたのは、ウルトラマンダイナの塗り絵です。これからは、子育てや保育の経験を生かして、パパやママが気軽に悩みを相談できる場をつくりたいと話します(写真:つるのさん提供)
幼稚園教諭としても働くつるのさん。勤務先の園児からプレゼントされたのは、ウルトラマンダイナの塗り絵です。これからは、子育てや保育の経験を生かして、パパやママが気軽に悩みを相談できる場をつくりたいと話します(写真:つるのさん提供)
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 このように、大人になって勉強を続けている僕ですが、学生時代はほとんど勉強をしてきませんでした。そんな僕に勉強の楽しさを教えてくれたのは、まさに子どもの中学受験です。勉強嫌いの長男の中学受験をきっかけに通い出した塾での勉強が、とても新鮮で面白かった。例えば歴史でも「こういう時代の流れがあって奈良の大仏がつくられた」と理解できると、立体的に歴史を捉えることができるようになりました。中学受験で一番変わったのは、子どもではなく親である僕かもしれません(笑)。

 大切な子どものことですから、保護者が「中学受験は人生の分岐点になる」「少しでもよい学校に行かせたい」と考える気持ちはよくわかります。わが家もそうでしたから。でも、やっぱり最後に決めるのは子ども自身です。「この中学校に進学したら、こういう高校・大学に進学できて…」というように、親の想定通りに子どもの人生は進みません。たとえ進んだとしても、いつか子どもは「親が希望する学校に入ったけど、私はこういう道に進みたい」と方向を変えていきます。

 だから、親にできることは、人生の先輩として選択肢を見せてあげることまでだと思います。

 そして、「信じているからね」「頑張ってね」と声をかけることで、子どもは「信じてもらえている」と感じ、のびのび挑戦できるはずです。子どもには、自分で育っていく力が備わっています。その力を信じることが何より大切です。だから特別な言葉をかけるのではなく、「信じているよ」という姿勢で関わっています。

 また、「パパとママの子だから大丈夫」と言えるように、親自身も努力しなければなりません。子どもが頑張っているなら、私たちも一緒に頑張ろう――そんな気持ちです。「よし、パパも勉強を頑張るか」と声をかけ、一緒にわからないところを調べたり学んだりする。そうして肩を並べて学ぶ関わり方が、子どもの力を伸ばすことにつながると思っています。

 ぜひ「心配」よりも「信頼」の気持ちで、お子さんの中学受験を見守ってあげてください。それがきっと、お子さんの大きな力になります。

取材・文/加茂 歩

中学受験の今を知り、未来を決める1冊

最新の受験情報から基礎知識、塾選び、マネープランまで知っておきたい情報が満載。巻頭特集では、長く続く受験期で大切な夫婦間、子どもとのコミュニケーション手法を五百田達成さん(作家・心理カウンセラー)、にしむら先生(受験指導専門家)が具体例をあげて解説。

日本経済新聞出版編/日本経済新聞/1760円(税込)