生成AI活用の第一人者の深津貴之さんと、初の著書『#100日チャレンジ』が話題を集めている大塚あみさんを迎えて、ビジネスパーソンは生成AIとどう向き合えばいいのか、を語っていただきました。対談後編は、生成AIを仕事で使う方法についてです。
編集部 ChatGPTのインターフェースは自然言語なので、プロンプトをあまり考えなくても使えてしまいます。だからこそ、手軽な使い方に終始して使いこなすまでにいかないのでは、とも思います。ありきたりな使い方から一歩抜け出して仕事で有効に使うために、お二方のおすすめの活用法を教えてください。
深津貴之さん(以下、深津) 基本的には、生成AIを自由に使わせると、多くの人は「楽をする」か「雑な仕事で済ませる」方向に落ち着いてしまう傾向があると感じます。この状況の問題点は、自分よりも上の立場にいる「見張り役」がいないまま仕事を進められてしまうことなんです。具体的には、上司や教師、あるいは親といった存在が不在のため、成果物の品質が担保されず、完成度が低いままで終わってしまう恐れがあります。
こうした事態を防ぐには、「自分を監視するバーチャルな上位者」を設けるのが、最も手っ取り早い方法です。日本人になじみやすい表現でいえば「お天道様が見ている」みたいな状況を最初に作ってしまう。
例えば生成AIを使って次のような指示をします。
「あなたは人間が生成AIを使ってサボらないように監視するエージェントです。私と生成AIのコミュニケーションを見て、私がサボらないように、『雑なプロンプトを出したときは注意したり、より良い成果を出すための問いを継続的に投げかけ、示し続ける』というタスクを実行してください」
つまり、最初に自分が怠けられない環境設計をすることが最も確実で効果的な方法です。品質保証を最初の段階で設計しておくわけです。
大塚あみさん(以下、大塚) 普通の社会人には、そのようなやり方がいいのではないかと思います。ただ、私自身は、サボることに関しては絶対に手を抜かないんです。どうやったらサボれるか、時間を短縮できるかにすべてをささげています。プロンプトを投げたときに、目当てのものがすぐに返ってくればいいのですが、なかなか返ってきません。なので、とにかく多くのレパートリーを試して、どうやったら効率よくサボれるかを検証しています。その結果出てきたものを吟味して使えば、大体はうまくサボれるんです。
サボることに手を抜かない、いや手を抜くことができないという私の特徴が、バーチャルな上位者の役目を果たしているといえるかもしれません。
また、成果物を事前に具体的にイメージしておくことも大事です。これは深津さんがおっしゃった「品質保証を最初に設計する」ことにもつながると思います。
編集部 「怠慢」「短気」「傲慢」はエンジニアの三大美徳ともいいますし、マーク・ザッカーバーグも「Done is better than perfect.」(完璧にするよりもまず終わらせたほうがいい)と言っていますね。ただ、大塚さんの「サボる」は楽をするのではなく、効率化の追求に思えます。
深津 「効率的にサボる」という意味での究極形は「お金持ちになって上手に外注すること」ですね。エンジニアの目指す究極形でしょうか。生成AI時代には、外注先が人間ではなく生成AIになることが増え、そのような働き方を選ぶ人もますます多くなっていくと思います。
自らのアセットを見定めて上手に外注しよう
編集部 今後は仕事を上手に外注するスキルが重要になると。
大塚 はい。私が普段ChatGPTに投げているプロンプトも、どう見ても外注先への指示資料にしか見えないです。
深津 さらに発展してくると、自ら外注するのも面倒になって、「外注を統括するAIを作る」といった具合に、業務の構造も二重、三重の階層になっていく可能性があります。
大塚 それも試したのですが、現状ではなかなかうまくいかなくって。
深津 今後3年もすればOpenAIやGAFAのような巨大IT企業が解決してくれるかもしれないので、それを見越して「待つ」のも1つの効率的なサボり方ですね。
大塚 外資の巨大IT企業にやられてしまう、ともいえるかもしれません。日本のデジタル赤字が膨らむ一方になる。
深津 はい。だから僕は課題のフォーカスを「3年放置しても巨大IT企業がやってくれない場所」にしています。巨大IT企業がやることはスケール的に絶対勝てないので。そこはその人の生き方ややりたいことによって変わってくるのではないかと思います。
編集部 先ほどお話しされていた、生成AIに監視させる使い方というのは、クオリティーの担保が主な目的となるのでしょうか。
深津 そうですね。僕の場合、「サボること」よりも「生き残ること」のほうが、優先順位が高いです。「生き残る」という観点で考えると、例えば人間の知能が10か100かといった差は、生成AIの知能が数十万レベルにまで達すれば、取るに足らない問題になっていきます。2030年や2040年には、知的能力の部分でほとんど差別化されにくくなる可能性があります。
そうした環境下で生き残るためには、生成AIが入り込みにくい領域のアセットを用意することが重要になります。生成AIが簡単にアクセスできず競争力になるアセット――経済的な資本(生成AIに課金する資本力)かもしれないし、駅前一等地の不動産を持っていることかもしれない。あるいは、個人の経歴や人脈かもしれない。企業であれば、歴史やブランド力、系列関係にあるのかもしれない。
このような「AIが介入しにくい領域」で勝負を決定づけるアセットを手に入れるためには、数年間の準備期間が必要だということが前提にあります。
それを考えると、生成AIで今やるべきこととして、僕は「省力化」を重視していません。どちらかというと生成AIを活用して今より一段上のパフォーマンスを出して、その成果から得られる差分を「新たなアセット」として“貯金”しておくために使おうと考えています。
編集部 大塚さんは著書の中で、生成AIをエンジニアが使うことによって、その使いこなしの競争がとても激しくなっていくのではないかと書かれていました。競争が激しくなってきたときに、より上位層の差別化要因が必要になる、ということでしょうか。
深津 僕は大塚さんより長く生きているぶんズルいので、勝負がつかなくなりそうだったら「土俵の外に出る」ことを基本戦略としています。例えばサッカーの試合で、AチームとBチームのどちらが勝つかという場面があったとして、僕は「いっそ相手チームを買収しようぜ」というように、勝負の外側で戦略を立てるほうが合理的だと捉えます。多くの人が、AIの戦いの勝敗をモデルの性能や資本力で決めようとするなら、その外側、つまり別の次元で勝負が決まる状況をどう設計するかを考えるようにしているのです。
大塚 私は、生成AIを部下として捉えるのであれば、部下を統括する上司として、自分がどれだけ優秀かで勝負が決まると思っています。例えば、企業や部門の業績は、社長や部長の能力に大きく左右されるでしょう。上司の能力がその部署の成果を決めるのです。 ChatGPT活用にも同じことがいえます。生成AIのできることは誰にとっても同じなので、それを統括する人間の能力の勝負となります。
ChatGPTが自律的に価値を生み出す、ということは、当面は考えなくていいと思っていて、ChatGPTをどう管理するかのノウハウを蓄積していくことが重要だと考えます。深津さんの例を借りるのであれば、私は、管理能力を武器にして勝負の内側にあえて飛び込んでいるような状態といえるかもしれません。
深津 一見そのように見えて、実は大塚さんは本を出していたり、メディア露出をしていたりと、「土俵の外側で使える武器」をもすでに手に入れていると思います。そういう武器は最終的な勝負、いわばラストワンマイルで効いてくるはずです。
生成AIを使いこなすための心構え
編集部 生成AIをこれから使う人や学ぶ人は、どのように活用するのがいいのでしょう。
深津 自分なりに抽象化して整理すると、スタートアップでも人生のキャリア設計でも、最も大きなファクターは2つです。ひとつは「やるかやらないか」で、もうひとつは「運や位置座標」です。この2要素を生成AIでどう解決するかを考えると、大塚さんの『#100日チャレンジ 』にもあったように、生成AIによる自動化やリソースの短縮によって、試行回数を究極的には無限に近づけられるようになります。
つまり成功するためには「確率的な試行」をブルートフォース(総当たり)方式で、極めて多く、かつ多様な条件や場所で行い、「ジャックポット(大当たり)」が当たるまでスロットを回し続けることが、ひとつの最適解になると思っています。『#100日チャレンジ』はある意味、それをやり切った本ともいえるでしょう。
大塚 チャンスが舞い降りたときに全力で臨む姿勢は意識していました。
深津 チャンスが訪れたのも、出会った人の数、作ったプロダクトの数、発表した回数など、試行回数を増やしたからですね。そこに引きの強さを感じます。
大塚 生成AI時代には、マンパワーとして活躍するだけの働き方では、先細りになると感じています。つまり、単なる労働力として貢献するのではなく、それを管理する能力やスキルを持った人材のほうが生き残れるのではないでしょうか。
言い換えれば、勝者総取りの傾向が、ネットワーク効果が働く大企業だけではなく、個人の人材のマーケットでも広がるのではないかという危機感があります。なので、自戒を込めていえば、これからエンジニアになろうとしているのであれば、コンピュータサイエンスを誰よりも深く学んで、誰よりも高い能力を身につけてください。そして誰よりも多く経験することを徹底して行ってください。私自身もこうあろうとしています。
深津 ひとつの最適解は、多くの人が「生成AIはすごい」と確信する前に走れるだけ走って、先行者としてのリードや経験値という“貯金”を貯(た)めておくことでしょうか。試行回数を増やせる環境はすでに整っているので、あとは実際に「やるかやらないか」の違いではないでしょうか。
構成/進藤寛(日経BOOKSユニット第2編集部)、写真/小野さやか
大塚あみ(著)/日経BP/1980円(税込み)
深津貴之、岩元直久(著)/日経BP/2640円(税込み)






