2026年9月、作家の柚木麻子さん、朝井リョウさん、タレントのでか美ちゃんさんによる書籍『 柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう 』(シーディージャーナル)が発売されます。同書は、音楽雑誌『CDジャーナル』で2015年から10年以上続く連載を書籍化したものです。
 3人は「柚木麻子with Journal2」というユニット名で、ライブ活動もされています。でか美ちゃんさん主催フェスでのパフォーマンスに向けた練習に力が入る都内某所のダンススタジオで、詳しいお話を聞きました。「答え合わせをせず妄想する」小説家の性(さが)と、現場でしか出会えない景色を持ち帰るオタクの目線。ハロプロへの向き合い方を突き詰めた末、柚木さんがたどり着いたのは、まさかの「のど自慢」挑戦だった。パフォーマンスさながらに息のそろったお三方の思いがあふれる内容を4回に分けてお届けします(今回は2回目)。

3人は、「柚木麻子with Journal2」というユニット名で活動している。右から朝井リョウさん、柚木麻子さん、でか美ちゃんさん
3人は、「柚木麻子with Journal2」というユニット名で活動している。右から朝井リョウさん、柚木麻子さん、でか美ちゃんさん
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妄想視点と一次情報のバランス

柚木麻子(以下、柚木):今回書籍化する、ハロー!プロジェクト愛から始まった私たちの連載「ハロプロの行間を徘徊する」「流れる雲に飛び乗ってハロプロを見てみたい」(『CDジャーナル』)では、自分たちのことを、あくまで「装置」だと考えていたんです。主体はハロプロであって、私たちじゃない。ハロプロって、裏側を見せすぎないし、言葉で説明しすぎない良さがあるじゃないですか。だからこそ、その余白を私たちが勝手に言葉で埋めて、ああだこうだ解釈するのが、この連載だった。

 ただ、最近は物語として完成度の高い作品もたくさんあって。もちろん私たちもそういう作品は大好きなんですけど、そこまで作品の中で語り切られていると、もう我々の出る幕じゃないなって思うこともあるんです。

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柚木麻子(ゆずき・あさこ)
作家
1981年、東京生まれ。2008年『フォーゲットミー、ノットブルー』でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書『 BUTTER 』は世界40カ国・地域で翻訳され、2024年刊行のイギリス版は大手書店チェーンWaterstonesが選ぶ「Book of the Year 2024」など多数受賞

朝井リョウ(以下、朝井):そもそも我々の“出る幕”なんて一つもないんだけどね……だけど、勝手にああだこうだって解釈するのが、すごく楽しかったんだよね。

 私と柚木さんは、小説家の悪い癖というか、一行の情報から答え合わせなしの妄想を拡げるのが好きなんです。例えば、つんく♂さんが作った校歌。一般的に校歌というのは身近な景色やその土地の特徴を歌詞にするケースが多いと思うんですけど、つんく♂さん作の大阪府東大阪市立布施中学校の校歌『我が希望たち』は「がむしゃらと はちゃめちゃの 違いくらいは わかるだろう」とか「羽ばたけ 引き下がるな」とか「他人(ひと)をねたむな」とか、校歌らしからぬ言葉が出てくる。今回の本の中には、この校歌が託された音楽教師の目線、生徒の目線、卒業生の目線などで勝手に物語を作って架空のアンソロジーを編んだりしているんです。その延長で、「この子はこういう子なんじゃない?」って、ハロプロのメンバーにも勝手な妄想をぶつけちゃうことがよくあって。

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朝井リョウ(あさい・りょう)
作家
1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』など多数。最新作は本屋大賞受賞作『 イン・ザ・メガチャーチ

柚木:そう。私と朝井さんはどちらかというと、現場に行かずにあれこれ言っちゃうタイプだけど、でか美さんはちゃんと現場に行く人だよね。

朝井:だから私たちの勝手な妄想に対して、「その子はそんな子じゃないですよ」と、でか美さんが、ちゃんと現場で見たことを教えてくれる。

でか美ちゃん(以下、でか美):単に私は、純粋なオタクなんです。いわゆる“在宅オタク”をバカにしているわけでは全然ないんですが、私自身は、現場に行けば行くほど熱量が上がるタイプ。公式映像には残らない情報とか、歌割りじゃないときにその子がどうしているのかとか現場に行くと見えるから。コンサートに行かないとわからないことを持ち帰ってくる係、みたいな感じですね。

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でか美ちゃん(でかみちゃん)
タレント・アーティスト・歌手
1991年、三重県生まれ。多方面から評価される的確なコメント力を武器に、場所を選ばず大活躍。自身の楽曲の作詞作曲やライブ活動、楽曲提供、コラム執筆などジャンルやメディアにとらわれず活動中。最新曲は絵恋ちゃんとのユニット「でかえれ友情物語」の楽曲『でっかい偉い友情』

朝井:だから、本当に本当に助かってます。

柚木:そうやって現場のことを教えてくれるのがありがたくて。でか美さんが現場でしか見たことのない美しい景色の話をしてくれるのが好きなんです。「青色ニキ(ライトブルー担当のファンの男性)の話」とかね。

でか美:「青色ニキ」の話、ありましたね。

 私、メンバーカラーがライトブルーの子をずっと推していたんですけど、その子が卒業した後もグループのライブには通っていたんです。現場に行くと「でか美さんですか?」と声をかけてもらうことが多くて、「推しメンが卒業しても来るなんて偉いですね」なんて会話しながら、オタク同士のいじりで「今日は何色のペンライトを振るんですか」と聞かれたんです。ライトブルーの子はもう卒業しているから。

 私が「推しメンがいないときは、だいたいリーダーの色を振ってるんですよね」と答えたら、リーダーの色はライトパープルなんですけど、「ライトパープルのふりして、本当は人気のパープルの子に推し変してるんじゃないの?」っていじられて(笑)。

 相手もライトブルー担当だった人なんだけど、青いTシャツを着ていたので、「そっちだってロイヤルブルーのTシャツ着てるじゃん」って言い返したら、

「ライトブルーの子の卒業で泣きすぎて、青が濃くなっちゃったんだよ」

 と返されて。ライブが終わって振り返ったら、そのおじさんも泣いてた。2人で「泣いちゃいましたね」って言いながら帰ったんです。

朝井:素敵。おしゃれ。

柚木:なんかもう、アメリカの短編小説みたいな話だよね。

朝井:私がすごい好きだったのが、皆既月食の夜の話。でか美さんがイベントの帰り道、街ゆく人がみんな空を見上げて月食を見ていたんだけど、でか美さんはイベント帰りだったからオペラグラスを持っていて、それで月をすごく綺麗に見ることができたんだよね。でも、でか美さんがオペラグラス越しでその日一番綺麗だと思ったのは、「月」じゃなくて、「メンバー」だったっていう。そういう、現実の一瞬にしかない文学を持ってきてくれるんだよね、でか美さんは。

『柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう』(シーディージャーナル)
『柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう』(シーディージャーナル)

推し愛をこじらせたら「のど自慢」に出たらいい

柚木:3人でハロプロとの向き合い方を真剣に考えているうちに、私も出産やコロナ禍で家から出られなかった時期を経て、自分が一度歌ってみたほうがいいのではないか? と思い立ちました。「客体化される」「消費される側に立つ」ってどういうことなんだろうと。それで「のど自慢」に出ようと思いついたんだけど、私は歌が下手だから、どうやったら歌がうまく見えるかなと考えたときに、バックダンサーをつけたら必然的にうまく見えるんじゃないかと思って。

 山手線の中で朝井さんとでか美さんに相談したら快諾してくれて、実際に申し込んだら、「え、本当に申し込んじゃったの?」みたいになって(笑)。それで練習が始まって、もう3年目になろうとしてる。

朝井:今、歴史が改ざんされました。本当の始まりは、柚木さんがただ単にのど自慢大会で優勝したかったからでしょ。覚えてるよ、そう言ってたの!

柚木:優勝したかった(笑)。単に目立ちたかったっていう。

鋭い朝井さんのツッコミにすぐ本当のことを白状してしまう柚木さんと大笑いの朝井さん
鋭い朝井さんのツッコミにすぐ本当のことを白状してしまう柚木さんと大笑いの朝井さん
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朝井:でも、あとから言語化された客体化の話もちゃんと真実ではあるんです。ステージを経て学んだことが本当に多かった。それにしても、活動を始めて2年目に出た大会は、優勝まであと一歩だったと思う。次点だったと信じてる。2年目は、かなりレベルが上がった実感がありました。

でか美:1年目は箸にも棒にもかからなくて。

柚木:ハロオタの友だちが見に来て、いろんな意見をくれたんだけど。1年目に出た、某住宅地で開催された参加者全員歌える「住民のど自慢大会」のときの破壊的な歌の下手さと“ド上がり”。あのときが一番面白かったって言われたんだよね。

でか美:そうそう、初期衝動しかない頃が一番良かったんじゃないかっていう声もあったんですよね。ただ注意してほしいのは、その感想をくれたハロオタの友だちはハロプロの研修生が好きな人。そもそも初期衝動が好きなんです。だから、その言葉に惑わされちゃいけない。柚木さん、それで練習サボろうとしてましたよね?

柚木:そう、練習しなくていいんだーと思って(笑)。

朝井:違う、違うよ!

柚木:ハロプロのメンバーって、「最初の頃のほうが良かった」とか、「髪染める前が良かった」とか、言われるじゃん。こういう言葉を浴びながら、完璧に体調管理して、完璧なパフォーマンスをしているわけで。すごいなあって思った。

「自分がやる側に立ったからこそわかったハロプロメンバーのすごさがあった」と語る柚木さん
「自分がやる側に立ったからこそわかったハロプロメンバーのすごさがあった」と語る柚木さん
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朝井:のど自慢大会に出るときの予選は1曲だけだけど、この2年間ステージをやっている世田谷文学館では30分という時間をいただけて、毎年3曲ずつパフォーマンスしているんですよ。その練習を経て、「これが日常って……アイドル、どんな仕事でも大活躍だよ!」って思い知った。だって1回の公演につき2、30曲とか覚えてるわけでしょ。歌詞、振り付け、場位置、MC……自分で実際にやってみると、改めてそのすごさを痛感しました。

 アイドルの方々がインタビューで「私たちはこの仕事しかできない」、「一般的な仕事はできない」みたいに仰っているのを見ると、「いやいや、これができる人は何だってできるよ!」って思うくらい、本当にマルチタスク。我々はすぐ不貞腐れたりするけど、そのうえでずっと笑顔って……ねえ!?

柚木:だから、推しに対する思いが複雑になっている人は、1回、のど自慢で推しの好きな曲を歌ってみるのは全然ありだと思う。エントリーしてみるだけでもいい。推しへの期待が過剰に高まったり、逆に冷めて嫌いになっちゃったりする前に。

朝井:応援する対象との距離感、難しいですからね。

柚木:愛憎が入り混じってる人ほど、一度、推しがやっていることと同じことをやってみると、「とんでもないことをやってるんだな」とわかるから。それは、悪くない経験だと思う。

「サボらない人たち」への気づき

でか美:私、一応ステージに立って歌う人間なんですけど、ダンスについてはとにかくサボってきたんですよ。自分にはできないことだと思って、ずっとやってきませんでした。

朝井:そうは見えないですよ!

でか美:さっき柚木さんのサボる話が出ましたが、サボろうと思えば、歌もダンスもいくらでもサボれる世界じゃないですか。でも実際にステージに立ってみて、お2人の言う通り、ハロプロの子たちはこんなに難しいことをやっていたんだと気づいて。サボろうと思えばサボれたはずなのに、「サボらなかった人たち」なんだなと思い知りました。

朝井:あと、グループの中で自分がどういう立場になるのかっていうのを、いやでも疑似体験させられるよね。私はリーダーぶるサブリーダーみたいな役割のタイプだということを、とても自覚した。

でか美:朝井さんって、決まってないことが嫌なんだよね、性格的に。

朝井:そう。連載の対談日程とかダンスの練習日とか、そういうスケジュールが全部決まっていないと気がすまない。だから自分でやろうとしちゃうの。

自身は「リーダーぶるサブリーダーみたいな役割のタイプ」と自己分析する朝井さん
自身は「リーダーぶるサブリーダーみたいな役割のタイプ」と自己分析する朝井さん
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でか美:私は決まってないことが全然不安じゃなくて。だからこの仕事してるんだろうなって思う。

柚木:例えば連載の対談日程も、私はCDジャーナルの編集長に「何日ですか?」「間に合うんですか?」と聞いているだけ。自分では決めない。そういうときに朝井さんが横から、「○月○日の何時から、ここでやりましょう」って出てきて、あっという間に決めてくれる。

 ちなみに、でか美さんは、曲線とかツヤみたいなものをすごく持ってる人で、鉄仮面みたいな私たちのステージに、油みたいなものを差してくれるんだよね。

「でか美さんは、私たちのステージに油を差してくれるんです」(柚木さん)
「でか美さんは、私たちのステージに油を差してくれるんです」(柚木さん)
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朝井:カップラーメンの最後に入れるオイルだ。あれで仕上がる!

でか美:私はパフォーマンス的な面では、2人よりステージを踏んでるから、2人を立てたい気持ちが割とあるんです。2人が輝く瞬間を作ったら、ファンの方が喜んでくれるので。この歌割りのときは柚木さんに一直線に前まで歩いてきてほしいとか、決めどころのダンスソロは朝井さんにやってもらいたいとかを考えるんです。

 そういうのがすごく楽しくて。それは多分、2人のファンの方の反応を見てきたからだと思います。お客さんが実際にいて、小説家のファンの方たちが会場を作ってくれてるのを目の当たりにすると、「この人たちを喜ばせたい」って気持ちになるんですよね。

柚木朝井:優しい〜(涙)。

朝井:ちなみに柚木さんは、何がどうなったってセンターになる人(笑)。でか美さんは本当にすべてに柔軟に対応できる、オールラウンダーの精神的支柱タイプ。集団行動って私は結構疎遠になっていたので、そういう意味でも刺激的です。

「ファンの方が喜んでくれるから、2人が輝く瞬間を作りたい」(でか美ちゃんさん)
「ファンの方が喜んでくれるから、2人が輝く瞬間を作りたい」(でか美ちゃんさん)
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(第3回に続く)

取材・文/金澤英恵 写真/鈴木愛子 撮影協力/BUZZ新宿4丁目スタジオ

柚木麻子、朝井リョウ、でか美ちゃんユニット インタビュー
第1回  書籍化への道のりを振り返る(9月3日公開)
第2回 推しとの距離にモヤモヤしたら「のど自慢に出たらいい」(9月7日公開)今回はここ
第3回 私たちが文学館でライブをする理由(9月9日公開予定)
第4回 おすすめの本を互いに贈り合ってみた(9月11日公開予定)