私たちの腸にいる腸内細菌が、健康に影響を与えることが数々の研究でわかってきました。では、その働きを最大化する「腸活」に必要なこととは?著書「9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険」が話題の、腸内細菌研究の第一線で活躍する國澤純さんに聞きました。[日経ヘルス2023秋号より転載]
腸内細菌がお通じの良し悪しを左右したり、免疫に影響を与えたりすることを知っている人は多いだろう。
それだけではなく、「肥満や糖尿病、高血圧、がんなどの生活習慣病のほか、認知症やうつ病にも関わっていることがわかってきました。さらに、太りやすさなど、体質にまで影響することも判明しています」と国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN=ニビオン)の國澤純さん。腸内細菌は私たちの健康維持に欠かせない存在といえるだろう。そんな腸内細菌の働きを最大化する「腸活」の戦略は3つあると、國澤さんはいう。
1つ目は腸活の基本、発酵食などから有用な菌(プロバイオティクス)をとること。2つ目は水溶性食物繊維やオリゴ糖など、腸内細菌が好むエサ(プレバイオティクス)をとること。これらは腸活を心がけている人なら常識ともいえるだろう。新しいのは3つ目の戦略。菌が生み出す有用成分(ポストバイオティクス)に着目することだ。腸内細菌はエサを食べると、それを代謝し、さまざまな成分を生み出す。
「代表的なのが、短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸)です。短鎖脂肪酸は、腸の中で有用な菌の生育に有効な環境を作り、さらに腸の活動エネルギーにもなる成分です。その際、ある単独の菌が短鎖脂肪酸を生み出すのではなく、複数の菌が『リレー』のように分業して、生み出すのです。そのため、このリレーをサポートする成分をとっておくことが大切。その1つがビタミンB1で、私たちの研究では、ビタミンB1の摂取が短鎖脂肪酸の産生に必要であることがわかっています」。
では各戦略の詳細を聞こう。

人体にとって有用な菌をとること。いい菌の代表はヨーグルトのビフィズス菌や乳酸菌、納豆菌など。納豆やヨーグルトなどの発酵食を食事に取り入れる。
戦略2.菌のエサをとる(プレバイオティクス)
腸内細菌と私たちは共生関係。腸内細菌は、私たちが食べたものをエサにして生きている。菌が好むのは食物繊維やオリゴ糖。この2つを積極的にとろう。
戦略3.菌のリレーをサポートする(ポストバイオティクス)
腸内細菌の中にはエサを食べると、人体に有用な成分を生み出すものもいる。その有用な物質に着目して食べ方を工夫。例えば、ビタミンB1などをとるのもその1つ。
【戦略1】納豆やヨーグルトなど発酵食でいい菌をとる
戦略1はシンプルに腸活の基本、発酵食でいい菌をとること。腸内細菌の研究では、発酵食をとる意義は想像以上に大きいことがわかってきた。
主な食材- ●日本の伝統的な発酵食 甘酒、ぬか漬け、味噌、醤油、酢など
- ●世界の発酵食 キムチやチーズ、豆板醤、アンチョビ、ザワークラウトなど
- ●最もとりやすい2大発酵食 ヨーグルトと納豆

腸内環境を変えるには、まず「自分が持っていないいい菌をとる」こと。これが戦略1だ。國澤さんも「腸から健康になりたい人に何を食べればいいかを聞かれることがありますが、まず手軽にいろいろな種類を試せるヨーグルトと納豆をお薦めしています」という。
ヨーグルトは、原料の乳を乳酸菌やビフィズス菌で発酵させたもの。近年、整腸作用以外にストレスや緊張の緩和、脂肪減少、免疫機能の維持などの機能性を表示する商品が増え、店頭に並んでいる。「腸内細菌は多様性が大事。自分が求める機能で選べばいいのですが、同じ商品ばかりでは、それに含まれる菌が好む腸内環境に傾く可能性が考えられます」と國澤さんは語る。 また、朝食や間食にヨーグルトだけをとるのはもったいない菌のとり方だ。「空腹時だと、せっかくの菌が胃酸によって死滅して、生きたまま腸まで届かない可能性が高い。食後にとるほうがいいでしょう」。
納豆は、ご存じの通り大豆を納豆菌で発酵させたもの。「納豆菌は『菌のリレー』の一番手としても重要な存在で、食物繊維を糖に分解する糖化菌としても働きます」。
発酵食は納豆とヨーグルト以外でもいい。「どれも一度とれば菌が腸にすみついて増えるわけではない。継続的にとることが重要」(國澤さん)。
【戦略2】水溶性食物繊維、オリゴ糖など菌のエサをとる
今、私たちの腸内にいる菌にしっかり働いてもらうのが戦略2だ。つまり菌にエサを与える。エサは、水溶性食物繊維やオリゴ糖などだ。
主な食材- ●難消化性オリゴ糖の多い食材 タマネギ、ゴボウ、バナナ、豆類、牛乳
- ●難消化性でんぷんの多い食材 豆類やイモ類、冷えた白米
- ●水溶性食物繊維の多い食材 β-グルカンが豊富な大麦、オートミール。アルギン酸の多い海藻類

腸内細菌がエサとして好む食物繊維とオリゴ糖。食物繊維には不溶性と水溶性があって、菌のエサになるのは水溶性だ。不溶性は便のかさを増やしてお通じをスムーズにするには重要だが、腸内細菌を重視すると水溶性になる。β-グルカンが多いオーツ麦や大麦、アルギン酸が多い海藻類を重点的に。
「私たちの研究チームによって、肥満や糖尿病のリスクが低い人ほど、『ブラウティア菌』が多いと明らかになりました。ブラウティア菌は多くの日本人の腸内に生存しますが、食事の栄養バランスを整えるほか、大麦やビフィズス菌で増えることが判明しています」(國澤さん)。また、腸内細菌のエサになるオリゴ糖も「消化性」と「難消化性」の2つある。菌のエサになるのは大腸まで消化されずに届く難消化性で、タマネギやゴボウ、バナナなどに含まれる。
「エサが不足すると、腸管の表面を覆う粘液を食べる菌がいます。すると粘液が減少して、病原性細菌などの異物をブロックする機能が落ちてしまう。そうならないためにも、エサを腸内細菌に安定供給することが重要です」。また、豆類やイモ類に含まれる難消化性でんぷんも胃や小腸で消化されずに大腸まで届くため、菌のエサになる。「白米も冷ますと難消化性でんぷんが増えるから、冷めたおにぎりもいい」というわけだ。
【戦略3】ビタミンB群などで菌のリレーをサポートする
戦略3こそ新たな「腸活」。腸内細菌が作り出す有用物質に着目したアプローチだ。最も手軽なのは、ビタミンB1などビタミンB群をとることだ。
主な食材- ●n-3系脂肪酸の多い食材 アマニ油、エゴマ油、魚など
- ●ビタミンB群の多い食材 豚肉、豆乳、玄米など(※ビタミンB1の場合)

今、腸内細菌の研究で着目されているのは、腸内細菌が生み出す有益な物質(ポストバイオティクス)だ。
ポストバイオティクスをうまく活用する方法は2つあり、1つ目は菌のリレーをサポートする成分をとること。「特にビタミンB1は重要。食物繊維やオリゴ糖から短鎖脂肪酸が作られるために必要」と國澤さん。ビタミンB1は玄米や豚肉に多く、主食を玄米にして、おかずを豚の生姜焼きなどにすれば取り入れやすい。「コンビニでも玄米のおにぎりは買える。一緒に納豆とヨーグルトを食べれば、リレーの一番手として必要な糖化菌である納豆菌も、次の工程で必要になるビフィズス菌や乳酸菌もとれる」(國澤さん)。
n-3系脂肪酸が豊富なアマニ油やエゴマ油を食材にかけるのも実はポストバイオティクス的アプローチ。國澤さんによると「n-3系脂肪酸は腸内細菌に代謝されると、アレルギー性皮膚炎などの炎症を抑える可能性が知られているαKetoA(アルファケトエー)というポストバイオティクスが生まれる」からだ。
2つ目の方法としてはポストバイオティクス成分の入った食品やサプリメント。「ストレス緩和で知られるGABA(ギャバ)をはじめ、女性の更年期症状を緩和するエクオールや、血糖値の上昇を抑えるHYA(10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸のこと。食後の血糖値上昇を抑制することが報告されている)もポストバイオティクス。こうした商品は今後増えていくだろう」。
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長
薬学博士。大阪大学薬学部卒業後、米国カリフォルニア大学バークレー校へ留学。その後、東京大学医科学研究所准教授を経て2013年から現所属。2019年から現職に就き、東京大学医科学研究所客員教授などを兼任。著書に『善玉酵素で腸内革命』(主婦と生活社)がある。近著『9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険』(日経BP)は、腸内細菌の最新研究をベースにして、何を食べて、どんな菌を増やすと健康維持と病気予防につながるのかがわかる一冊。
取材・文/茅島奈緒深 写真/福知彰子 料理・スタイリング/タカハシユキ 構成/白澤淳子