バスケットボール女子日本代表を東京五輪銀メダルに導き、男子でもパリ五輪出場権を獲得したトム・ホーバス・ヘッドコーチ。バスケットボールの名将がチームビルディング、組織マネジメントの哲学、ノウハウを余すところなく明かした著書『スーパーチームをつくる!』から、一部を抜粋してお届けする。第1回は「スーパースターに頼らないスーパーチームのつくり方」について。
男子もスーパーチーム?
「私たちにはスーパースターはいないけれど、スーパーチームではあります」
2021年8月の東京オリンピック最終日。女子バスケットボール競技の決勝戦で、私たち日本代表チームは世界最強の地位に君臨するアメリカ代表チームに90対75で敗れはしたものの、日本にとって史上初の銀メダル獲得を果たしました。
試合直後、記者会見に臨んだ私は冒頭のような言葉を口にしました。金メダルを目標にしていたわけですから、もちろん悔しかった。だけど同時に、アメリカのようにスーパースターが居並ぶわけではない私たち日本の選手たちが、厳しい練習を重ねて培ったチーム力でそこまで到達したことに、とても誇りを感じていました。
そして、そこから2年。私は男子日本代表のヘッドコーチとなり、チームはワールドカップでアジアの1位となって、パリオリンピックへの出場権を獲得するという大きな仕事を完遂することができました。
ワールドカップの最後の試合を終えた翌日、私たちは開催地だった沖縄市の市役所で記者会見を行いました。メディアから様々な質問を受けたのですが、その中にはこんなものがありました。
「東京オリンピックでの女子代表のことを〝スーパーチーム〞だと言っていたが、今回の男子のチームはどうでしたか?」
それに対して私はこう返しました。
「まあまあだね」
半ば冗談を込めていましたし、実際、選手たちやメディアからは笑いが漏れました。ですが、それはあながち間違った表現でもなかったのです。
「まあまあ」の裏にある伸びしろ
というのも、女子代表はオリンピックで銀メダル獲得という快挙を達成しましたが、男子は当初の目標だったパリオリンピック行きを手にするということはできた一方で、ワールドカップ出場32カ国中、19位となり、2次ラウンドに進むことは叶いませんでした。だからこその「まあまあ」だったのです。
しかし、私たちが目指した目標に到達した事実は動きませんし、この大会での3勝は日本がワールドカップで挙げた史上最多のものでした。歴史をつくったわけですから、男子代表もやはり「スーパー」なチームです。
ただ、男子代表チームの伸びしろはまだまだあります。その大きさは、私にもどれほどあるのかわからないほどです。
私は常々、選手たちに試合の40分間で自分たちのやりたいバスケットボールができるように口を酸っぱくして話しています。それが35分でも38分でもダメ。私たちはまだ40分間、自分たちのゲームができているわけではありません。ドイツやオーストラリアのようなチームに勝つには、細かいことをしながら40分間、戦い続けなければなりません。
誰も迷わない「全員バスケ」
選手たちはワールドカップで本当によくやってくれました。女子の日本代表のように男子にもスーパースターはいません。しかし、私のバスケットボールは1人でやるわけではない。それは渡邊雄太選手(メンフィス・グリズリーズ)というNBA(米プロバスケットボール)の選手がいても変わるわけではなく、あくまでチームとして戦うことを基本としたものです。
スーパースターがいると、他の選手たちはそのスターのプレーを待つので、迷ってしまうのです。ですが、私のチームでは誰もが迷わない。それは全員で戦うバスケットボールだからです。
「スーパーチーム」というフレーズは、NBAでも使われていますが、NBAでのそれはオールスターや殿堂入りクラスのスーパースターが3人以上集まったチームのことを指します。近年でいえば、2000年代後半にケビン・ガーネット、ポール・ピアース、レイ・アレン、レイジョン・ロンドを擁したボストン・セルティックス、2010年代前半にレブロン・ジェームス、ドゥエイン・ウェイド、クリス・ボッシュのいたマイアミ・ヒート、そしてステフィン・カリー、ケビン・デュラント、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンらのゴールデンステート・ウォリアーズなどがその代表例です。
日本らしさを生かしたスーパーチーム
しかし、私はスーパースターに頼ったチームづくりはしません。私が言うスーパーチームとは特定の選手に頼ったものではなく、チーム全員が力を発揮しながら最大の成果を得るものです。
先述した会見ではワールドカップでのMVPは誰かとも問われました。私は迷うことなくこう答えました。
「全員です」
そう、私たちは「日本らしさを生かしたスーパーチーム」なのです。
誰がチームにいたか、あの選手がいればどうだったか云々は、重要なことではありません。メンバーがどうであろうと、集まって共通の目標に向かって進んでいくのならば、それがチームなのです。
トム・ホーバス著、日経BP、1870円(税込み)

