管理職に就いたけれど、自信が持てない、悩みが尽きない…何かヒントはないか──そんなときぜひお薦めしたいのが、市原義文さんの著書『いつも結果を出す管理職が必ずやっている80のこと』です。本書に一貫している、簡潔で分かりやすく、真っすぐに届く言葉は、どのような経験から導き出されたのでしょうか。市原さんご自身に語っていただきます。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
管理職が最低限すべき3つのこと
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 『 いつも結果を出す管理職が必ずやっている80のこと 』の2回目です。今回も、本書の著者である市原義文さんと、編集を担当された小田舞子さんをゲストにお迎えしています。
さて、本書を読む前に『いつも結果を出す管理職が必ずやっている80のこと』というタイトルを見て、正直、「80も!」と思ってしまいました。
市原義文(以下、市原) 最初は、誰もが気軽に読めるイメージで、180ページくらいにするつもりでした。「部下のやる気を引き出すのが難しい」「上からのプレッシャーがつらい」「責任は重いが給料は上がらない」「仕事が終わらない」といった管理職の悩みに答えつつ、ライトな感じで書き始めたのですが、「悩みに答えるだけでは正しいことは伝わらないな」と思っていろいろ書き足していたら、かなり増えてしまったんです。項目の数も79くらいになり、ここで終わりにしようかとも思ったのですが、最後に「どうしてもすべてが嫌になったら」を追加しようと決めました。管理職といってもスーパーマンではないですから。そうしたら、項目は80になり、280ページにもなってしまいました。
尾上 でも、項目の一つひとつはコンパクトに書かれていて読みやすいですね。
市原 最初から最後まで全部読まないといけない構成ではなく、困りごとを12のシーンに分けているので、ピンポイントで読んでもらってもかまいません。
尾上 12のシーンとは──
1. 課長への昇進を打診された
2. 着任が決まった
3. 着任前後の準備を始める
4. 通常業務を回す
5. 部下と仕事を進める
6. 人事評価をする
7. 業績が上がったとき、落ち込んだとき
8. 上司に提案する
9. トラブル予防&対応
10. ハラスメントとメンタルヘルス対応
11. 上司との関係に悩んだとき
12. 長い目で考える
──ですね。「今の自分にはここが必要かな」と拾いやすく、分かりやすいですね。
市原 はい、その点は意識しました。ただ、大前提として「この3つだけはやってほしい」ということは、本編の冒頭に書いています。
尾上 「管理職が最低限すべき3つのこと」ですね。なので、実際には「80+3」ということになります。
市原 その「3つ」とは──
1つ目が 上司に対しても部下に対しても「対話は頻度」を心掛ける
2つ目が 上司からだけでなく、部下からの依頼にもスピーディーに対応する
3つ目が 信頼関係を築くための努力を怠らない
──ですが、この3つがないと80にはたどり着けないかな、と思います。そしてこれらはすべて「信頼関係」にひも付いています。3つ目で挙げたように、信頼関係を築くために必要なことは、とにかく怠らずにやってほしいですね。
信頼関係がもたらす「あの人のためなら」
尾上 常に意識すべきなのが「信頼」というキーワードということですね。
市原 一から信頼を築くのは地味で大変だし、面倒臭いなと思うかもしれませんが、その山を越えるとすごくやりやすくなります。「あの人のためだったら、ちょっとやってあげようか」と周囲に思ってもらえれば、自分1人がしんどい思いをしなくてもよくなります。ただ、築城3年、落城1日。信頼関係を築くのは大変でも、失うのはあっという間なので、それを忘れてはいけません。
尾上 そうですね。また、ありがちなのが、上司や偉い人から言われたことだけをすぐ対応しようとすること。2つ目に挙げられた「部下からの依頼にもスピーディーに対応する」ことは、もしかしたら、イメージしづらい人もいるかもしれません。
市原 部下の立場からすると、そうしてくれない上司に対しては「あの人(上司)は、上しか見ていない」と感じてしまいますよね。そしてその上司から「じゃあ、君がやってよ」なんて言われても、「なんであなたのためにやるの?」となってしまうかもしれない。そうなると生産性が落ちますし、成果の内容も薄くなってしまいます。
でも、部下からの依頼に素早く対応して「えっ、あの人はあんなに忙しいのに私の言ったことをやってくれたんだ」となれば、「忙しい上司がこれだけ時間を割いてくれるんだったら、私が頑張らなきゃ」と思う部下が少しずつ増えていくと思うんですよね。
知り得なかった自分に出会える面白さ
小田舞子・日経BP 本書のカバーをめくると「市原語録」を端的な言葉でまとめてあり、そこでも取り上げていますが、1つ目の「対話は頻度」は重要なメッセージですね。
市原 「対話は頻度」を説明すると、1週間に一度、1時間たっぷり話すよりも、毎日5分でも話すほうが相手との距離感がすごく縮まります。「今度たっぷり時間を取るから」と言っておいて1カ月どころか半期に一度という人もいるかもしれませんが、それだったら「おはよう」「元気にやってる?」「昨日言ったあれ、どうなった?」とちょっとしたことでもいいので、できるだけ対話の頻度を増やすほうが相手との距離は近くなります。そうすると親しみが湧いて、ひいては信頼にもつながります。私自身、現在も「対話は頻度」を心掛けて、試行錯誤しているんですけどね。
尾上 そうなんですね!
市原 物理的に部下と会えなくても、チャットを使うなどしてこまめに声を掛けています。コミュニケーションツールはいろいろあるので、簡単なこと、ちょっとしたことでいいので、相手に伝える。「対話は頻度」はいろいろな場面で効果的だと思いますよ。
尾上 本書の「はじめに」に書かれていますが、管理職と部下の違いも大事なポイントですね。
市原 管理職は会社からの指示を出す立場で、部下や一般社員は指示される立場です。指示する側と指示される側というのは、本当に大きな違いです。会社側に立つということは、自分の発言一つひとつが場合によっては会社の代表と思われるかもしれません。一言の重みが大きく変わってきます。
もう1つは、会社側だからこそ知り得る情報がある、ということ。一般社員のときには分からなかったことが分かるようになって、自分が意思決定をしたり方向性を決めたりするときにも、判断の内容が一般社員だった頃とは変わってきます。会社側にいるということは、会社の方針を実現させないといけないし、文句を言う部下の意識を変える努力をしなければなりません。
これだけ聞くと「うわっ、大変そう」と思う人がいるかもしれませんが、管理職になり情報が増えると視野や視座が変わるので、同じ会社にいるのに見える景色が変わってきます。自分の考えが広がり、今まで意識してこなかった次のキャリアを考えるきっかけになるかもしれません。このように知り得なかった自分自身に出会えるかもしれないということは、管理職の面白さの1つです。
文/三浦香代子 構成/山崎 綾、市川史樹(日経BOOKプラス編集)
