「受験」に向き合うために金融機関を退職して受験総合研究所(じゅそうけん)に仕事をフォーカスした伊藤さん。幼・小・中・高・大の受験を網羅した書籍はないと思い、『 子どもが沈まない 親が無理しない 小中高大受験戦略 』(日本経済新聞出版)を出版しました。2回にわたるインタビューの前編では、中学・高校受験をとりまく勢力図の変化と、中学受験のコスパについて語ってもらいました。
人生を懸けて受験に向き合う覚悟
受験総合研究所(じゅそうけん)代表の伊藤滉一郎です。「受験」と名の付くものはすべて扱っています。幼稚園から小・中・高・大、最近は海外大学の進学や就職試験などの選抜入試を分析し、SNSや動画で情報発信をしています。
もともとは大学受験向けのコンテンツしか発信していなかったのですが、ものは試しにと中学受験を扱ったら、すさまじい反響がありました。「受験親(受験生を持つ親)への情報発信が求められているんだな」と気づき、そこから大学受験以外も扱うようになりました。
最初に申し上げると、私は教員や塾講師など教育関係の仕事の経験はありません。大学卒業後は金融機関に勤めていました。しかし、入社2年目で新型コロナウイルス禍になり、在宅勤務が増えたときに「これが本当にやりたい仕事なのか」と自分を見つめ直しました。自分が一番好きなのは受験だ。そう再確認し、最初は副業的にオンラインの家庭教師サービスをはじめました。
ちなみに私の「受験好き」は高校野球に関係しています。小学校の自由研究でその歴史を調べるほど、高校野球が好きでした。受験も「東大に一番多く合格者を出すのは開成か、筑駒か」などと、どちらかを勝者とするトーナメント戦的な要素を感じます。また、何十年も前に卒業したOB・OGが母校の合格実績を気にかけ、応援し続けるのも高校野球に似ていると感じています。
その後、人生を懸けて受験に向き合うため、2021年に金融機関を辞め、22年に受験総合研究所を立ち上げました。今は受験に関する情報発信のほか、塾のサポート、教材制作なども手がけています。Xのフォロワーは当初2万人ぐらいでしたが、現在は11.9万人です。
「流されて受験」は親子ともに疲弊する
現在、私のフォロワーで多いのは受験親です。高校受験以降になると受験生本人がSNSや情報を見るのですが、中学受験よりも下の年齢となると、受験親が前のめりになって情報を取ろうとしています。特に自身は地方で育ち、「地元の公立高校から国公立大学に進学するのがベスト」だと思っていたけれども、首都圏の受験は難しすぎる、と考えている親も多い印象です。
世の中では幼稚園や小学校受験をした人はそれに特化した情報を発信するし、中学受験塾の先生はそれに肩入れした本を書きます。意外と幼・小・中・高・大の受験を網羅し、地域差についても触れた本はない。受験が好きで見つめ続けてきた自分ならば書けるのでは──と思い、今回の『 子どもが沈まない 親が無理しない 小中高大受験戦略 』を書きました。
昔から難関大学というのは、それほど変わりません。トップに東大、京大、旧帝大があり、私立なら早稲田、慶應、GMARCHといったランキングです。
ところが、中学、高校はすぐに勢力図が変わります。代表的な例はすっかり人気校となった渋幕(渋谷教育学園幕張中学校・高等学校)でしょう。前校長の田村哲夫さんが「自調自考」を教育理念に掲げ、国際化に特化した授業を行うことで、一気に東大など難関大学に合格する生徒が増えました。
首都圏では中学受験が過熱する一方で、多数ある学校から「いったいどの学校を受ければいいのか」「そもそも中学受験をするべきなのか」と悩む親が多いと思います。
私は実際に中学受験を経験した子どもたちにインタビューをすることがありますが、その中で「中学受験よりも高校受験のほうが結果を残せたのに」という子どもが何人もいました。「小学校のうちは勉強の重要性に気づいていなかったけれど、中3になったら勉強に目覚めた」という子どもが多いのです。
地元の公立中学校に進学することに特に問題がないなら、高校受験でもいいはずです。しかも、高校受験ならそこまでにかかる費用は中学受験の約半額。伝統的な進学校は早慶などの有名大学に指定校推薦の枠を持っていることが多く、中学受験に流れる子どもが多い今、「穴場」でもあります。実は大手進学塾から中学受験、中高一貫校に進学という今の首都圏に多い既定路線は、実はコスパが悪いかもしれません。
その最たる例が、「何となく受験」。ママ友などのコミュニティーがあると「みんなが塾に通っているから」という理由で低学年のうちから塾に入り、塾に言われるがままに中学受験に参戦する。しかし、子ども本人にやる気がなければ、偏差値はそんなに簡単には上がりません。そして、親子ともに疲弊してしまう。『子どもが沈まない 親が無理しない 小中高大受験戦略』は、まさにそんな「何となく受験」に陥りそうな家庭に向けて書いた本です。
大事なのは子ども本人の適性を見極めること
ちなみに「無理だったら途中で撤退すればいい」と塾に子どもを入れる家庭もあります(特に父親が言いがちな印象があります)。先日、大手中学受験塾のSAPIXで講師を務めていた方に聞いたところ、「小6で撤退する子どもは1%もいない。もう、一度はじめたら走り抜けるしかない」とおっしゃっていました。やはり親子ともに「なぜ、受験するのか」という軸と覚悟を持った上で臨むべきだと思います。
また、「忘れ物が多い」といった生活面の課題がある場合、内申点に影響することがあるため、高校受験よりも中学受験が向く傾向にあります。美術や音楽といった実技の成績が伸びないために内申点が取れず、数学や国語、英語などが苦手ではないのに進学校に行けないというパターンもあります。反対にオールマイティーに何でもこなせるタイプは内申点の恩恵を受け、高校受験が向いているという例もあります。
もちろん、私は中学受験を否定するつもりはありません。勉強が好き、塾で切磋琢磨(せっさたくま)するのが楽しい、だから偏差値も上がるという子どももいます。
やはり、大事なのは子ども本人の適性を見極めることです。
次回は幼・小・中・高・大学、それぞれの受験と学校選びの正解についてお話します。
取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/品田裕美
伊藤滉一郎(じゅそうけん)著/日本経済新聞出版/1870円(税込)


