大学受験対策といえば、猛勉強して知識を頭にたたきこむこと――長らくそんな時代が続いていました。しかし今、大学受験が大きな変化を遂げています。センター試験が大学入学共通テストに変わったことを筆頭に、それまで知識を問うものであった一般入試は、思考力や表現力を問うものに変わりつつあります。それ以上に大きく変わっているのが、「総合型選抜」と「推薦入試」です。いまや大学生の50%は、一般入試以外の方法で入学しているといいます。今、大学受験では、どんな変化が起こっているのか? 新刊『 勉強嫌いな子でも一流難関大学に入れる方法 』(竹内健登・著)から抜粋します。2回目は、従来の詰め込み教育はどう変わるのか。大学入試改革で変化した「求められる能力」について考えます。
新しい大学入試、評価されるポイントは?
前回 、大学入試改革の影響によって、近年、「アピール基準の入試(総合型選抜・公募推薦。以下、アピール入試)」での募集枠が急増しているという話をしました。
これらの入試は、学力以外の側面も含めて受験生を見るという前提と、その試験内容に傾向はあるものの、具体的な試験内容や基準は大学によってまちまちです。ただし、複数の評価項目の総合点で「大学が求めている学生像であるか、否か」が問われる試験ということは間違いありません。
そこで本稿では、その試験の傾向と、合格するために求められる能力について考えます。
なお、公募推薦は学校長の推薦が必要で、総合型選抜は不要という差はありますが、実際の試験内容がほとんど同じという大学は少なくありません(一般的には、公募推薦が高校ごとに応募人数の上限が決まっているなど条件が厳しいのに対し、総合型選抜のほうが応募条件は緩く、その分提出書類などが厳しいという傾向にはあります)。
また、同一大学の総合型選抜と公募推薦を両方とも受験できる大学も少なくありません。実際に受験する場合には、各大学の募集要項をしっかり確認して臨みましょう。
受験生こそ考えるべき「大学の存在意義」
そもそも「大学」とは、何のためにあるのでしょうか? 実は、上位大学のアピール入試を攻略するための近道は、この「大学の存在意義」にあります。
というのも、「相手が何のために存在していて、どういった人材を求めているのか」によって、求められるアピールはまったく変わってくるからです。
このことは、恋愛を例に考えてみれば分かりやすいと思います。好きな相手にアプローチするとなったら、相手が気にしていることや大事にしているポイントをできる限り調べて、応えようとするのではないでしょうか。相手を喜ばせよう、という気持ちからスタートすることが多いはずです。
アピール入試も同様です。合わないところ、相手のこだわりとは違う点があったとしても、まずは合いそうな点、相手を喜ばせる点をアピールする。自分の好みやこだわりばかりを押しつけても、うまくはいきません。
アピール入試のスタートは、このように「上位大学がアピール入試で何を見ているのか」「どんな能力を測ろうとしているのか」を考えることです。そのうえで、「どう取り組んでいくか」「どう表現するか」と考えなければ、そもそも話を聞いてもらえません。
結論からいえば、大学は「学問や研究をするところ」です。学問や研究とは、まだ分かっていないこと(法則、因果関係、技術、解決策など)を調査、実験などによって明らかにすることをいいます。
その新しく分かったことを論文によって世の中に広く知らしめることによって、科学技術の進歩や社会の発展、社会問題の解決に貢献するのが大学の存在意義です。ここに、高校までの学びと大学以降の学びの大きな違いがあります。
高校までの学びは「すでに分かっていること」を扱うのに対して、大学は「まだ分かっていないこと」を扱います。また、高校までは「誰かが明らかにした知識が与えられる場(受動的)」ですが、大学は「まだ誰も明らかにしていないことを解き明かす場(能動的)」であるともいえます。
目標設定という面においても、高校までは「求められる習熟度」や「偏差値」という形で与えられるものがありますが、大学の学びでは自分で決めることが求められます。そう、大学の学びは、「まだ分かっていないこと」を「能動的に、自分で目標を決めて、解き明かしていく」ということなのです。
だから大学は◯◯な学生を求めている
では、そんな大学が求めているのはどんな高校生でしょうか?
もちろん、その答えは「研究によって未知の領域に挑もうとしている人材」です。よって、「〇〇学を学びたい」という高校生よりも、「〇〇学の知見を生かすことで、現在課題となっている〇〇の社会問題への新たな解決策を模索したい」「〇〇の技術を生かして、新たな物質や法則性を解明したい」という高校生のほうが「欲しい人材」ということになります。それが大学の存在意義だからです。
そんな人材に研究室に入ってもらい、鍛え上げることで、研究を進めてもらうというのが、教授が望んでいることなのです。
その研究を進めるためには、自分で未知の問題に対して仮説を立てて検証していくようなIQと、その過程で周囲の協力を得ながらデータ収集やインタビューを行っていけるだけのEQが必要です。
ということで、大学入試で見られていることは、研究活動を実行していく際に必要となるIQとEQがあるかどうか、という点だといえるでしょう。
「試験官=学者」という特殊性
また、絶対に忘れてはいけないのは、基本的に面接官や採点者は教授である、ということです。
例年、アピール入試で、高校時代にやってきたスポーツをはじめとする部活について熱く語る高校生が多いですが、教授にその思いが伝わるかどうかは分かりません。というか、私の経験上、教授にはインドア派の人やスポーツに興味がない人も多くいます。また、そうでなくてもスポーツの経験が研究に生きてくるとはみじんも考えていないはずです。
スポーツ科学系の学部かスポーツ推薦以外の場合には、スポーツそのものをアピールポイントにはしないほうがいいでしょう。そうではなくて、スポーツを活用した社会課題の解決方法の模索や、スポーツを通した高齢者向けの社会政策などの文脈で書類や面接の準備をしたほうが、はるかに有効です。
こうしたことをはき違えてしまうと、大学教授にはまったく響かない、トンチンカンなことを書類でも面接でも熱く語ることになり、アピールを聞き届けてもらえないことになりますので注意してください。

竹内 健登(著)、日経BP、1760円(税込み)