『ウォール街のランダム・ウォーカー』の初版は1973年に出版され、50周年を記念した最新版が発売された。インデックス投資の優位性を半世紀にわたって説いてきたが、その優位性はますます高まっている。90歳を超えた著者、バートン・マルキール氏がこの手法に自信を深めているのはなぜか。『 ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版> 株式投資の不滅の真理 』(井手正介訳/日本経済新聞出版)より抜粋のうえ紹介する。

50年前の主張は今でも正しい

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』の初版を世に出してから、50年の年月が流れた。私が初版の中で提示した投資戦略は、次のような単純明快なものであった:個別銘柄を売買したり、それらを組み入れて運用される投資信託に投資したりするよりも、幅広い銘柄に分散投資した市場インデックス・ファンドを安定保有する方が、はるかに良い結果が得られる、と。そして私は大胆にも、「個々の銘柄の将来見通しに関するあらゆる情報は、速やかにその株価に織り込まれる」と言い切ったのだ。それが正しいとすると、目隠ししたサルが新聞の株式相場欄目がけてダーツを投げて銘柄を選び、それを組み入れて作ったポートフォリオも、専門のファンド・マネジャーが運用する投資信託も、結果はさして変わらないのだ。

 もちろん文字通りダーツを投げて銘柄を選ぶことを勧めているわけではない。より適切な例えを挙げれば、新聞の株式相場欄を広げて大きなタオルを投げ、それに覆われた幅広い銘柄群をすべて含んだポートフォリオを安定保有するのだ。こうして作ったポートフォリオは、実のところプロが運用する株式投資信託を上回る結果をもたらす可能性が大きい。というのも、後者の場合は高い運用手数料や売買費用、そして売買益が出た場合の税金などによって、リターンの一部が必ず食いつぶされるからだ、と書いた。

 それから50年たった今、初版で提示した上のような考え方が正しいことを、一層強く確信している。そしてこの確信は、200万ドルを超える50年間の累積投資実績によって裏づけられているのだ。株式市場インデックス・ファンドが初めて売り出された1977年初めにそれを1万ドルで購入した投資家がいたとして、毎年の受取配当金を再投資して2022年初めまで保有したと仮定すると、その投資はなんと214万3500ドルに増えたことになる。一方、プロが運用する株式投資信託の平均が買えたとして、それを一貫して保有し続けた場合の市場価値も大きく増えたものの、147万7033ドルにとどまったのだ。この差額に注目してほしい。インデックス・ファンドを選んだ投資家は、この45年間で66万6467ドルも得したことになる。

 今日ではインデックス投資が最善の運用戦略だという考え方は、広く受け入れられている。実際、現在保有されている株式投資信託の資産の半分以上が、インデックス・ファンドで運用されている。これに加えて何兆ドルもの資金が、ETF(上場投資信託)と呼ばれる取引所上場インデックス・ファンドで運用されている。しかし初版本が出た時には、「市場平均に投資すべきだ」などというアドバイスは、ばかばかしい、不適切な考え方だとさげすまれたものだ。

 また当時、株価はランダム・ウォークするという考え方は「好意的に受け止められなかった」、などという生易しいものではなかった。例えば週刊ビジネス・ウィーク誌の株式市場担当者は、本書をろくすっぽ読みもしないで、紙くずかごに投げ捨てたものだ。彼によれば、良くも悪くも市場平均リターンを約束するというインデックス運用の考え方は、好意的に見ても「ナイーブな素人考え」であり、もっと辛らつに言えば「不謹慎そのものだ」と切り捨てた。投資家がなぜ平均リターンで我慢しなければいけないのか、というのだ。また別の評論家は、「米国の株式市場は、かなりの程度効率的だ」という指摘に対して、「数ある経済思想の中でも、最もばかげた仮説だ」と断じたものだ。

 しかし私はひるまなかった。もし世の中に私の主張に異論を唱える人が一人もいなかったなら、そんな考えを盛り込んだ本を出版する価値もないんじゃないか、と考えたのだ。もし批判されるのが嫌なら、何も書かず、何もしないのが一番なのだ。

目隠ししたサルがダーツを投げて選んだ銘柄で作ったポートフォリオも、専門のファンド・マネジャーが運用する投資信託も、結果はさして変わらない(写真/Shutterstock)
目隠ししたサルがダーツを投げて選んだ銘柄で作ったポートフォリオも、専門のファンド・マネジャーが運用する投資信託も、結果はさして変わらない(写真/Shutterstock)
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スタートは散々だった

 初版が出てから3年後に、ジョン・ボーグルがCEO(最高経営責任者)を務めるバンガード・グループが、一般投資家向けに初の株式市場インデックス・ファンドを売り出した。しかしこの画期的な新商品も、ランダム・ウォーク仮説同様、売れ行きはさっぱりだった。同社はウォール街の証券会社を通して、このファンドを取りあえず2億5000万ドル販売することを目指した。しかし蓋を開けてみると、売れたのはたったの1100万ドルだけだった。購入時の手数料をゼロに設定して売り出したにもかかわらず、投資家にはさっぱりアピールしなかったのだ。

 私はボーグルに向かって、「結局大口の投資家は、君と私だけじゃないか」と、自嘲気味に言ったものだ。ウォール街ではインデックス・ファンドは「ボーグルの愚行」と酷評され、そもそもインデックス運用というコンセプトが、米国人向きではないと決めつけられた。その後も長い間、インデックス・ファンドは一般の投資家の心をつかむことはできなかった。ボーグル自身、いつか必ずインデックス・ファンドが日の目を見る日が来ると固く信じてはいたが、まさかそれに何兆ドルもの資金が投資されることになろうとは、夢にも思わなかったのだ。

 本書を読めば、米国の株式市場では新しい投資情報は速やかに株価に織り込まれる、言い換えればかなり効率的だということを示唆する多くの証拠があることが分かるだろう。加えて、私が提唱し続けてきたインデックス・ファンドの優位性を支持する証拠も、年とともに着実に積み上げてきた。この結果、市場の効率性に関しては懐疑的な人たちですら、インデックス運用のメリットを認めざるを得なくなってきた。

 初版以来私が一貫して目指してきたことは、本書を単に株式投資だけでなく、投資全般にわたる総合的な教科書にすることだった。その一環として、一般投資家に対して様々な投資理論を分かりやすく紹介し、投資の実践にどのように活用すればいいかを解説してきた。しかしここで、本題に入る前に「効率的市場」という概念を、できるだけ平易な言葉で整理しておきたい。この言葉が、新聞や雑誌で非常に誤解されて伝えられているからだ。そして老後に備えて、十分安心できる金融資産を蓄積することを目指すすべての人々にとって、なぜインデックス・ファンドへの投資を、運用の中心に据えなければならないかを、常識のレベルで分かりやすく説明しておきたい。

揺るがなかった「効率的市場仮説」

 インデックス運用を強調する基本にある理論は、「効率的市場仮説(Efficient Market hypothesis)」、略してEMHと呼ばれる考え方である。あのアインシュタインは、仮説や理論に関して、「もし6歳の子供に分かりやすく説明できないなら、あなた自身がそれをよく理解していないということだ」と言ったとされる。そこで以下では、私流の分かりやすい説明を試みてみたい。

 EMHは、次の2つの教義から構成される。1つは、効率的な市場では新しい投資情報は速やかに市場株価に織り込まれる、という考え方だ。企業の将来の業績にプラスあるいはマイナスの影響を及ぼすと思われる情報は、直ちに株価に織り込まれるというのだ。例えば現在株価が20ドルの医薬品会社が認可申請していた新薬が承認され、専門のアナリストたちはそれが20ドルの価値をもたらすと予想しているとしよう。すると同社の株価は、明日を待たずに速やかに40ドルに急騰するのだ。なぜなら、株価が40ドル以下ならその株価で買って直ちに転売すれば、労せずしてなにがしかの差益を手にすることができるからだ。

50年間の株価の変動の中でも、インデックス投資は確かな結果を残してきた(写真/Shutterstock)
50年間の株価の変動の中でも、インデックス投資は確かな結果を残してきた(写真/Shutterstock)
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 もちろん、新しい投資情報の適正な評価額がいくらかを正確に見極めることは、多くの投資家にとって容易ではないだろう。ある投資家はその新薬の価値を過大に評価し、また別な投資家は控えめにしか評価しないかもしれない。したがって市場株価は新しい情報をしばしば過大に、あるいは過小に織り込むことになる。新型コロナの爆発的な流行は投資家心理と経済全体への影響を、的確に予想することの難しさを示す好例だ。正確な予想が困難なため、株式市場のボラティリティーが大きく高まったのだ。

 しかしこうした新しい情報に対する市場の過剰あるいは過小反応を利用して、投資家が平均以上のリターンをあげることができるかどうかは、決して自明ではないのだ。これが、EMHを支えるもう1つの理論につながる。そして私に言わせると、これこそがより本質的な問題なのだ。それは、効率的な市場では、通常以上のリスクをとることなしには、通常以上のリターンを手にすることはできない、という考え方だ。

 その間に、この世の終わりかと思われるような場面が何回もあった。例えば1987年には、たった1日で市場の時価総額が20%も消失した。また世紀の変わり目には、ドット・コム・バブルが弾けて、名だたる成長株の多くが暴落して、紙くず同然になってしまった。アップルの株価は80%、アマゾンは90%も暴落したのだ。2007年から2008年にかけての金融危機下では、資本主義システムそのものの存亡が危うくなってしまった。そして新型コロナへの感染が爆発的に広がった2020年には、多くのメディアがもはや世の中は基本的に変わってしまい、修復は不可能だと報じた。

 こうした話は、もう聞き飽きた。大事なことは、そうした中にあっても毎月100ドル節約して、せっせとインデックス・ファンドに投資し続けた投資家は、いずれにしてもミリオネアになったという事実である。

1973年の初版以来、全米累計200万部を超え、「投資の名著」として絶賛されるベスト&ロングセラー、A Random Walk Down Wall Streetの最新版。本書の主張は「インデックス・ファンドへの投資がベスト」というシンプルなもので、その理由をデータを示してしっかり論じる。

バートン・マルキール著/井手正介訳/日本経済新聞出版/2970円(税込み)