成果を出せるのは、「できない自分」を認められる人間だと話すのは、ビジネスコーチの高森勇旗氏だ。プロ野球選手時代に活躍できなかった彼が学んだ、「成果を出す人間の行動」とは何だろうか。『 降伏論 「できない自分」を受け入れる 』から一部を抜粋し、紹介する。
自信という幻想
何かで成果を出したいなら、それを実践する前に、重要なワンステップがある。それは、「できない自分」を受け入れるということだ。これは口で言うのは簡単だが、実践するには難易度が高く、少し勇気がいる。
私は2006年に横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)に入団、12年に戦力外通告を受けて引退した。プロ野球1年目の私の年俸は460万円。クビになる6年目の年俸が、580万円。
人生で、あれほど頑張った期間はないと思えるくらい、ちぎれるほど頑張った。その成果が6年間で120万円分出たということだが、あまりにも少ない、というのが実感である。しかし、これが紛れもない事実である。
引退後すぐの私は、ビジネスの世界に進みたいと思うようになった。プロ野球という特殊な世界を6年間経験したこと、パソコンの作業は人並み以上にできることもあって、傲慢ながらかなりの自信があった。さまざまな業種、業態の経営に関わってみたいという好奇心から、現在の仕事である経営コンサルティングの仕事を志した。今の仕事は括りで言うとコンサルティングだが、内容は経営幹部に向けたコーチング。企業がどこを目指し、そこにどのようにして到達するかを支援する仕事である。この時26歳。少なくともこの時点では、自信と希望に満ちあふれていた。
スーパープレーヤーとの明確な違いは何か
しかし現実は、そう簡単ではなかった。経営や、ましてやビジネスのことなど何も知らない高卒の元プロ野球選手が、形のある商品ではなく、経営の支援をするからそれを買ってくれという提案をするのである。普通に考えて、怪し過ぎる。当然うまくいく気配すらない。
そんな中、年間1億円以上稼ぐ生命保険や不動産などの営業マン、一本の広告コピーが数百万円するコピーライター、1回の講演が百万円以上する人など、異次元に稼ぐ彼らと幸運ながら話をさせていただける機会を何度か持てるようになった。彼らの言っていることはいつも当たり前のことばかりだった。「感謝を忘れない」、「誰に対しても態度を変えない」、「小さな約束も必ず守る」などだった。当時てっとり早く成功を求めていた私にとっては、あまりにも味付けの薄いアドバイスに聞こえた。
私が知りたいのは、どうやったら大成功できるかの具体的なやり方やコツだ。そんな当たり前のことは、自分はできていると思い込んでいた。なんなら、目の前にいるこのスーパープレーヤーたちと、自分の間にそんなに差があるとは思えなかった。
そういえば、プロ野球の時もそうだった。目の前でプレーしているこの1億円プレーヤーと、580万円プレーヤーの私に、本当に20倍もの差があるとは思えなかった。キッカケさえつかむことができれば、私だってああなれるに決まっている。20倍の差があるという現実のことは横に置き、“私の世界”では、スーパープレーヤーたちと自分は同格に扱われていた。
考えていたら、永遠に成功しない
ある日、尊敬する経営者に成功するためのアドバイスを求めに行った。彼は私の話によく耳を傾けた後、ほぼ無表情でこう言った。
「うーん。ひとまず、成功がなんなのか分かんないけど、取りあえず、1回電車に乗るのやめてみて。稼いでる経営者、大体電車乗ってないから、そこからまねしてみたら?」
「なるほど……」と上の空で返事しつつ、私は内心とても考えていた。
(電車に乗らないということは、タクシー移動?)
(いや、そんなお金ないし)
(まぁ、言ってることは分かるけど、いまの俺には無理だな)
(稼げるようになれば、そりゃそうしたいよ)
その様子を見て、彼は少しがっかりしたような表情でこう続けた。「あの、もしかしていま、考えてる? 考えてる限りは、永遠に成功することはないよ」会話はここで終わった。考えている限り、永遠に成功しない。その言葉を頭の中で無限に反すうしていた。
いまあなたのいる場所は、あなたの意思決定の結果である
たとえ望んでいないような現実だとしても、そこに連れてきたのは紛れもなくあなた自身である。ある一つの意思決定が決定的にいまの自分をつくっているかというと、そうではない。膨大な意思決定“群”の結果が、いまの自分である。ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授によると、人は1日に最大約3万5000回の決断をしているそうだ。
私たちは、朝起きて、まだ誰とも会っていない、言葉を一言も発していない段階でも、実はすでに数多くの意思決定を通過している。これが一日中続き、1週間、1カ月、1年、10年と積み重なってたどり着いたのが、いまのあなただ。仮にたどり着いたその場所が望むものでないとしたら、日々の一つひとつの意思決定を変えていく他はない。
しかし、意思決定の一つひとつといっても、どこの道を通って会社に行くというようなルーティンすら毎日意図的に行おうとするとストレスがかかり過ぎるため、次第に考えなくても同じ行動ができるようになる。これを、習慣化と呼ぶ。1日に3万5000回の決断をしているとあったが、その実態はほとんどが習慣化された思考による決断であり、意図せずに決断をしている状態に近い。
だから、自らの意思決定を変えていこう! と意気込んでも、そのほとんどは無意識のうちに決断が下されている。意思決定の一つひとつを効果的に行っていこうとしても、その他の膨大な無意識下の意思決定に中和され、結局は元通りになっていく。しかも、この元通りになろうとする力は相当に強い。なぜなら、それは数十年かけて築き上げてきたあなた自身の思考の癖だからだ。
それを、わずか数カ月で書き換えようというのだから、そもそも自己を変革していくというのは我々が思っている以上に難題である。では、どうすれば無意識に下されている意思決定を書き換え、新たな思考パターンを身に付けることができるのだろうか。
我々が扱っているもので、あまりにも無意識過ぎて気がつかないものがある。それは、言葉だ。数ある言葉の中でも、自己変革の最初の敵であり、最強の敵となる言葉がある。それは、「でも」だ。先述した尊敬する経営者から言われた、「電車に乗るのをやめてみる」という提案を受けた時、私の心の中の会話は、すべて「でも」から始まっていた。
(でも、タクシーに乗るお金ないし)
(でも、電車も十分便利だし)
(でも、成功している経営者で電車に乗っている人もいるわけだし)
「でも」は、自分をいまのままの場所にとどめさせる強力な引力を発生させる。しかもこの言葉は、無意識に、反射的に脳内会話に登場するため、ほとんど気づくことができない。自分では自己を変革したいのに、知らず知らずのうちに元の自分の思考に強制的に戻されてしまう。これが連続して起こり、結局は変われないままそこにとどまることになる。
完全に降伏してみる
この引力を脱出する前に、改めて確認しておきたいことがある。それは、「でも」という言葉で戻ろうとしている元の自分の思考は、あなたをここまで連れてきた思考だということだ。もし、あなたがいる場所が望むものでないのであれば、あなたをここまで連れてきたあなた自身の思考、意思決定は、ポンコツだったのかもしれない。
私がそれを認めるには、少し勇気が必要だった。プロ野球選手時代の6年間、どれだけ血のにじむような努力をしようが、ちぎれるくらい一生懸命やろうが、最高年俸580万円で、通算安打1本という事実を受け入れないことには、何も始まらない。
私の問題解決能力は、6年間を費やしても通算安打1本で、年収580万円なのだ。「でも」という言葉を使って戻ろうとしている世界は、580万円の思考の中である。そこに戻り、そこから考え、そこで意思決定したことは、6年間で1本のヒットしか生み出さないのである。もし、本当に自己を変革したいのであれば、あなたをここまで連れてきたあなた自身の思考に別れを告げ、そして諦めることだ。
自分と1億円プレーヤーには、確かに20倍以上の差があるということ。そして、それは意思決定能力が、ポンコツだからだったということ。こうして完全降伏できたなら、初めてあなたは自己変革の入り口に立ったと言えるだろう。
高森勇旗(著)、日経BP、1760円(税込み)


