「ESG投資」がもてはやされている。社会改善に貢献するのはもちろんだが、運用パフォーマンス的にも成功するのだろうか。投資の名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者、バートン・マルキール氏は、各企業の評価がバラバラであることなどから、ESGファンドにそのまま投資することに懐疑的だ。『 ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版> 株式投資の不滅の真理 』(井手正介訳/日本経済新聞出版)より抜粋のうえ紹介する。

各企業の評価は格付け会社でバラバラ

 2020年代の初頭に、積極運用の世界で最も大きな注目を集めたのは、「ESG投資」だ。その結果、ファンド・マネジャーたちは投資先企業を選ぶ際に、経営陣や取締役会のメンバーが企業統治面でベスト・プラクティスを実践しているかに注意を払うとともに、環境問題や社会問題への影響も具体的に考慮し始めた。ESG推進派の中には、ポートフォリオ構築に際して、こうした企業倫理に関わる要素を取り入れることは、単に社会改善に貢献するだけでなく、運用パフォーマンス面でもプラスに働くと主張する。その際しばしば引用されるのは、あのベンジャミン・フランクリンが言ったとされる、「善い行いをすれば、良い結果が得られる」という言葉だ。

 2021年の資産運用総額が10兆円になんなんとする、世界最大の資産運用会社ブラック・ロック社は、「持続可能な投資(サステナブル・インベストメント)はリターンを高める」と公言している。またブルームバーグ社は、「2025年までに積極運用ファンドの3分の1以上に相当する50兆ドルが、なんらかの形でESG投資をうたって運用されるようになるだろう」と予測している。

 しかし、このトレンドのベースになっている高潔な目的に対してなんの異論もないものの、投資先企業が実際にその目的にどの程度貢献しているかを検証することは至難の業だ。確かにいろいろなESG格付け会社がその必要を満たすために、総合的な「ESGスコア」なるものを提供している。サステナリティックス社や株価指数データの大手MSCI社はその代表で、投資資金の配分に大きな影響を及ぼし始めている。しかし同じ会社に対して個々の格付け会社が発表しているスコアは、実のところ「劇的に」異なっているのだ。MIT(米マサチューセッツ工科大学)の学者が行った研究では、いくつかの格付け機関の出しているESGスコアの間の相関係数は平均0.62で、特定の2社のスコアについてはわずか0.42だった。参考までに社債の格付けの場合には、S&P社とムーディーズ社の格付けの相関係数は、0.99であった。

 これらの格付け機関は、例えば温室効果ガス排出量といった同一の重要な要因についてさえ、全く異なるスコアをつけている。電力・ガス業界で排出量が最も多い会社の1つに、エクセル・エナジー社がある。同社は石炭使用割合が非常に高いことを理由に、いくつかの機関から低いスコアをつけられている。しかし同社はまた、2050年には米国の同業の中で他社に先駆けて完全にカーボン・フリーの経営を達成することにコミットしており、そのために風力発電施設に巨額の投資を行っている会社でもある。さて我々は、この会社の過去から現在までの経営実態を理由に投資を見送るべきか、ゆくゆくはガス排出量が大きく低下することにつながる責任あるコミットメントを評価して、投資すべきだろうか。

 温室効果ガスとは関係のない分野についても、ESG格付け会社のつけるスコアはバラバラである。例えば同じアップル社に対するスコアを見ると、リフィニティブ社は100点満点で73点をつけているのに対して、S&Pグローバル社はたったの23点と、同業22社の中でも最下位に近い低評価を下している。ESGの1つの柱である企業統治についても、格付け機関の間の評価のバラツキは大きい。サステナリティックス社はアップル社の経営はベスト・ガバナンス基準を模範的に満たしていると高く評価しているのに対して、MSCI社はアップル社を同業の中でも下から2番目の低評価しか与えていない。

ESG投資の評価は定まっていない(写真/Shutterstock)
ESG投資の評価は定まっていない(写真/Shutterstock)
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「エコ・フレンドリー」に見せかける企業も

 もし温室効果ガス排出量や企業統治といった重要な問題で評価が分かれている企業を投資対象から外すということになれば、いったいどんな企業が合格するのだろう。ためしにESG投資信託とESG ETFに組み入れられている銘柄群を調べてみると、アルファベット社(グーグルの親会社)、メタ・プラットフォームズ社(フェイスブックの親会社)、ビザ社、マスターカード社がトップ4になっていることが分かった。しかしこれらいずれの会社も、それぞれいろいろと問題を指摘されている企業でもある。果たしてすべてのESG投資家たちは、個人情報の乱用疑惑や法外な高金利徴求批判を浴びているこれらの会社に投資して、社会的良心が痛まないのだろうか。

 ESG投資ブームで多くの会社がいわゆる「グリーン・ウォッシング(見せかけの環境重視経営)」に手を染めるところが増えている。すなわち、多くの会社が実際にはほとんど環境問題に貢献していないにもかかわらず、あたかも「エコ・フレンドリーな」企業であるかのように見せかけているのだ。ある航空会社は、「わが社は欧米ルートで炭素排出量が業界で一番少なかった」と吹聴していた。その根拠として用いたのが、「乗客1人当たり排出量」という指標であった。しかし実態は全く逆で、同社は単に大型機中心の編成を組み、座席数を大幅に増やして、乗客数を大きく増やしていただけだった。また、平均温度の基準をカ氏からセ氏に変更して計測すれば、そもそも地球温暖化現象など起きていないと主張する者まで現れたのには、苦笑を禁じ得ない。

 ESG投資を標榜する投資信託は、社会的投資は高いリターンをもたらすと主張する。短期間について見れば、ESGファンドの中には平均以上の成績をあげるものもある。例えば新型コロナの流行が始まったため相場が下落する中で、ハイテク銘柄が大幅上昇した2020年についてみると、石油株を全く組み入れていなかったESGファンドは、軒並み好成績をあげた。しかし翌年には石油株は勝ち組の1つになった。もっと長期についてみると、ESG投資信託が一貫して好成績をあげていることを確認した。信頼できる実証研究は今のところ1つもない。

 ESG投資信託の多くは、インデックス・ファンドに比べると分散度が低い。したがってその分リスクが高く、リターンは低くなりがちだ。ESG投資信託のファンド・マネジャーが高いリターンが見込めると言うとき、もしかしたら運用手数料のことを言っているのかもしれない。

どうしてもESG投資をしたいあなたへ

 ESG投資信託についてもっと幅広い調査を行ったのは、サム・アダムズとラリー・スウェンソンだ。彼らによると、研究者によって結論はまちまちだが、ESG投資が明らかに長期的に好成績をあげていることを示す証拠は、1つもない。ESG運用の短期と長期の成績の乖離(かいり)が、異なった実証分析が報告されている1つの原因だ。

 社会的にESG投資に対する需要が高まったことを受けて組み入れ銘柄の株価が上昇し、ファンドの短期のパフォーマンスは向上する。しかし、組み入れられたいわゆる「グリーン銘柄」のPER(株価収益率)が上昇して資本コストが低下するため、長期的な必要収益率が低下すると言うのだ。この結果、中長期的なリターンの犠牲のもとに、短期的な高いリターンが得られると言う。ESG投資を行いたい投資家は、過度の期待は禁物だ。

 そこで、どうしても蓄えの一部をESG投資に振り向けたい投資家へのアドバイスだ。その場合でも、あくまで運用の中心は低コストの市場インデックス・ファンドに置くべきだ。その上で資金の一部を、例えば再生エネルギー株ファンド、あるいはそれぞれの投資家が重要と考える社会問題を重視したファンドに投入してはどうだろうか。その場合でも大切なことは、組み入れ銘柄を詳しくチェックして、本当に自分の重視する倫理的な問題に資するファンドかどうかを精査すべきだ。デューディリジェンスこそが重要なのだ。環境投資が同時に市場平均を上回るリターンをもたらすなどという幻想に、決して惑わされてはいけない。善き行いをすることは、「言うは易く行うは難し」だ。

1973年の初版以来、全米累計200万部を超え、「投資の名著」として絶賛されるベスト&ロングセラー、A Random Walk Down Wall Streetの最新版。本書の主張は「インデックス・ファンドへの投資がベスト」というシンプルなもので、その理由をデータを示してしっかり論じる。

バートン・マルキール著/井手正介訳/日本経済新聞出版/2970円(税込み)