『LISTEN』の監訳者でエール取締役の篠田真貴子さんは、無類の本好きだ。海外で話題になっている本についても詳しく、SNSや連載などで篠田さんが発信すると、またその本の話題が広がっていく。篠田さんは、いつもどうやって面白い本を探しているのか。おすすめの書評コミュニティなど、情報収集の仕方について聞いた。
面白いアメリカのビジネス書とどう出合うのか
私にとって、いい本と出合う確率が高いのは、誰かからおすすめされ出合ったときです。「この人たちが推薦する本は読もう」と思っている方々のSNSを見て、面白そうな本があったら読むようにしています。
私はアメリカのビジネス書も好きでよく読むのですが、好きな著者のSNS発信をフォローしたり、メルマガを購読したりしていると、時々おすすめの本などが紹介されるので、それを読んだりもしています。
『フリーエージェント社会の到来』 (ダイヤモンド社新装版)の著者ダニエル・ピンク、 『GIVE&TAKE』 (三笠書房)のアダム・グラント、『内向型人間が無理せず幸せになる唯一の方法』(講談社+α新書)の著者のスーザン・ケイン、『天才!成功する人々の法則』(講談社)を書いたマルコム・グラッドウェルという豪華な4人が主催する 『Nextbigideaclub』 (Next Big Idea Club)という有料のブッククラブがあり、ここでは四半期に2冊ずつ、心理学領域を中心にアメリカの新刊本が紹介されます。その著者の方のインタビューを読むこともできます。『LISTEN』もここで知りました。
『LISTEN』を監訳することになったのは、日経BPの編集の中野亜海さんから「聞くことについての本を書いていただけませんか」というお話をいただき、「もうありますよ」と『LISTEN』のことをご紹介したのがきっかけです。しばらくして、中野さんから「版権が取れたので、篠田さん監訳お願いします」と連絡が来て、「えー!」となりつつも、「喜んで」ということで、やらせていただくことになった、という経緯なのです。
『Nextbigideaclub』(Next Big Idea Club)には会員限定のFBページがあるので、『LISTEN』の日本語版が出た時には、思い切って「ここで『LISTEN』のことを知ったおかげで、この本の日本語版の企画に関わらせていただきました」と投稿してみました。
『LISTEN』をはじめ、アメリカでは、こうした心理学系のおもしろい本が数多く出版されていて、とても人気があります。これは私の仮説ですが、アメリカには日本よりも、科学的なものへの信頼の度合いが高い読者層が大きい気がします。
アメリカは「科学」の力をよりどころにしている
科学は不可能を可能にするもので、極端な話、今の科学が発展すれば、やがて人間は永遠に生きられるようになる、と本気で信じているのではないかと思えるほど、科学を信じている層がいるのです。それとは真逆の考え方の層も決して少ないのがアメリカの面白いところではありますが、一般的には、人に対しても科学的なアプローチをとることが支持されやすいという側面があると思います。
また、多文化国家なので、なんとなく一緒にいても理解できないことのほうが多い、ということもあると思います。日本でも実際に分かり合っているかというと、必ずしもそうとは言い切れませんが、少なくとも同質性は高いので、ある程度同じ前提で話ができます。
一方、アメリカの特に都市部では、「何もかも違っている」という前提で話さなければならないので、いったいどうやってこの人たちと一緒にやっていけばいいのだろう、と悩むことが多く、だからこそ、客観的なデータや科学が信頼を集めるということがあると思います。
加えて、アメリカは世界でもかなり雇用の流動性が高い国であり、学ぶことで自分の市場価値を高め、よりいいポジションを狙っていく、ということが、呼吸をするように当たり前になっていて、そうした学びの機会も非常に多く用意されています。
またアメリカでは、個人が身銭を切って教育投資を行うことが多いのです。例えば、組織心理学の大学が提供する単科コースを受講し、単位認定を受けたとしたら、履歴書に書いてアピールすることができ、その領域の仕事に就くことができるようになるといった具合です。
その一環で、自分が心理学について学ぶことで、人を巻き込む、人をマネージするための知識を学びたい、という意識を持っている人が多い、というところもあると思います。心理学系の本が数多く出ているのには、こうした理由があるのではないかと考えています。
おすすめ書評コミュニティ
実は、まだ翻訳されていない面白い本がいっぱいあるのです。 「Goodread」 という一般人の書評コミュニティがあるのですが、このサイトもいいですよ。いろんな人が書いた書評に目を通すと、凡その内容は分かります。
私自身は英語で読むのですが、どうも英語が苦手……という方には、最近では「DeepL翻訳」など自動翻訳ツールも発達しているので、それを利用するのも1つの手です。
kindleで英語の本を買い、それをPDF化して、自動翻訳ツールにかけて読んでいるという知人もいます。もちろん、翻訳書ほど読みやすくはありませんが、英語で本を1冊読むのはしんどい、内容をざっと知りたい、という場合には試してみてもいいのではないでしょうか。テクノロジーを駆使することで、読書体験をさらに広げることができるかもしれません。
取材・文/井上佐保子 構成/中野亜海(日経BOOKプラス編集部兼第1編集部) 写真/山口真由子