バスケットボール女子日本代表を東京五輪銀メダルに導き、男子でもパリ五輪出場権を獲得したトム・ホーバス・ヘッドコーチ。バスケットボールの名将がチームビルディング、組織マネジメントの哲学、ノウハウを余すところなく明かした著書『スーパーチームをつくる!』から、一部を抜粋してお届けする。第2回は「キャプテンに求める2つの資質」について。

選手全員がリスペクト

 2021年11月、男子日本代表ヘッドコーチとなって初めての国際試合となった中国戦から、このチームのキャプテンは富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)が務めています。

 選手たち全員が彼をリスペクトしているように感じたのが第一の理由です。NBA選手である渡邊雄太選手(メンフィス・グリズリーズ)も八村塁選手(ロサンゼルス・レイカーズ)も、アメリカでのプレー経験のある馬場雄大選手(長崎ヴェルカ)も、彼に一目置いていました。彼があの小さな体で長く国際舞台で戦っていること、若い頃からアメリカで挑戦してきたこととも無縁ではないでしょう。仲間から敬意を集めることは、キャプテンとして重要な要素の1つです。

2021年、バスケットボール男子日本代表のヘッドコーチに就任したホーバス氏は、キャプテンに富樫勇樹選手を指名した(写真:共同通信社)
2021年、バスケットボール男子日本代表のヘッドコーチに就任したホーバス氏は、キャプテンに富樫勇樹選手を指名した(写真:共同通信社)
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 もう1つは、彼は変わる必要があったということです。富樫選手はコート上では勝負強くて賢い選手ですが、普段はクールなキャラクターです。態度や言葉で引っ張るタイプの人間ではありませんでした。

 東京オリンピックの女子日本代表キャプテンだった髙田真希選手(デンソー アイリス)も物静かで、富樫選手と同じようなタイプです。同じようなキャラクターを狙って選んだわけではありませんが、私はヘッドコーチとして、選手本人ですら知らなかった力を引っ張り出したいと強く思っています。

 「キャプテンになればもっとできるようになる。あなたが強くなったら、チームが強くなる」。富樫選手には、そう繰り返し言っています。彼をキャプテンに置けば、彼自身にポジティブな変化が起きるし、同時に私たちのチームにとっても素晴らしいチャンスになると思ったのです。

 私はもともと富樫選手のことをよく知っていたわけではありません。でも、直感的に彼がいいと思いました。そこでヘッドコーチに就任した後、千葉ジェッツの試合を見に行きました。

「僕を必要としてくれるのですか?」

 彼に「日本代表でプレーすることに興味がありますか」と聞いたら、彼は「僕を必要としてくれるのですか?」と答えました。私はすぐさま、「100%、必要です」と返しました。その後の彼は素晴らしかった。彼は日本代表の一員になりたいという意思を態度で示してくれました。

 キャプテンに決めたのはもう少し後でした。中国との2連戦の前に、ナショナルトレーニングセンターで初めての合宿をしました。あの時はポイントガードを6人呼んでいたから、1試合にそれぞれ3人ずつ出して、私のバスケットをどれくらい表現できるのか試すことにしていました。

 それを伝えた時、富樫選手は少し不満そうなリアクションを取りました。気になって、「どうしてああいう態度を取ったの?」と聞いたら、富樫選手は「2試合ともプレーしたかった」と言ったのです。私は東京オリンピックの後だし、リーグも始まって疲れがたまっているから体調を考慮したんだ、と返しました。

チームが勝てばいいんです

 ただ、内心は「ああ、いいな」と思っていました。彼のバスケットボールへの情熱を感じました。彼はずっとうまくなりたい人なんです。私はそういう選手が好きです。だから、その後すぐに「キャプテンをやりませんか。このチームのキャプテンとして、一緒に成長していってほしい」と打診しました。彼は快諾してくれました。

 ワールドカップでは第3戦のオーストラリア戦から、ポイントガードの先発に河村勇輝選手(横浜ビー・コルセアーズ)を起用するようになりました。前の試合のフィンランド戦で大活躍した流れを重視しました。そんな時も富樫選手はチームのことだけを考えていました。私が十分なプレータイムを与えられず申し訳ないと謝っても、彼は「そんなことを気にしていません。チームが勝っていれば、それでいいんです」と言ってくれました。

 彼はまさにリーダーです。みんなが彼の言葉に耳を傾けます。素晴らしい精神性の持ち主で、日本代表の試合のこともよく考えています。

 人間的にも間違いなく成長しました。最初は仲間が集まるハドルで少ししか話さなかったのに、今はみんなを鼓舞して、チームに必要なことを伝えてくれます。以前は自分のプレー、ポイントガードとしての仕事の視野にとどまっていたのに、もっと広く物事を見られるようになりました。私は彼と二人三脚で日本代表の強化に関わることができて本当に幸せです。

うまく話せないタイプの名リーダー

 私がキャプテンに求める資質は、みんなの尊敬を集められる人間か、継続して高いレベルのプレーができるかの2点です。私は男女の日本代表のキャプテンに、あまりうまく話せるタイプでない富樫選手と髙田選手を選びました。髙田選手は当時、国内での優勝経験がない選手でしたが、キャプテンを務めて、彼女にもチームにも良い変化が起きました。女子代表はオリンピックで銀メダルを獲得し、もちろん彼女も素晴らしいリーダーに成長しました。

 富樫選手も同様です。2人はスピーチがうまい従来型のリーダーだけが必ずしも結果を残すわけではないということを証明してくれました。

 『キャプテン・クラス』(サム・ウォーカー著)※という本があります。偉大な成果を残したアメリカの16のスポーツチームのキャプテンの資質に焦点を当てた本です。以前、(アシスタントコーチの勝久)ジェフリーに「何かいい本はない?」と聞いたら、この本を紹介してくれて一気に読みました。

 キャプテンは必ずしもベストプレーヤーである必要がないという意見や、チームにとって最も重要なのはキャプテンだという意見は、私の考えるチームやキャプテンのイメージと重なる部分がありました。リーダー育成に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

※ 邦訳版『常勝キャプテンの法則 スポーツに学ぶ最強のリーダー』(2018年 早川書房刊)
バスケットボール女子日本代表を東京五輪銀メダルに導き、男子でもパリ五輪出場権を獲得した名将、トム・ホーバス・ヘッドコーチ。ホーバス氏が最短・最速で目標を達成するために実践してきたチームビルディング、組織マネジメントとはどのようなものなのか。自身の哲学、ノウハウを余すところなく明かす。パリ五輪のバスケ観戦がさらに楽しく、興味深くなる1冊。

トム・ホーバス著、日経BP、1870円(税込み)