実際のところ「老後2000万円」は平均の話であって、個人差が大きい? FPの山崎俊輔さんの新刊『 老後に4000万円って本当ですか? 物価が上がる時代の退職後資産の考え方 』より抜粋します。

「老後××万円」は変動の余地が大きい

 コロナ禍で分かったことを整理しておきましょう。これは「老後2000万円」の議論、そして「老後4000万円」の議論を深めていくにあたって必要な前提となってきます。

 まず、「老後××万円」はかなり変動の余地がある数字だ、ということです。コロナ禍の真っ最中に「老後ゼロ万円」になったのはもっとも極端な例ですが、その数年前に概算して2000万円としたものが、消えてしまうことさえありうる、あいまいな数字なのです。

 定額給付金20万円分、という臨時収入の存在抜きにして考えても、旅行に出かけたり美術館や映画館に出かけなければ出費は減るし、子や孫が遊びに来なければさらに出費も減ります。報告書が公表されて以降、そもそも「老後2000万円」になった年は一度もないのは 前述 した通りです。

 一方で、物価が上昇基調に転じた近年は、「老後××万円」が上昇傾向にあることは見逃せません。変動の余地が大きい、若干あいまいさのある概念であっても、やはり物価上昇の影響を受けており、これ以上下がる、というよりは上がる可能性が高まっているといえます。

現役時代に給与が高く生活レベルの高かった人は、十分な老後資産を持っていても「足りない」と感じる可能性が高い(写真:NOBU/stock.adobe.com)
現役時代に給与が高く生活レベルの高かった人は、十分な老後資産を持っていても「足りない」と感じる可能性が高い(写真:NOBU/stock.adobe.com)
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出費をコントロールすればダウンサイズできる

 老後にお金が2000万円ないならば、出費額をコントロールすることで、老後に2000万円を1000万円にダウンサイジングすることもできます。これも「老後××万円」の真実であり、実際に年金生活に入った世帯が意識してやりくりしていることです。

 あくまで「老後2000万円」は平均の話であって個人差が大きいと考えると、どこまで縮小できるでしょうか。

 たとえば「わが家は月に1回、映画館か美術館に出かける(1万円程度の予算)。年に1回ツアーで15万円くらいの1泊2日の旅行に行く。孫へのお年玉や臨時の支出に10万円くらいを確保」と割り切れば、月あたり3万円程度ですみ、30年かけても「老後1080万円」となります。「現在の老後2000万円」の姿に近づいてきました。

 さらに「旅行に行くのはリタイアから10年くらいで十分」と割り切ることで、「老後最初の10年で360万円、その後の20年は480万円となり、老後に840万円」まで抑えることもできます。

正社員共働き夫婦なら老後ゼロ万円もありうる

 会社員で、夫婦ともに正社員で働いていた共働き世帯だと、夫婦の合計年金額が30万円以上になるケースもあります。そこから教養・娯楽費も捻出できる家庭の場合、実質「老後ゼロ万円」となることもあるのです。

 逆に、2000万円どころではない、という人もいます。たとえば上場企業の社員だった人にとって、「2000万円貯めれば老後は安心」とはいかないかもしれません。

 現役時代の給与が高い分、求める生活水準も高まります。現役時代に年収が高い人は、たくさん保険料を納めた分、厚生年金額も高まるのですが、それ以上を老後の生活に求めたりします。

 こうした人は、現在の資産価値でも2000万円以上の準備を意識した方がいいはずです。5000万円あるいはそれ以上ほしいという人もいるでしょう。これは物価上昇による老後必要額の上昇とは別なので、物価上昇すれば7000万円、8000万円と、もっとお金が必要になるかもしれません。

 レポートにいう「老後2000万円」は、個人差の話をしていません。実際のところ個人差はかなり大きいことを考える必要があるのです。

2000万円なくても生きていける(が楽しくはない)

 「老後2000万円」は人それぞれ、という言葉をもう少し突き詰めれば、「老後2000万円」はなくても私たちは生きていける、ということでもあります。

 楽観視はできないものの、老後の日常生活費と税金等を支払う程度には公的年金水準はあります。これは会社員の標準的な厚生年金額を一人分、配偶者は国民年金の水準あるいは厚生年金を少し受け取るような一般的な夫婦の場合です。

 現実に、公的年金収入だけが定期収入である、という年金生活世帯は43.4%になりますが、こうした世帯がみな、老後破産をしているわけではありません。みなさんのご両親や祖父母、親戚の多くが年金収入のみの老後を過ごすわけですが、破綻していないと思います。

 確かに、現役時代よりは節約を必要としますが、食費や日用品の消費に気を配り、意識して出費をコントロールできれば、ほとんどの世帯は公的年金の収入の範囲内に家計を収めているのです。

 そして公的年金は生きている限り何十年でももらい続けることができますから、残高ゼロの心配はないわけです。日常生活費相当額はどれだけ老後が長くてももらえることは老後の大きな安心です。

 ただし、それを楽しい老後と考えないなら、自分なりにお金を用意しておく必要があります。

「せめて習い事のひとつは楽しみたい」
「せめて月に一度くらいは映画を見て、外食をしたい」
「せめて年に一度くらいは小旅行に行きたい」

 のようなささやかな願いがあるならば、「老後ゼロ万円」とはいかないわけです。

 また、ある程度の残高があることは、安心になります。「老人ホームに入れるお金は確保しておきたい」「入院費用で心配しない程度の残高は残しておきたい(自己負担の上限があるので医療費だけで2000万円かかることはまずないが)」「葬式代は自分の銀行預金通帳から出してほしい(子に負担をさせたくない)」のような、老後の心配を解消するためには、ある程度の残高確保が必要になってきます。これもまた「老後2000万円」の一部といえます。

物価上昇が続いたとき、年代によってどれだけの老後資金が必要になる? 現役世代は、リタイア世代は、一体どのように備えればいいの? 誰も教えてくれなかったインフレ時代の老後資産の考え方と備え方をやさしく解説します。

山崎俊輔著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)