2025年11月に没後20年を迎えた米経営学者のピーター・ドラッカー氏。同氏が著した『経営者の条件』は、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏も幹部に読むように薦めたリーダー論の名著だ。『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』で紹介した内容を再編集してお届けする。(=本文中敬称略)

 アマゾン創業者のジェフ・べゾスが同社の幹部に薦めていたリーダー論の名著がピーター・ドラッカーの『経営者の条件』です。英語のタイトルは『The Effective Executive』で日本語では「成果を上げるエグゼクティブ」を意味します。日本でもファンが多いドラッカーは、1909年にウィーンで生まれたオーストリア系米国人の経営学者です。目標管理とセルフマネジメント(自己管理)の概念を発明し、「マネジメントの父」と呼ばれました。

 ドラッカーはとりわけ人間に強い関心を持ち、組織がそこで働く人々の能力を最大限に引き出すための方法などを研究しました。さらに経営は「リベラルアーツ(教養)」であると考え、歴史、社会学、心理学、哲学、文化、宗教などから得られる学際的な教訓を、経営のアドバイスに生かしました。

 『経営者の条件』の初版が出版されたのは1966年で半世紀以上前ですが、今読んでも全く色あせない刺激に満ちた良書です。経営者に限らず、あらゆる組織のリーダーが繰り返し読む価値のある本だといえるでしょう。

 この本の「まえがき」(編集注:1985年に加筆されたもの)はこんな言葉から始まっています。

 「普通のマネジメントの本は、人をマネジメントする方法について書いている。しかし本書は、成果をあげるために自らをマネジメントする方法について書いた。ほかの人間をマネジメントできるなどということは証明されていない。しかし、自らをマネジメントすることは常に可能である」。ドラッカーは、自らをマネジメントできない者は、部下や同僚をマネジメントできないと指摘します。

 さらに「成果をあげることがエグゼクティブの仕事である」と説きます。そして成果をあげるためには、特別な才能や適性は必要ではなく、「成果をあげている者はみな、成果をあげる力を努力して身につけてきている」と述べています。

ピーター・ドラッカーは日本の古美術を愛好し、室町時代の水墨画を中心に、桃山時代の海北友松や、江戸時代の池大雅や浦上玉堂などの文人画、白隠などの禅画、伊藤若冲などの作品を収集していた(写真=ZUMA Press/アフロ)
ピーター・ドラッカーは日本の古美術を愛好し、室町時代の水墨画を中心に、桃山時代の海北友松や、江戸時代の池大雅や浦上玉堂などの文人画、白隠などの禅画、伊藤若冲などの作品を収集していた(写真=ZUMA Press/アフロ)

リーダーが身につけておくべき習慣的な能力

 成果をあげるためにリーダーが身につけておくべき習慣的な能力は5つあります。

 まず「何に自分の時間がとられているかを知ること」です。成果をあげるには時間が制約要因になります。このため時間をどのように使っているかを記録し、整理し、管理することが重要です。年に2回ほど3~4週間記録を取って時間の使い方を見直すことをドラッカーは推奨します。最近はグーグルカレンダーのようなツールが普及しており、ビジネスパーソンの時間管理は容易になっています。

 そのうえで、必要が全くない仕事や何の成果も生まない時間の浪費である仕事を見つけて、「捨てることが大事」といいます。毎晩のように会食しても大半が時間の無駄になっているならそれを見直したり、自分がしなくてすむ仕事をほかの人に任せたりすることを指します。

 成果をあげるには大きな固まりの時間が必要になります。こま切れのような時間では役に立ちません。そのために何に時間を浪費しているかを「見える化」し、なくしていくことが欠かせません。

 2番目が「自らの果たすべき貢献を考えること」で、仕事ではなく成果に目を向けることです。

 成果には、売り上げや利益などの「直接的な成果」、技術面での優位性や安さと品質といった「価値」、組織の存続のために必要な「人材の育成」の3種類があります。

 長時間仕事をしているからといって成果を生み出せるわけではありません。さらに温かな会話や感情がある良い雰囲気の職場であっても、仕事において成果がなければ、貧しい関係のとりつくろいにすぎず、「無意味である」とドラッカーは指摘します。自分自身の貢献だけではなく、部下に対してもどのような貢献を期待するかを伝えることが大事だといいます。

 3番目は「人の強みを生かすこと」。

 「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない。結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である」。ドラッカーはこう述べました。

 リーダーには、部下や同僚の弱みに目を向けがちな人もいます。ある親しい友人とお酒を飲んだ際に、本人が涙ながらに語っていた話が思い起こされます。その友人の上司はとても優秀ですが部下に厳しく、「お前はどうして(同僚の)Sのように上手く仕事ができないんだ。説明も下手だ。Sだったらこんな仕事は朝飯前だろう。お前はダメな奴だ」といったふうに繰り返し叱責されたというのです。この友人は口達者ではありませんが、物事を深く考えてコツコツ仕事をするタイプで、上司が代わってから高く評価されるようになりました。今では管理職となって勤務先の会社で大黒柱として活躍しています。

 人間には得手不得手があり、本人の苦手なことに目を向けて非難しても意味がないだけでなく、逆にモチベーションを下げることになります。むしろ、その人の強みを探して、その強みを生かすにはどのような仕事を与えればいいのかを考えることがマネジメントの仕事です。

 「人事において重要なことは、弱みを最小限に抑えることではなく強みを最大限に発揮させることである」。ドラッカーはこう断言します。

好き嫌いではなく、何ができるかで人を選ぶ

 部下に成果をあげさせるためには「自分とうまくいっているか」を基準に考えるべきではなく、「どのような貢献ができるか」から考えるべきだ、とドラッカーは主張します。「一流のチームをつくるリーダーは、同僚や部下とは親しくせず、好き嫌いではなく、何をできるかで人を選ぶ。調和でなく成果を求める」というドラッカーの言葉は金言です。

 4番目は「最も重要なことから始め、一度に1つのことに集中すること」です。エグゼクティブは多忙で、あまりにたくさんの仕事に囲まれている場合が少なくありません。しかしあれもこれも頑張ろうとするとどれも中途半端になりがちです。それよりも最優先で取り組んだ方がいい重要なことだけに集中した方が大きな成果を生み出しやすいのです。

 では集中するために何をすべきなのでしょうか。「第一の原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである」とドラッカーは述べます。自分の仕事と部下の仕事を定期的に見直して、今手を付ける必要がないことはやめるか大幅に縮小することで、最優先の仕事に振り向ける時間をつくることができます。取り組むべきではない仕事を明確にすることも重要です。

 5番目が「成果をあげるように意思決定を行うこと」です。成果をあげるためには重要な意思決定に集中する必要があり、個々の問題ではなく、本質的なことについて考えなければなりません。「問題に向き合う際には考慮すべきことがある」とドラッカーは述べます。一般的な問題か例外的な問題か、何度も起きることか個別に対処すべき特殊なことかなどです。そのうえで意思決定するわけですが、決定の目的は何か、達成すべき目標は何か、満足させるべき諸条件は何かを明らかにしておく必要があります。

 意思決定においては、「何が正しいか」を考えることが欠かせません。何が受け入れられやすいか、何が反対を招くのかを考えすぎてはいけないとドラッカーは説きます。

 決定を実際のアクション=実行に移す際には、誰がこの決定を知らなければならないか、その行動はいかなるものなのかにまで注意をこらす必要があります。そして、実行後には必ずフィードバックを得て、意思決定が間違っていないか、間違っていれば何を修正すればいいのかを検証します。

 『経営者の条件』は、マネジメントに関わる人なら誰もが多くの学びを得られる素晴らしい本です。若いときに読んでも理解できないことが少なからずあるように思いますが、組織の中で昇進、昇格して管理職や幹部になった際などに読み返すと、新たな発見がきっとあることでしょう。

日経ビジネス電子版 2025年11月19日付の記事を転載&改題]

天才イノベーター3人が選ぶ100冊を一挙紹介。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ。世界一の富豪になった3人は猛烈な読書家。歴史、SF、科学、経済学……古典から最先端まで。「21世紀の教養」が学べる最高のブックガイド! 著者テレビ出演(日本テレビ系列「世界一受けたい授業」)で大反響のベストセラーが、ついに文庫化。

山崎良兵著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)