多くの人々の視線がAIに注がれる一方、その陰で着実に進化を続けているテクノロジーがある。暗号技術を基盤としたブロックチェーンである。

 これまでのインターネットのあり方を根本から変えるやもしれないこの技術については、ご存じのとおり、ビットコイン(BTC)を代表格として、BTCやETHなどのトークン価格に人々は一喜一憂し、投機的なトレーディングに疲れ、3〜4年前のNFTブームに乗るもその終焉(しゅうえん)とともに興味を失い、FTX事件やハッキングのような詐欺的行為に嫌悪を抱き、離れていった。あるいは、そういった情報から怪しいものと決めつけ、最初から近づかなかった人も多いのかもしれない(注:暗号資産取引所FTXは、顧客資産を関連会社に不正に貸し出し、高リスクな取引に使ったことで損失が膨らみ、資金繰りが悪化して2022年11月に経営破綻した)。

 ブロックチェーンが可能にするのは、インターネット上でアセット(資産)を直接送受信したり、アプリケーションに組み込んで扱えるようにすることだ。これまで情報やコンテンツしか扱えなかったインターネットに、アセットを扱える新たなレイヤーが加わったと考えればいい。

 ただ、この本質や、その裏側で動く技術・ビジネス・文化といったものを、初心者にもわかりやすく体系的に解説してくれる、真に「ガイドブック」と呼べるようなものを見つけることはできなかった。そんな中で登場したのが、アンドリーセン・ホロウィッツのブロックチェーンスタートアップへの投資を専門にするファンド「a16z crypto」を率いる創業ゼネラル・パートナー、クリス・ディクソン氏による著書『Read Write Own』である。

 ブロックチェーンを理解する上で、決定的とも言える本書の中で、ディクソン氏はこの技術を経営学者の故クレイトン・クリステンセン氏が提唱した「破壊的イノベーション」だと位置付けている。それに対し、AIは「持続的イノベーション」と表現している(ただし、その重要性にも言及している)。破壊的イノベーションとは、一見するとおもちゃのようにしか見えず、多くの企業から見過ごされてしまうという特性を持つ。ブロックチェーンが「おもちゃ」であるかはさておき、こと日本ではAIの陰で見過ごされているテクノロジーであることは間違いない。

 本書は米国での出版からすでに1年以上たっている(初版は2024年1月)。しかし、ブロックチェーン推進派とも呼べるトランプ政権の復活により、取り巻く環境が変わりつつある。来たるべき「ブロックチェーンがある世界」に向けて、まさに今こそ読むべき重要なガイドブックとなっているのは間違いない。

 日本でも暗号資産が、新たに金融商品取引法での規制下に置かれることが議論されており、国家により「国民経済に資する資産」として扱われる公算が高い。そうなれば、その裏側がどのような仕組みで動いているのか、そしてその上でどのようなビジネスが成り立つのかを理解することは、非常に重要なことである。

 出版から1年が経過した今、本書の筆者であるクリス・ディクソン氏に、本書の背景と現在の状況について話を聞いた。

破壊的イノベーション:仲介者のいないプラットフォーム

今日はお時間をくださってありがとうございます。まず初めに本に関する質問をさせてください。あなたは本書でブロックチェーンを「破壊的な」テクノロジーだと述べています。対してAIは「持続的イノベーション」だと表現しています。今、多くの人や企業はAIに注目していますが、ブロックチェーンを基盤としたweb3についてはあまり注目していません。そこで改めて、なぜブロックチェーンが破壊的であり、なぜそれを活用して価値を引き出す必要があるのか、説明していただけますか?

クリス・ディクソン氏(以下、ディクソン氏):ブロックチェーンが可能にすることをシンプルに言うと、仲介者や、いわゆる中央にいる組織を排除したデジタルサービスを構築できるということです。

 たとえば、ステーブルコイン(ドルなどの法定通貨の価値に連動するよう設計された暗号資産:トークン)のようなものがあります。これは今非常に人気が高まっていますが、昨年のステーブルコインの取引量はVisaを上回りました。とても大きな規模です。ステーブルコインとは、1ドルや1円などの法定通貨の価値を表す仮想通貨のことです。

 通常、送金には多くの金融機関などの仲介者が存在し、彼らは手数料を取り、独自のルールを課し、あらゆる形で制御を行います。たとえば、米国ではクレジットカードを使うと、手数料として2.5%程度がその仲介者たちに取られます。

 でも、ステーブルコインを使えばピア・ツー・ピアでの支払いが可能になります。つまり、「中間に誰もいない」のです。これはあくまで一例です。

 他にもブロックチェーンでは、DeFi(分散型金融:ブロックチェーンを活用した金融サービス)のように、既存金融でできることをいろいろ再現できます。たとえば、暗号資産のレンディング(貸し付け)やトレーディング(売買)などがそうです。ここでも、誰かが大きな利益を取るのではなく、直接取引ができるのです。

 Aaveという人気のあるレンディングプロトコル(レンディングを提供するサービス)では、貸し手が借り手に直接(暗号資産の)貸し出しを行い、間に高額な手数料を取る業者はいません。これは、ユーザーにとって有利な経済性をもたらします。

 また、開発者にとっても有利です。なぜなら、こうしたシステムはさらに別のサービスをサービス上に構築できるからです。ブロックチェーンの世界では、これを「コンポーザビリティ」と呼びます。

 これは、オープンソースのコードと同じで、既存のコードに新たなコードを追加できるように、ブロックチェーンベースのサービスも他のサービスと組み合わせて再利用できるということです。非常に強力な特徴です。

Webインタビューに応じるクリス・ディクソン氏。ブロックチェーンの重要性を説く
Webインタビューに応じるクリス・ディクソン氏。ブロックチェーンの重要性を説く

「GAFAM」の独占を打破できる

 仲介者がいないというのは、もうひとつ大きな意味を持ちます。仲介者というのは、たいていコントロールを取りたがるものです。たとえば、アップルのiPhoneでアプリを開発する場合、アップルは多くの制限を課し、売り上げの最大30%を取ります。

 一方でブロックチェーンの上に構築する場合、そうした中央管理者がいません。つまり、仲介者を排除するというのがこのテクノロジーの核心です。

 そして、あなたの質問に戻ると、なぜこれが破壊的なのか、ということですが、それは、今の世界には「仲介者であること自体がビジネス」になっている組織が非常に多いからです。特にインターネットの世界ではそれが顕著です。

 Instagramに何かを投稿する時や、他の人の投稿を読む時、あなたはFacebookやInstagramのコンテンツを見に行っているのではなく、他のユーザーの投稿を見に行っていますよね? でも、その真ん中にいるのはFacebookという仲介者で、ほぼすべてのお金とコントロールを握っています。

 SNSはその一例です。金融もそうですし、ゲームもそうです。基本的に、インターネット上で行うことのほとんどに仲介者が存在します。そして、その仲介者たちは過去20年、インターネットの成長とともに非常に大きな利益を得てきました。

 現在、インターネットのトラフィックと利益の多くが、上位5社によって独占されています。当然、そうした企業たちは「仲介者を排除しよう」というイノベーションを好まないでしょう。そして、政府も含めた多くの既存の仕組みが、ブロックチェーンというテクノロジーを誤解しているために、好意的でないという面もあります。

 日本についてはわからないのですが、少なくとも米国では、過去4~5年にわたって規制による(ブロックチェーンに対する)強い反発がありました。これによって、ブロックチェーン領域の発展は大きく遅れてしまいました。正直に言えば、米国はこの分野で4年を失ったと思っています。

 ただ、少なくとも米国では、今それが変わりつつあると感じています。あなたも感じているかもしれませんが、日本はどうでしょうか? 私の理解では、日本はまだ評価が分かれていますが、ある程度好意的に受け止められている部分もあると聞いています。

 韓国でも一定の関心があるようです。なので、私は今後、人々がブロックチェーンの技術をよりよく理解し、技術そのものも成熟していく中で、成長フェーズに入ると期待しています。

 たとえば、米国では今、ステーブルコイン法案が議会で審議されています(注:インタビュー時。現在は上院で可決済み)。数カ月以内に法律として成立する可能性が高いと思っています。それによって、ステーブルコインに関する明確なルールが整備され、多くの既存の金融機関が新たに参入することになるでしょう。

 そうなれば、ブロックチェーンの他の領域にも同じような規制整備が広がり、その枠組みが米国から他の志を同じくする国々に伝播(でんぱ)していくことを願っています。

 ……とまあ、話し出すと止まらなくなるので、ここでいったん止めておきます(笑)。

トークンが実現する持続可能な自律した経済モデル

もう少し「なぜブロックチェーンが破壊的なのか」を知りたいです。それはあなたの本の中で、トークンが鍵であると書かれていました。なぜ、トークンはブロックチェーンにおいて重要で、そしてなぜそれが破壊的なのでしょうか?

ディクソン氏:トークンが重要なのには、いくつかの理由があります。

 ひとつの考え方として、ビットコインを例に取ってみましょう。ビットコインは、仲介者が存在しないデジタル金融サービスです。企業がコントロールしているわけではありません。

 ですが、それでもやはり運用コストをまかなう仕組みが必要になります。なぜなら、どんなデジタルサービスも、コンピュータを動かすコストがかかるからです。たとえば電気代や計算資源などですね。

 じゃあ、どうやってそれを支払うのか?

 ビットコインの場合、それがトークンで支払われるわけです。つまり「ビットコインマイニング(ビットコインの採掘)」です。

 ビットコインマイニングは人々にインセンティブを提供する方法です。マイナー(採掘者)は、このビットコインというデジタルサービスをホスティングする役割を担っています。彼らは、誰がどれぐらいのビットコインを持っているかという台帳を維持しているのです。

 そして、イーサリアム(Ethereum)やソラナ(Solana:イーサリアムの競合とされるブロックチェーン)のようなシステムは、この考え方をさらに拡張しました。

 イーサリアムの仕組みで説明すると、まるで昔のメインフレーム型コンピュータのようなものです。何万台というコンピュータに分散されながらも、ユーザーからは1つのクラウド型サービスのように見えるのです。

 このシステムを使うには、アクセス料を支払う必要があります。イーサリアムではこれを「ガス代(gas)」と呼びます。少量のトークンを支払ってアクセスするんですね。そしてそのトークンは、ネットワークを運営している人たちに還元されます。

 つまり、これは一種の「マイクロ経済圏」です。利用者が支払い、ホスト側が報酬を受け取る。持続可能な形で自律した経済モデルです。これが革新的なのは、こうしたモデルが外部の企業やベンチャーキャピタルに依存しなくても成り立つという点です。

 もし誰か外部の資金源に依存してしまえば、またしても仲介者が現れてしまうわけです。つまり、ブロックチェーンが本来排除しようとしている中央集権の再発が起きてしまうのです。

 だから、ビットコインが最初に示した天才的な仕組みは、「トークンを用いて経済圏を作ることで、企業に依存しない自律的なサービスが成立する」という点にあります。他のブロックチェーンもそれに続いています。

 いったん企業に依存する状態になってしまうと、あっという間にその企業が成長していって──ご存じのとおり、私たちはこれを実際に目にしてきました──FacebookやGoogle、それ以外のあらゆる企業で起きたのと同じことが起こるのです。彼らは主導権を握り始めて、利益をすべて自分たちのものにしてしまうのです。

 だからこそ、これは私の考えではありますが、(ブロックチェーンは)デジタルサービスの資金調達における非常に根本的で強力な新しい方法なのです。つまり、そうしたサービスに資金を提供する経済的アクターたちのもとに再び力が集中することなく、ということです。

 この仕組みでは、そのサービスがある種、コミュニティによって所有され続けるんです。そして、コミュニティが資金を出し、ホスティングし、このマイクロ経済を運営していくわけです。

 これは重要な点です。なぜなら、人々はトークンというものを──たとえば、暗号資産の話を耳にしたことがある一般の人なら、「売買するもの」だと考えていることが多いからです。もちろん、それも実際に存在するし、起きていることです。

 たとえばミームコイン(コミュニティによるネットミーム由来の仮想通貨)のようなものがあります。そして、どんな技術でもそうですが、それを悪用する人たちが現れて、ある意味誤用されることもあるのです。

 私は、正しい使い方とそうでない使い方を区別することが重要だと思っています。すべての技術は、適切な方法でも、不適切な方法でも使われ得るのです。

ブロックチェーンは仲介者のいない自律した経済モデルを実現する(写真:TStudious/stock.adobe.com)
ブロックチェーンは仲介者のいない自律した経済モデルを実現する(写真:TStudious/stock.adobe.com)

政策立案者たちのためのガイドブックとして

 本の中でも書いているのですが、私は暗号資産には「2つの文化」があると考えています。それを私は「カジノ」と「コンピュータ」と呼んでいます。

 「コンピュータ」は、私がここで説明しているビジョンです。それは、仲介者を排除する分散型コンピューティングシステムを新たに作り出す方法です。

 一方で「カジノ」は、そうしたアイデアを、私の考えでは、悪用してギャンブルに変えてしまうような、別の人たちのグループのことです。これが、ミームコインやFTXのようなものです。

 私が常に主張してきたのは、スマートな規制、つまり「規制が正しく機能するための方法」とは、技術を本質から深く理解した上で、その良い使い方を可能にし、悪い使い方を排除するような規制を設計することだということです。

 これこそが、私がこの本を書いた大きな理由のひとつです。私の本は、この技術の本質を明らかにする試みです。つまり、何が良い点で、何が悪い点なのかを示すためのものです。

 そして私はこの本を、政策立案者たちのためのガイドブックとしても書きました。彼らがポリシーを設計しようとする際に、良い使い方を可能にし、悪い使い方を排除するような政策を設計できるようにするためです。

 私の考えでは、AI、インターネット、原子力エネルギー、何でもそうですが、あらゆる技術は適切にも使えるし、不適切にも使えるのです。

 自動車もそうです。誰かがその技術を誤用したり、スピードを出しすぎたり、乱暴に運転したりしたからといって、「車が悪い」と言うべきではありません。私たちが言うべきなのは「その行動を抑えるための、より良いルールが必要だ」ということです。

 おそらく、それを完全に排除することはできないでしょう。でも、抑制することはできる、そうですよね?

 ただし、その第一歩は「それが何なのかを理解すること」なんです。そして、私がこの本を書こうと思った動機は、この技術に対する大きな誤解があると感じたからです。

 それが「ステップ1」、つまり「これは何なのかを説明するにはどうすればいいか」ということでした。ええ、私は悪いことが起きる場合もあるというのを認めています。それは明らかです。

 FTXは最も有名な例でしょう。私は本の中ではっきりと述べています。私はあのような行為を擁護していません。そして実際、私たちはそのような行為と長いあいだ闘ってきました。何年も前から、そうした悪質な行為を排除するための規制の必要性について発信し、提言を行ってきたのです。

 私はこう信じています。技術を規制するための第一歩は、それを理解すること。

 「ステップ2」は、スマートな規制を設計すること。

 そして「ステップ3」は、その規制というガードレールを活用して、起業家や開発者たちがデジタルサービスを構築できるようにすること。そのサービスがやがて拡大して、何千万人、さらには何億人、そして最終的には数十億人に価値を提供するようになることを願っています。

 私は、これはある意味で「すべて」なんじゃないかと思っています。というか、たぶん私はここ3〜4年のあいだ、自分の時間の半分をこのことに費やしてきたと思います。私はワシントンD.C.に頻繁に行っているのです。本当にたくさんの時間を費やしてきました──私がこの本を書いたのも、そのためなのです。

 私はワシントンD.C.に行って、そこにいる人たち、つまり政策立案者たちと会議をするんですが、彼らによく聞かれるんです、「どの本を読めばいいですか?」と。

 良い本はたくさんあるんですが、私が感じていたのは、この分野のことをまったく知らない人が「入門として読みたい、でも同時に深いところまで理解したい」と思ったときに、そういうちょうどいい本がなかったのです。

 そして、なぜこの技術がとてもポジティブなものになり得るのか、なぜ単純に「禁止」されるべきではないのかを説明するような本がなかった。

 「禁止」の代わりに、私たちにはスマートな規制が必要なんです。だから、これは文字どおり、私がこの本を書いた理由のひとつです。政策立案者たちのために。なぜなら、私は正しい規制が本当に必要だと強く信じているからです。

 そして、もちろん、私はこの本が政策立案者向けだけのものであってほしくはありません。テクノロジー業界の人たちや、ただテクノロジーに興味のある一般の人たちにも、この本を楽しんでもらいたいと思っています。私は、できるだけわかりやすい書き方を心がけました。

 だから、そういう人たちがこの本を読んで、「今何が起きているのか」、そして、なぜ私のような人間がこの分野にワクワクしているのか、そして、完全にイカれているわけじゃないってこと(笑)を、理解してくれたらいいなと思っています。

素晴らしいですね。ところで、日本や韓国では……

(第2回に続く)

米シリコンバレーのトップクラス投資家、クリス・ディクソンが25年間のソフトウエア業界でのキャリアに基づいて、より良いインターネットのビジョンとその実現方法を提示します。今日のインターネットは一部の大手テック企業の支配下に。これを正し、開発者、クリエイター、ユーザーなどのコミュニティに権益を与える本来のオープンなネットワークを取り戻す鍵となるのがブロックチェーン技術です。本書を読めば、ブロックチェーンの本来の力によってどのようにインターネットを再創出し、それが私たちの未来にどのような影響を与えるのかを理解できます。

クリス・ディクソン 著/大熊希美 訳/日経BP/2420円(税込み)