異常気象に対して人間活動の影響がどのくらいあるかを評価する研究がある。異常気象の直接の要因は、偏西風の蛇行やブロッキングと呼ばれる自然変動だ。しかし、近年、地球温暖化によって異常気象が発生する確率が上がっているのではないかと説明されることが多くなっている。『ビジネス教養としての気象学』(隈健一著/日本経済新聞出版)から一部を抜粋し紹介。

第1回「 なぜ天気予報の精度は飛躍的に向上したのか

イベントアトリビューションとは

 猛暑や大雨、強い台風や大雪についても、地球温暖化が原因ではないかという報道を目にするようになりました。地球温暖化の進行を身近に感じること自体は、温暖化対策に向けた世論を盛り上げていく観点から重要でしょう。

 しかし、あまりにエスカレートした報道だと、逆効果の面もあります。個々の異常気象が地球温暖化の影響によるものなのか、という判断には簡単ではないものもあり、イベントアトリビューション(特定の異常気象に関して、人間活動の影響を評価する試み)という研究として進められています。

 そして、異常気象は実際に地球温暖化を原因として増えてきているのかどうか。これについてもイベントアトリビューションの研究の積み重ねを踏まえ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は報告書に記載をしています。

 社会に大きな影響を与える異常気象の直接の要因は、偏西風の蛇行、ブロッキングといった自然変動です。

 こうした自然変動が地球温暖化に伴う気候変化と重なることによって、過去にはなかったような現象が発生するという説明で、温暖化の影響が論じられることが増えています。その最新の研究を紹介します。

大雨などの異常気象の原因が地球温暖化だとする報道が増えている(写真:P.Lack/stock.adobe.com)
大雨などの異常気象の原因が地球温暖化だとする報道が増えている(写真:P.Lack/stock.adobe.com)
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多くの計算結果を束ねて評価する

 天気予報や気候研究にはアンサンブルと呼ばれる手法、データセットがあります。初期値のわずかな違い等から生じる誤差を評価するため、多くの計算結果を束ね、合奏するという意味で、アンサンブルという言葉を使います。

 気候研究では、初期値から長い時間がたった段階までを分析していきます。例えば、温室効果ガスが同濃度であっても、自然起因の変動があるため、気候は一意的に決まりません。現在の温室効果ガスの数値を前提条件としても、将来様々な気候が実現する可能性があります。

 これは今現実に起きている気候は、様々なシナリオの中でたまたま実現したものという考え方に基づいています。わずかな初期条件の違いであっても、何年もの間シミュレーションしていくと、大きく異なるシナリオが実現することがあります。もちろん異なるモデルを使えば、それぞれのモデルの特性もあり異なるシナリオが実現します。こうした異なる初期値や異なるモデルの計算結果を多数集めて評価するのがアンサンブルの考え方です。

 この仮想的な様々なアンサンブルのデータを統計的に分析することで、温室効果ガスの影響と自然変動の影響とを、ある程度切り分け、統計的に評価することができます。

 日本列島の平均気温が特定の気温より高くなる確率の計算を考えてみましょう。例えば、100通りのシミュレーション計算を行って、そのうち2回のシミュレーションでその気温より高くなれば、確率は2%と評価できます。

 2022年の6月下旬から7月初めにかけて、記録的な暑さを記録しました。東京では9日連続で猛暑日(最高気温35度以上)となり、統計開始以来の最長となりました。群馬県伊勢崎市のアメダスでは、6月25日に40.2度を記録、6月の40度を超える気温は日本での観測史上初となりました。この猛暑に地球温暖化がどう関わっているのか、文部科学省と気象庁気象研究所との共同発表の資料(図表1)を見てみましょう。

図表1 令和4年6月21日から7月2日にかけての高温事例の発生確率
図表1 令和4年6月21日から7月2日にかけての高温事例の発生確率
(出所)文部科学省、気象庁気象研究所 報道発表資料https://www.mext.go.jp/content/20220906-mxt_kankyou-000024830_1.pdf
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 1850年以前の温室効果ガスの量を用いる気候シミュレーションと、現在の温室効果ガスの量を用いたシミュレーションを比較することで、人為起源の地球温暖化の影響を調べることができます。それぞれのシミュレーションを100通り計算することで、自然変動によるゆらぎも評価できます。

 日本の上空1500メートル付近の気温について、赤の線は温室効果ガス増加の影響を考慮した場合、青の線は温室効果ガスの増加がなかったと仮定した場合を示します。2022年のこの期間の実際の気温を超える確率は、温暖化がなかったとすると、1200年に1回しか起こり得なかったのが、温暖化の影響により5年に1回まで頻度(確率)が増えていたことが分かります。

 2022年の夏は、ラニーニャが発生していて日本付近の気温が高くなりやすく、それと温暖化が重なることで、ここまで確率が上昇したと考えられます。

温暖化で異常気象が発生しやすくなる

 異常気象に温暖化がどう影響していたかという研究では、このように自然変動に温暖化が重なることで、温暖化がなければほとんど起こり得ない現象の確率が、温暖化の影響で大きく上がる、という説明で示されることが多いのです。

 もう少し直感的に理解できそうな概念図を図表2に示します。気温の変動を示していますが、左のグラフは温暖化が起きていない場合の気温の変動、右のグラフは温暖化が進行する場合の気温の変動を示します。気温の変動自体は自然変動によって発生するとしても、温暖化が進行する場合、高温の異常気象が発生しやすくなり、低温の異常気象は発生しにくくなることがわかります。

図表2 地球温暖化と自然変動が重なり合うことで、異常気象の発生の仕方がどう変わるかを示した概念図
図表2 地球温暖化と自然変動が重なり合うことで、異常気象の発生の仕方がどう変わるかを示した概念図
(出所)『ビジネス教養としての気象学』(日本経済新聞出版)
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 記録的な夏の猛暑に対する温暖化の影響は、比較的素直に理解しやすいのではないかと思います。一方、記録的な大雨についても、温暖化による海面水温の上昇や気温の上昇で飽和水蒸気密度が増え、水蒸気量の増加となり、大雨を強化した、と近年の大雨の観測事実から言えるようになりつつあります。

 冬の大雪については、日本の多くの地域で最深積雪が減少傾向にあります。温暖化が進んで冬季の気温が上昇することで、降水量は変わらなくても、雨として降ってくる割合が増えれば最深積雪は減少します。ただし、自然変動により強い寒気が南下してくると、冬の日本海の海水温が高いことによって水蒸気量が多くなり、短時間に降る雪の量が多くなる事例も時には発生しています。

 記録的な異常気象は、温暖化と自然変動の重なりで発生する場合が多いと述べましたが、賢明な読者の皆さんの中には、温暖化が進むにつれ、自然変動自体への影響はないのか、と疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。例えば温暖化の影響で、北極のバレンツ海で海氷が減少し、それが冬のシベリア高気圧や日本付近への寒気の流入にどう影響するのか、といった研究も行われています。

 今後、温暖化が進行するにつれて、また研究が進展するにつれ、地球温暖化が偏西風の蛇行などの自然変動にどう影響するのか、新たな知見が生まれてくることでしょう。

そもそも天気予報はどのように行われるのか? 様々な気象データはビジネスにどう活用できるか? 地球温暖化の「適応策」のカギは? 元・気象研究所所長が、ビジネスパーソンに向けて現代の気象学、気象予測の最前線を講義する。

隈健一著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)