「月と雲……いずれも優れた歌詠みとして、都に並び立つ才……先帝がこうしてお導きくださいましたと思えば、有り難きことでございます……」
ああ、月と雲。
それを申されますな。
小町は堂の端に寄ります。愛しい雲を見上げるように、仰ぎ見ます。
霞に包まれた中より、花の一枝が伸びておりました。
その花、色を失い、霞に溶け込まんばかり。
薄墨色の淡さ、あてどのなさに、小町はこれぞ我が身と、思い定めたのでございます。
筆を執りました……

【動画】高樹のぶ子『小説小野小町 百夜』を著者朗読(5分39秒)

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