2016年にYouTubeチャンネルを開設し、2026年で10周年を迎えた旅行系YouTuber・おのださん。『 旅は究極の自己投資 自由に生きるための世界スマート旅 』を出版した。現在のチャンネル登録者数は約50万人。旅を日常にするような生き方の背景には、橘玲さんの本との出合いがあったという。『 永遠の旅行者 』などから受けた影響と、10年間の発信を通じて見えてきたものについて聞いた。

話すのが苦手だったYouTuber

おのださんはYouTubeを10年続ける中で、この仕事だったから成長できたと感じる部分はありますか?

おのだ ある程度、話はうまくなったかなと思います(笑)。もともと話すのがめちゃめちゃ嫌いで、苦手だったんです。NEC時代もプレゼンをする機会はあったのですが、「下手くそだね」とよく言われていて。どちらかというと、人前で話すことからは逃げてきた人生で、裏でパソコンを触っているほうが好きでした。

 それが、今はカメラの前でしゃべったり、こうやってインタビューを受けたりするようになっている。自分でもちょっと不思議ですね。

「話すことは苦手だったのに、いまはこうやってインタビューも受けています」
「話すことは苦手だったのに、いまはこうやってインタビューも受けています」

動画を拝見していると、話すことが苦手だったとはまったく感じません……。すごく意外でした。

おのだ 多少は編集でうまくやっている部分もありますけどね。やっぱり、やってみたらダメだなと思うこともありましたし、意外とうまくいくこともある。苦手なことでも、続けていれば形になるんだなというのは実感しています。

「旅が日常になる」という逆説

10年間旅を続けてきて、良かったことと大変だったことを教えてください。

おのだ 良かったのは、知らない場所に行くこと自体が大好きなので、その刺激をずっと味わい続けられたこと。10年やっても飽きないんです。ただ、デメリットもあって、旅が「日常」になってしまうんですよね。昔のような新鮮さが薄れてきたり、逆に日本での生活のほうが刺激的に感じることもある。特に子どもが生まれてからは、日本での暮らしをもっと丁寧に送りたいなと思うようになりました。

YouTuberとして、常にカメラを回す生活にも変化はありましたか?

おのだ 空港に着いたら動画を撮る、ホテルに着いたらルームツアーをする、食事の前にはカメラをセッティングする──もう完全にルーティンになっています。10年近く休止したこともなくて、基本は3日に1回は動画を出している。始めた当初はめちゃくちゃ面白かったのですが、多少マンネリ化する部分はありますね。正直、そろそろ「カメラを下ろした旅」もしたいなと考えることはあります(笑)。

橘玲さんは「賢い生き方」の元祖

おのださんの自由な働き方の土台となった本として、橘玲さんの著作を挙げていらっしゃいます。どのような影響がありましたか?

おのだ 橘玲さんは、旅とお金をうまく絡めて「いかに賢く生きるか」ということをずっと書いてきた方です。私は大学時代から読んでいて、どの国の居住者にもならず世界を転々とする主人公が出てくる『 永遠の旅行者 』では、「パーマネントトラベラー」という概念を知りました。一つの国に縛られずに生きるという発想自体が、当時の自分にはすごく刺激的だった。

 『 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 』も影響を受けた本です。マイクロ法人をつくって賢く節税するとか、制度の「ゆがみ」を見つけて活用するといった考え方は、橘玲さんが昔から発信してきたことです。当時はそこまで注目されていなかったのに、最近は新NISAやマイクロ法人が広まって、ようやく時代が追いついてきた感じがします。私自身もフリーランスとして活動する中で、こうした知識にはずいぶん助けられましたね。

『永遠の旅行者』(上下巻、橘玲著、幻冬舎文庫)は、どの国の居住者にもならず合法的に納税を回避する「パーマネントトラベラー」の元弁護士を主人公にした金融サスペンス小説。おのださんは「大学時代から読んでいて、フリーランスとして活動する中でずいぶん助けられた」と語る(画像クリックでAmazonページへ)
『永遠の旅行者』(上下巻、橘玲著、幻冬舎文庫)は、どの国の居住者にもならず合法的に納税を回避する「パーマネントトラベラー」の元弁護士を主人公にした金融サスペンス小説。おのださんは「大学時代から読んでいて、フリーランスとして活動する中でずいぶん助けられた」と語る(画像クリックでAmazonページへ)

ちなみに、普段はどのような本を読まれていますか?

おのだ 橘玲さんの本もそうですが、お金に関する本が多いかもしれません。あとは『地球の歩き方』のような旅行ガイド系。実用的な本が中心ですね。電子書籍で、飛行機での移動中に読むことが多いです。

 LCC(格安航空会社)だと座席にモニターがない飛行機もあるので、そういうときは読書との相性がいいんです。自分の本を出してからは書店を巡るようにもなって、面白そうな本を見つける楽しみが増えました。

本を出したら「見る目」が変わった

ずっとインターネット上で発信されてきましたが、あえて「本」を出そうと思ったきっかけがあったのでしょうか?

おのだ 数年前からいろいろとお声はいただいていたのですが、当時はYouTubeに100%コミットしていて、書く余裕がなかったんです。コロナ禍で世界一周の動画を撮ったりと、ひたすら動画ばかりやっていて。でも、子どもが生まれて少し落ち着いた時期に、インターネットで長く発信してきてわかったことがあって……。それは、ずっと人気を維持するのは難しい、ということです。「本を出しませんか」と誘われているうちに、出しておこう、記録として残しておこうと思ったんです。

 それに、周囲の見る目も変わりましたね。特に親世代は顕著でした。YouTubeで100万回再生を取っても反応が薄いのに、本を出したら両親や親戚が「おー! すごい!」って(笑)。あと、今は娘が5歳で、まだ何もわかっていないと思うのですが、大人になったときに読んでくれたらいいなと。「お父さん、こんなことやってたんだよ」って。YouTubeは爆発力がありますが、違うメディアからアプローチすることの大事さは、本を出して初めてわかりました。

『旅は究極の自己投資 自由に生きるための世界スマート旅』(おのだ著、KADOKAWA)。NEC退職から海外移住、ブロガー、YouTuberへと至るキャリアの軌跡とともに、マイルやポイントの活用術、旅先での過ごし方など、10年間の旅で培った知恵を凝縮した1冊。「本を出しませんかと誘われているうちに、記録として残しておこう」と思い立ち、執筆を決意したという(画像クリックでAmazonページへ)
『旅は究極の自己投資 自由に生きるための世界スマート旅』(おのだ著、KADOKAWA)。NEC退職から海外移住、ブロガー、YouTuberへと至るキャリアの軌跡とともに、マイルやポイントの活用術、旅先での過ごし方など、10年間の旅で培った知恵を凝縮した1冊。「本を出しませんかと誘われているうちに、記録として残しておこう」と思い立ち、執筆を決意したという(画像クリックでAmazonページへ)

ネットの中で生き続ける覚悟

旅行系YouTuberとしての10年を経て、これからの10年も続けていきたいですか?

おのだ YouTubeというプラットフォームがあり続けて、影響力を持ち続けるなら、もちろんやっていきたいと思っています。ただ、ネットの移り変わりは本当に早い。私が会社を辞めたときに一緒にブロガーとして頑張っていた人たちも、今はみんなバラバラで、ブロガーとして生きている人は、ほとんどいません。

 YouTubeが10年後もあるかはわからないので、新しいプラットフォームが出てきたら飛びつきたいとは思っています。ただ、一貫しているのは、自分はネットの中で生きてきた人間であり、旅を続けてきた人間だということ。これからもそこは変わらないです。

「旅行系YouTube」というジャンル自体は、少し変わってきているのでしょうか?

おのだ すでに、すごく変わりましたね。昔は旅といえば、バックパックを背負ってアマゾンに行くとか、そういうイメージでしたけど、今は50〜60代目線の旅チャンネルとか、飛行機やホテルに特化したチャンネルとか、どんどん細分化されているんです。

 高齢者向けの旅チャンネルなんて昔は考えられなかったですが、確かに再生されそうですし、案件もたくさん来そうだなと思います。ジャンルが増えていくのは、見ていて面白いですね。

最後に、「行きたいところがある」のになかなか腰が上がらない人に向けて、メッセージをいただけますか?

おのだ 気持ちはすごくわかります。仕事もありますし、タイミングを考えているうちに、どんどん先延ばしになってしまうんですよね。でも、行けるときに行っておかないと、後から行けなくなることもある。実際に私も、戦争で行けなくなった場所をいくつも見てきましたし、年齢的に体力が落ちてからだと厳しい場所もあると思います。

 日本のパスポートがあれば、思い立ったらだいたいの国には行ける。まずは航空券を検索してみるだけでもいいと思います。そこから全部始まるので。

取材・文/金澤英恵 取材・構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子