「スタートアップ×伝統企業」の連携は、企業を進化させるオープンイノベーションの切り札となり得る。その先進的な取り組みを続けている日本企業の代表がコマツである。同社はスタートアップも含めた多様な企業と連携し、「ダントツ商品」を生み出し続けている。かつては「自前主義のものづくり企業」だったコマツが、オープンイノベーションによって進化している背景には、どのような思考法があるのか。『 企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業 』から抜粋してお届けする。

自社のリソースの限界を認識

 建設機械メーカーのコマツは、100年の歴史を持つ伝統的企業(2023年で創業102年)であるが、新しいテクノロジーの導入などで先端を走り、次々と「ダントツ商品」を生み出している。建設機械に通信機能を持たせた「Komtrax(コムトラックス)」、建設生産プロセス全体のあらゆるデータをICTで有機的につなぎ、そのデータを活用して建設現場をデジタルで「見える化」していく「スマートコンストラクション」など、いわゆる「モノ」ではなく「コト」のサービス提供を実現し、成長を維持している。

 この背景には、オープンイノベーションという言葉が日本で知られる以前から、コマツが実質的なオープンイノベーションの取り組みを続けてきたことがある。自社のリソースだけでは限界があることを察知し、異業種パートナーとの連携に早くから活路を見出してきた。

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 「両利きの経営」でいうところの「探索」の担当者として、2012年から海外を10年以上飛び回り、同社のオープンイノベーションを推進してきたCTO室の冨樫良一氏は、2000年代以降のコマツの歩みを次のように語る。

 「コマツは長いこと自前主義でやってきた、いわゆるものづくりの会社です。製品だけでなくサービスもずっと自前主義でした。けれども労働力人口の減少や市場競争の激化から、このままではいずれ頭打ちになってしまうことが見えていた。そうした危機感から誕生したのが建機の情報をリモートで確認するコムトラックスです」

 コマツは1990年代、大きな悩みを抱えていた。建機が故障したときに修理に時間がかかることである。コマツの建機が稼働している現場は、町中だけではなく、人里離れた山奥にもあり、故障したときにサービス員が駆けつけるまでに時間がかかるし、現場で状態を確かめて必要な部品を手配してから修理をするので、完了するまでさらに期間を要する。

 そうした悩みを解決したのがコムトラックスだった。コムトラックスは建機にGPS機能を搭載して位置を把握するとともに、建機のデータから稼働状況を分析できるようにしたものだ。2001年からはコムトラックスが標準装備となり、そこから20年かけて現在は世界で稼働しているおよそ68万台に搭載している。

全方位でパートナー企業と協業

 コムトラックスが標準装備されたことによって、次なる打ち手も見えてきた。機械の稼働時間や位置情報などのデータがクラウドにすべて集められるようになったことで、稼働現場の「見える化」が進んだのだ。そしてコマツは2008年に鉱山機械における無人運転・自律運転システムを工事現場に導入した。すでに鉱山の工事現場では無人トラックが自動運転を実現している。

 「自社の技術では追いつかない分野、例えばドローンや通信、ソフトウェアなどの領域はパートナー企業と協業することで、より発展させる道を選んできました。その意味で、この20年間はオープンイノベーションの世界に注力してきたとも言えるかもしれません」(冨樫氏)

 コマツの協業パートナーは多種多様だ。2015年には、ドローンを利用した地形測量や3Dマッピングテクノロジーサービスを提供するアメリカのスタートアップと共同で、短時間で高精度な3D地形を生成しユーザーに提供するサービスを開始し、スマートコンストラクションに組み込んだ。ドローンやカメラと通信することで、建設現場における安全性・生産性向上に大きく寄与している。

 こうしたコマツの取り組みは、オープンイノベーションのお手本のような事例といえるだろう。スタートアップから異業種の大企業まで、他社との協業を進めることによって成長を続けてきた。

世界トップの技術力×外部リソース

 冨樫氏は、「建機に関しては、自分たちが世界トップレベルの技術力とこだわりを持っていると自負しています」と述べた直後、「ただし」と次のように付け加えた。

 「では技術力だけでお客さまの期待に応えられるか?と問われると、そうとは言い切れない時代になっていることも痛感しています。建機だけでは足りなくて、プラスアルファの側面が付加されないと顧客の期待には応えられない。我々にとってはそのプラスアルファが通信技術やソフトウェア開発であり、そこは自分たちの得意分野ではないという割り切りが最初からあったからこそ、外部のリソースを探すことに躊躇がなかったのかもしれません」

 「根底には何より顧客中心思考があります。顧客の期待に応え続けるためには、ものづくりに加えて、顧客のオペレーションに入り込むようなソリューションが必要です。それを実現するには、自前主義から脱却する必要がありました」

 コマツの技術力を示す製品として、無人ダンプトラック運行システムのAutonomous Haulage System(AHS)がある。これはコマツが顧客の課題解決を目指したオープンイノベーションによって生み出された。

 コマツ製品のユーザーは鉱山の採掘者も多い。鉱山は人里離れた地域にあり、高温乾燥、極寒、高地といった過酷な労働環境にある。そこで働くトラックのオペレーターは高収入を提示されるが、それでも採掘事業者は人材採用に苦労している。人材が限られ、労働環境が過酷なため、事故も当然ながら起こる。運転手が働けなくなれば採掘作業は滞る。この課題を解決するためにAHSは開発された。AHSを採用すれば採掘事業者はトラックのオペレーター確保の必要がなくなる。

 このAHSを開発するにあたっては、鉱山機械管理システムの開発製造を手がけるモジュラーマイニングシステムズ(MMS)の買収(1996年)が多く寄与している。同社の持つ技術力と、幅広い技術を持つスタートアップとのネットワークを活かし、AHSは開発された。AHSを通じて、鉱山分野におけるコマツと顧客との関係性は、単純に鉱山機械とメンテナンスを提供するものづくりの会社と購入先という関係から、さらに踏み込んで施工計画・管理もコマツが担うパートナーのような関係となった。

ユーザー企業の経営者を登用

 コマツは、「探索」への取り組み方という点でも先進的である。新規事業探索にあたって、柔軟な組織運営を続けている。

 コマツは2014年、新規探索に特化した組織として、社長直下にCTO室を設置した。立ち上げ当初のメンバーは冨樫氏ただ1人だった。

 こうした組織の新設に加えて、人材の登用という点でも、コマツは柔軟だった。

 コマツのスマートコンストラクション事業の話題になると、四家千佳史氏の名前がしばしば登場する。四家氏は現在、コマツの執行役員スマートコンストラクション推進本部長であり、同事業の進化を目指して設立されたEARTHBRAINの代表取締役会長でもある。

 四家氏はもともとコマツの社員ではなかった。1997年に福島県で建設機械レンタルを行うビッグレンタルを創業し、コマツ製品のユーザーであり、コムトラックスの最初のユーザーでもあった。

 コマツは建設現場のデジタルトランスフォーメーションを進めるために、自社の顧客であったビッグレンタルをコマツレンタルの傘下に入れた(BIGRENTALに社名変更)。2009年にはBIGRENTALとコマツレンタルが経営統合し、四家氏はコマツのレンタル事業を担うことになる。建機レンタルというサービス業で成功していたことで、従来のものづくりにはない顧客目線で、コマツのオープンイノベーションの一端を担ってきた。さらに2015年には、四家氏がスマートコンストラクションの責任者に就任した。

 外部から招いた人材をキーマンのポジションに据えた点は、日本の大企業のセオリーとは明らかに異なる。コマツでは、もはや「社内」と「社外」の境界線は消失している。一歩先を行くロールモデルだろう。

戦略事業をカーブアウト

 2021年には、スマートコンストラクションをさらなる顧客目線で追求していくために、企画開発部門の一部をカーブアウト(親会社が戦略的に子会社や自社事業の一部を切り出し、新会社として独立させること)して、EARTHBRAINを設立。こうして四家氏はコマツのスマートコンストラクション推進本部長と、EARTHBRAIN会長を兼務することになった。

 コマツにとっての戦略事業でもあるこのスマートコンストラクションをカーブアウトした最大の理由は、採用していきたい人材や雇用形態などを変えていく必要性を感じたからだろう。だが、コマツ全体を変えることはできない。それならば、別の会社を設立したほうが合理的だと考えるのは当然の判断だ。

 さらに、「ありたい姿」を実現するために、EARTHBRAINにはコマツ以外の会社の資源も導入する方針を打ち出し、通信技術を持つNTTコミュニケーションズ、センシング技術を持つソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所からの出資も受けている。

 ものづくり一本からの脱却を図る上で、自社の組織カルチャーと違うレンタル事業を手がけるBIGRENTALを買収し、その社長に要職に就いてもらい、「コト」サービスを立ち上げる。さらにその事業を大きくするために、カーブアウトさせる。コマツがスマートコンストラクション事業を推進してきたこれらの一連の流れは、まさにオープンイノベーションに必要な「柔軟な探索」の先進事例と言えるだろう。

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実行力とスピード感を持って連携実行

 外部との連携におけるコマツの実行力とスピード感には驚かされる。2014年8月、スマートコンストラクション実現の道を模索していたコマツは、ベンチャーキャピタル(VC)からの紹介で、アメリカのあるスタートアップ企業と出会う。このスタートアップは空中ドローンを利用した地形測量や3Dマッピングテクノロジーを提供する創業1年目の若い企業だったが、出会って2カ月後にはコマツのビジネス部門責任者が初会合を済ませ、11月には業務提携の本契約に至る。

 さらに、コマツの大橋徹二社長(当時)の強いリーダーシップのもと、2015年1月には渋谷ヒカリエで発表会を行い、スマートコンストラクション始動を大々的に宣言。2月からは本格的にスマートコンストラクションを開始させた。大企業らしからぬスピード提携を実現した背景には、大橋社長の強い意志があったという。

 コマツの主力製品である鉱山機械や建設機械は、通常20〜30年にわたって使用される。長期間の使用に耐える耐久性が求められる商品で、しかも高い安全性が求められる。このような商品を作る組織には、慎重かつミスの許されない行動が求められることは想像に難くない。社員の行動は保守的になりがちである。にもかかわらず、コマツは技術的にも発展途上中のドローンのスタートアップとの迅速な提携を実現した。

 冨樫氏は、スマートコンストラクションのように社会課題の解決にチャレンジする事業を立ち上げるポイントとして、以下の4点を挙げている。

「常に顧客中心思考」
「トップダウンによるプロジェクト」
「実行しながら発展させる」
「脱自前主義/グローバル開発」

 いずれも新しい事業にスピード感を持ってチャレンジする上では欠かせないことであろう。

オープンイノベーションの「現場主義」

 コマツの経営陣は年に1度、Technology IAB(International Advisory Board)という名の役員合宿を行うことが恒例行事になっており、その取りまとめはCTO室が行っている。Technology IABは、外部有識者やスタートアップ企業との面談や最新プロダクトに実際に触れながらディスカッションを行い、長期的なビジョンについて語り合う機会である。コロナ禍においてオフラインでの開催は一時休止したが、2022年から再開し、社長、会長を筆頭に本社と関連部署の役員に至るまで全員がシリコンバレーに集った。

 コマツの信条は「現場主義」であると冨樫氏は語る。だからこそ、シリコンバレーという最先端の現場にトップ層が皆揃って足を運ぶことに意味がある。役員のフットワークの軽さに関して、コマツは間違いなく日本の大企業としてはトップクラスだろう。この定例合宿に限らず、コマツの経営陣は頻繁にシリコンバレーを訪れている。

(写真:Shutterstock)
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企業進化のスピードを上げなければ生き残れない時代、その実現に向けた提言と事例が満載。日本の伝統的企業がスタートアップ企業と連携し、オープンイノベーションを推進していく上での実践的ポイントを解説。連携をスムーズに進めるためのカギとして「ポリネーター」に着眼し、その行動や育成について解説。

中垣徹二郎、加藤雅則(著)、根来龍之 (監修)、日経BP、2420円(税込み)