業績好調な良品計画。「無印良品」を展開する同社には、近年、ファーストリテイリングやニトリホールディングスなど、競合他社からの転職者が増えている。商品開発の強さに定評のある良品計画だが、そこで転職組が一様に驚くことがあるという。新刊『 MUJI解剖 ヒットを生み続ける「問いの立て方」 』から抜粋して紹介する。(文中敬称略)

(前社長の)堂前(宣夫)が社長に就いた21年以降、商品開発担当者(マーチャンダイザー、MD)に多くの転職組が加わった。ファーストリテイリングやニトリホールディングスなど競合他社の出身者もいる。
「全然違う」
転職組のMDに話を聞くと、皆こう口をそろえる。古巣の会社とは、商品開発のやり方も考え方も全く異なると言うのだ。
違いを感じる点は様々だが、一言にまとめれば、商品化にあたって「MUJIらしさ」が求められることにある。
転職組を驚かせる「MUJIらしさ」とは?
日本を代表するプロダクトデザイナーで、無印良品のアドバイザリーボードに長年名を連ねる深澤直人は、こう述べている。
「MUJIらしさの定義は一様ではないが、製品化の基準はその『MUJIらしい』か『MUJIらしくない』かだけである。MUJIらしさの基準が縦に通った一本の線であるとすれば、MUJIの製品は常にその周りで微妙に揺れている」
MUJIらしさは曖昧な概念だ。社内でも明確になっていない。曖昧な基準を基に商品化の是非を判断するので、商品に投影されたMUJIらしさにも幅がある。
良品計画出身の専修大学教授・増田明子は、MUJIらしさを「暗黙知」と表現し、「メンバーの間では、ゆらぎつつも共有され、進化している」と解説する。
筆者の理解では、MUJIらしさはいくつかの要素で構成されている。それらの要素は創業時から受け継がれており、商品開発の軸となっている。
具体的には、どういうことか。新旧のヒット商品を手掛かりに、MUJIらしさを構成する要素を明らかにしていきたい。普遍性のある商品開発の核心が見えてくるはずだ。
前述の通り、MUJIらしさは曖昧な概念だが、「ものづくりの基本となる考え方」は、良品計画の公式サイトに「3つのわけ」として、まとめられている。
1.素材の選択
2.工程の点検
3.包装の簡略化
「3つのわけ」は余計な付加価値をそぎ落とす、引き算の発想をベースとしている。
「晴れた日に乗る自転車」が大ヒット
初期の代表的な商品が、1982年発売の「自転車(22型)」だ。

『無印良品のモノづくり発想』(流通企業研究会著、1996年刊行)によると、開発コンセプトは「道路交通法で定められている必要最低限の装備だけの自転車」だった。
自転車は様々な部品からできている。その中にはライトや泥よけなど、走るだけなら必ずしも不可欠でないパーツもある。ただ当時は付加価値としてパーツを満載した自転車が一般的だった。
無印良品の開発担当者は「自転車はどういうときに乗るか」と自らに問いかけ、健康維持のため晴れた日に乗ることを想定した。
自転車本体の仕様を最小限に絞り、ライトやかご、荷台といったパーツは別売りで用意した。本体価格1万2000円という手ごろさから、大ヒット商品となった。
ベースにある「引き算の発想」
26年7月に発売した、「ワイヤレスイヤホン」も引き算の典型例だ。発売後は「ワイヤレスヘッドホン ノイズキャンセル機能付」とともに当初計画を上回る売れ行きを記録した。色はホワイトとグレーの2種類で、丸みを帯びた容器にイヤホンが入っている。見た目はいたってシンプルだ。

価格は2990円(税込み)。3COINS(スリーコインズ)やドン・キホーテの商品を意識し、同水準の価格に抑えたという。
商品設計にメリハリをつけ、無駄を削ることで品質と手ごろな価格を両立した。イヤホン本体や容器は、生産委託先が持っていた既存のデザインを使うことで原価を抑えた。開発担当者が協力工場と直接やりとりし、中間コストも省いた。
「重低音」でなく「中音域」に注力した理由
音づくりのコンセプトは「暮らしに、いい音」。音楽に迫力を生む重低音を強調するといった演出は省き、人の声など中音域の音をはっきりと届けることに集中した。
国内のワイヤレスイヤホン市場は、ソニーやパナソニックなどの国内電機メーカー、アンカーなどの中国メーカー、そして3COINSやダイソーが競う。
無印良品の担当者によれば、他社の既存商品は、音楽を大迫力で楽しみたい趣味のニーズに対応した高機能タイプと、低価格を売りにしたタイプに二極化している。
国内電機メーカーは技術で差別化するために、付加価値としてダイナミックな音づくりに取り組んできた。家電量販店で価格が3万円以上する高額品も少なくない。
しかし、オーディオ機器の用途は音楽を楽しむことだけではない。仕事でオンライン会議に参加したり、家事をしながらラジオを聞いたりするニーズもある。
無印良品はオーディオ機器を日用品として捉え直し、普段使いのしやすさを突きつめた。
「疲れにくい音」に価値がある
筆者も無印良品のワイヤレスイヤホンで、音楽を聴いてみた。確かに、高価格品のような迫力はない。しかし、音は軽やかに、そしてクリアに聞こえる。
しばらくして、ある考えが脳裏に浮かんだ。このワイヤレスイヤホンの価値は、「疲れにくい」ということではないか――。
筆者の経験上、臨場感あふれる音を届ける高級品も、音が割れがちな低価格品も、使い続けると疲れてしまうことがある。しかし無印良品の商品は中音域にフォーカスしているため、情報量が少ない印象。耳に付けていて疲れにくい。
ワイヤレスイヤホンを開発した担当者に感想を伝えると、2、3度大きくうなずき、「まさにそれが狙い」と口元を緩めた。
イヤホンの開発担当者は、「この音が、無印良品というブランドを体現している」と胸を張り、こう付け加えた。
「この商品は、オーディオ機器へのアンチテーゼだ」
アンチテーゼもMUJIらしさを語る上で外せないキーワードだ。
無印良品は創業時から「消費社会へのアンチテーゼ」というコンセプトを掲げてきた。高級ブランド品とも粗悪品とも一線を画し、良質な商品を手ごろな値段で販売することを目指した。
「アンチテーゼ」とは、既存の命題に対立・矛盾する命題を指す。そこには先行する「テーゼ」が存在するという前提がある。無印良品にとってアンチテーゼは、業界の常識を疑うこと。付加価値の引き算は、先行する商品への逆張りと言える。
後出しで付加価値を抜く
無印良品は創業時から、どのカテゴリーにも後発で参入してきた。
ニトリ出身のMDは、「プロダクトライフサイクル(PLC)」の概念を使って、無印良品があえて後発参入する背景を説明してくれた。
PLCでは、製品やサービスは、市場に登場してから消滅するまでに「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」というプロセスをたどると考える。つまり、商品には旬があり、旬を過ぎれば市場が頭打ちになる。
ニトリなど多くの企業は、商品が急速に普及し始める成長期に参入し、シェアを高めようとする。市場の拡大を追い風にしようとするわけだ。
一方、無印良品は主に成長期ではなく、成熟期に進出する。「無印良品は市場をずっと見ている。そしてPLCの下がり目で、付加価値を抜いた商品を出す」(ニトリ出身者)
無印良品の商品開発は、「後出し」の利点を最大限活用している。
まず、後発参入ではすでに商品の生産技術が確立している。生産委託により割安で商品をつくれる。ワイヤレスイヤホンも既存のデザインを採用している。
そして、無印良品の得意技である視点をずらしたコンセプトの立案を使いやすい。
価格競争に巻き込まれないコツは「視点をずらす」
視点をずらす、とはどういうことか。
例えば「敏感肌用化粧水 さっぱり」などの化粧品。後発ながらも今では無印良品が大手ブランドの一角を占める商品カテゴリーだ。先行するブランドが、ハレの日の美しさを追求するとすれば、無印良品は、肌の健康を整える日常生活のアイテムとして位置づける。そして肌に優しい天然由来、という軸ですみ分ける。
無印良品は化粧品など特定カテゴリーの専業ではない。日常生活の基本商品をそろえるという方針のもとで、多岐にわたる商品を扱う。
MDが特定の商品カテゴリーを担当し続けることは珍しく、たいてい3年前後で他のカテゴリーに配置換えとなる。こうした事業モデルや人事慣行のもとで、業界の固定観念にしばられずに商品コンセプトをつくる。
後発参入でコストを削るだけでは、3COINSやダイソーなどとの価格競争に巻き込まれてしまう。
無印良品は日用品として既存カテゴリーを再定義することで、商品づくりの軸をずらし、巧みに競合他社との同質化を避けている。
[日経ビジネス電子版 2026年9月16日付の記事を転載]
梅國 典(著)/日経BP/2200円(税込み)
