仮想通貨への異常な熱狂、この暴騰と暴落を繰り返す投機的活動は今後も有効なのか。投資の名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者、バートン・マルキール氏は、ボラティリティーの高さと政府監視に置かれる可能性を指摘し、ドット・コム・バブル狂奏曲にも似ていると警鐘を鳴らす。『 ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版> 株式投資の不滅の真理 』(井手正介訳/日本経済新聞出版)より抜粋のうえ紹介する。
ドット・コム・バブル狂奏曲に似ている
2000年代の最初の20年間に見られた、もっとも規制のない投機的な活動の盛り上がりは、株式とは無関係の世界で起こった。ビットコインや他の暗号資産に関する異常な関心の高まりを反映して、世界的な規模でトレーディング活動が盛り上がり、前代未聞の市場価格の乱高下を引き起こした。仮想通貨の異常な値上がりと、それが世界中の群衆の心をとらえ、夢をふくらませた様は、ドット・コム・バブル狂奏曲に気持ちが悪いほど似ている。
世界中で取引される仮想通貨「ビットコイン」は、「近未来の通貨のモデル」と評価する人もいれば、「最悪の詐欺スキーム」と切り捨てる人もいる。ともあれ、そのピラミッド型の構造からしても、巨大な金融バブルに発展する可能性は否定できない。現に、1単位当たりたったの1~2セントで始まったビットコインの価格は、2017年末にはなんと2万ドル近くまで、劇的に上昇したのだ。その1年後には価格はわずか4000ドルに下落したが、2021年4月には6万ドルに達した。かと思うと、その2カ月後には半分の3万ドルに下がっている。その過程で短時日の間に数千ドル単位で暴騰、暴落を繰り返し、ボラティリティーは2~3日で50%に達することも珍しくなかった。ソーシャル・メディア、レディットのフォロワーが魅了されたのも無理はない。
結局ビットコインは、グローバルな決済システムに革命をもたらす有望な新しいテクノロジーの先駆けなのか、それとも参加者の大半に大損させて弾けてしまう投機バブルの最新版にすぎないのだろうか。答えは、おそらくどちらも「イエス」だろう。少なくともビットコイン取引を支えるブロックチェーン技術は本物であり、今後さらに改良されて世の中に広まっていくだろう。いずれにせよ、このテクノロジーのおかげでグローバルな決済システムは大きく変革されていくだろう。
ブロックチェーンや類似の分散型公開帳簿技術の特性は、医療診断履歴や車両点検、修繕履歴といった分野への応用が可能と思われる。世界中の企業の設立登記業務で大きな収入をあげてきたデラウェア州は、ブロックチェーン技術を企業の履歴書作りに応用する準備を始めている。ドバイは、政府が保管するすべての書類をブロックチェーンで管理するシステムを開発中である。ビットコインの大成功に刺激されて生まれた他の仮想通貨の取引に関しても、同じ分散型公開帳簿が用いられている。
技術と価格の健全性には関係がない
実際、ブロックチェーン技術は取引コストを引き下げ、執行のスピードアップをもたらす、大きな可能性を持っている。そして、政府や金融機関の介在なしに、仮想通貨取引の安全な執行が促進されるだろう。問題は、基盤になるテクノロジーが健全だからといって、それを用いて取引される商品の価格形成もまた健全だとは限らないことだ。例えば、1990年代にインターネット時代が到来したことは紛れもない事実だが、その背骨ともいうべきスイッチやルーターの大手メーカーだったシスコシステムズの株価が、インターネット・バブルの崩壊とともに90%も暴落したこともまた事実なのだ。そしてビットコインや他の仮想通貨の価格上昇の実態は、紛れもなく古典的なバブルの特色を色濃く宿している。
投機バブルかどうかを判断する1つの基準は、対象資産の価格の上昇度合いだ。1~2セントだったビットコインの価格は、2017年末に2万ドル近くまで暴騰し、その後急落した。2021年のビットコインの値動きは、安値が2万8800ドル、高値は6万9000ドルだった。
ビットコインの値動きは激しく、たった24時間の取引で30%も変動することも珍しくなかった。それ以外の仮想通貨についても同様だ。価格上昇の度合いはオランダのチューリップ・バブルをはるかに上回り、歴史上のどのバブルも、ビットコインと比べるとまるでさざ波のように見える。価格上昇率、価格の変動幅の両方を考えると、仮想通貨バブルは市場最大規模のバブルと言って差し支えないだろう。
すべてのバブルは、その時代を彩る大衆文化の一部となった、魅力的なストーリーによって増幅される。ビットコインもその例にもれず、風評や噂話が21世紀人やZ世代の若者の欲望と情熱をあおり立てたのだった。それはまた、インターネットがいかにミーム株の伝染を促進し、バブルを増幅する力を持っているかを物語るものでもある。
ビットコイン・バブルはいつ弾けるか
様々なリスクの可能性を考えると、ビットコインの将来を予測する際には最大限の注意が必要と言えよう。ビットコインのマイニングには膨大な量のコンピュータ使用時間と電力を使用するため、分散型公開帳簿システムを管理するコンピュータの使用が規制されるかもしれない。1つの新しい仮想通貨を作り出すのに必要な電力使用量は、標準的な米国の家庭2年間のそれに匹敵するといわれる。また、ビットコインのネットワークを維持するのに必要なコンピュータ・システムの総電力消費量は、中規模国家の年間消費量に相当するともいわれている。
ビットコインの支持者たちは、コインの発行枠には2100万という上限があることを強調する。しかし、あまた生み出されたそれ以外の仮想通貨には、そうした上限は設けられていない。「イーサ」と呼ばれる仮想通貨を運用するイーサリアムの支持者たちは、こっちの方がビットコインより優れていると言う。イーサのプロトコルの制度設計の方が柔軟で、機能性も高いと言うのだ。また、XRPという仮想通貨を運営するリップルは、国際的な決済をより高速かつ低コストで執行することを目的に作られたものである。
2017年だけで、詐欺的なものも含めると700以上の仮想通貨が新しく作り出された。こうして次々と作り出される仮想通貨の潜在的な総量は、ほとんど無限大なのだ。オランダのチューリップ・バブルは、ある日多数の投資家や投機家がとりあえず値上がり益を確保しようと、一斉に売りに出たことをきっかけに暴落が始まった。ビットコインの場合は、「ホエールズ」と呼ばれる特定少数の保有者が占める割合が大きく、もし彼らが保有分の一部でも売りに出そうものなら、価格は暴落するだろう。
もしビットコインが違法な取引を執行するために使われる場合には、仮想通貨は大きな危機に見舞われるだろう。例えば身代金の支払いや脱税を含む様々な経済取引に仮想通貨が利用されれば、どの国の政府も座視することはないだろう。また、自国の通貨の管理権を放棄することもないだろう。北京からワシントンに至るまで、どの国の政府もビットコインのマイニングや売買を放任するなどということは期待できない。将来一般企業ではなく政府自らが広く受け入れられている仮想通貨のスポンサーになる可能性が大きいのではないだろうか。
バートン・マルキール著/井手正介訳/日本経済新聞出版/2970円(税込み)

