アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーであり、フォーブスが選ぶ世界最高の投資家ランキング「ミダスリスト」で第1位にも選ばれたクリス・ディクソン氏。著書『Read Write Own シリコンバレートップクラスVCが語るインターネットの次の激戦区』(日経BP)の米国での出版から1年以上が経過したが、ブロックチェーン推進派とも呼べるトランプ政権の復活により、取り巻く環境が大きく変わりつつある。来たるべき「ブロックチェーンがある世界」に向けて、現在の状況について話を聞いた。

 なぜブロックチェーンが破壊的なテクノロジーなのか──。前回(第1回)では、仲介者を排除する技術であること、そしてトークンによって持続可能で自律的な経済モデルが構築されることを説明した。第2回となる今回のテーマは、ブロックチェーンとAIとの関係などについて。

失敗の原因:テクノロジーと規制が追いついていなかった

ところで、日本や韓国ではスタートアップもそうですが、2〜3年前に多くの大企業がブロックチェーン領域に参入しました。しかし、その多くのビジネスがうまくいっているとはいえません。それが多くの関心を失った結果かもしれません。なぜこれらがうまくいかなかったと思いますか? タイミングの問題でしょうか? それとも、技術、ビジネスモデル、それとも他の何かが理由でしょうか?

クリス・ディクソン氏(以下、ディクソン氏):私は日本の市場については、それほど詳しくありません。米国について言えば、主に2つの大きな問題があったと思います。

 ひとつ目はインフラ、つまり技術自体です。1年半くらい前まで、それは十分に優れていなかったんです。

 ステーブルコインの例を取り上げてみましょう。

 ステーブルコインの取引件数のグラフ(注:Visaが公開している)を見ると、この15カ月で劇的に増加しているのがわかります。これは、ソラナ(Solana)によるところが大きいです。Solanaは高性能なブロックチェーンです。イーサリアム(Ethereum)もまた、いくつかのアップグレードを行いました。とても有名なアップグレードが、およそ15カ月前に行われました(注:Dencunアップグレード、2024年3月に行われた)。

 私たちは以前からずっとこう言ってきました。「決済の理想は、1セント未満で1秒未満」だと。

 つまり、ボタンを押せばすぐに何かを送れて、1セントもかからず、1秒もかからないという状態。そのマイルストーンに到達できたのは、たった15カ月前のことなんです。それは非常に大きな出来事で、それがデータにも表れていると思います。

 このグラフを見ると、一気に取引量が跳ね上がっていて、毎月何兆ドル単位で動いているのがわかります。それが起きたのは、ちょうどそのタイミングです。でも実際には、多くのイノベーションはその前の段階で起こっていたんです。

 それはたとえばこんな感じでした──ゲームをプレイしようとして、アイテムを買うのに(ブロックチェーンを動かすガス代に)5ドル払わなきゃいけないとか。つまり、高すぎたんです。使いにくかった。ユーザーインターフェースも整っていなかった。私はこれがひとつの理由だと思います。

 そして、もうひとつの理由は規制です。

 当時の状況は、いわば「西部開拓時代」のようなものでした。本当に良い、面白いブロックチェーンベースのゲームを作っていたような優れた開発者もいました。でも同時に、たくさんの悪質なプレーヤーも存在していました。そしてそうした悪質なプレーヤーたちは、ユーザーを搾取したのです。

 再び出てくる例としては、FTXが最も有名なケースでしょう。

 多くのユーザーがこの分野にやってきて、ワクワクしていた時期に、FTXのような出来事が起きた。それに続く一連のスキャンダルもあって、ユーザーからの信頼は本当に深く傷つきました。それによって、業界全体の評判もひどく損なわれたと私は思っています。

 だからなんというか、私は規制の話ばかりしてしまうのですが、実際私はかなり規制に取りつかれていると思います。でも、それこそが「なぜ私たちに良い規制が必要なのか」という理由のひとつなんです。そういうことが起きないようにするために。

 顧客に対して、そうした搾取的なことが許されるような環境で、本物の、持続可能な産業なんて築けませんよね? そういった意味で、この業界はひどく汚されてしまったと私は思います。

 でも、私はこれらすべての問題は乗り越えられると思っています。

 私はテクノロジー業界に25年いるのですが、これまでにも何度もサイクルを見てきました。私が最初の会社を起業したのは、インターネットバブルの崩壊中でした。その当時、インターネットはとても悪い評判がありました。でも、すべては乗り越えられると思っていました。そして、必ずそうなると信じています。

 ただ、それには時間がかかるんです。

 多くの人が痛い目にあいました。これは皆さんもご存じのとおりだと思います。友達に聞けば、たいていの人がこう言うでしょう、「それって詐欺でしょ」って。

 そして、私はこの状況を乗り越える方法としてはこうだと思います。まずは規制を正すこと。そして──優れたプロダクトを作ること。

 なぜなら最終的に、テクノロジーは言葉ではなく、プロダクトによって評価されるものだからです。

クリス・ディクソン氏(写真:a16z提供)
クリス・ディクソン氏(写真:a16z提供)

ブロックチェーンに必要なのは「ChatGPTモーメント」

 AIについては、80年間ずっと(その実現が)議論されてきました。AIは、もはや笑い話になっていたんです。いつも「すごいことができる」と言われてきたけど、実際には何も起きなかった。それを変えたのは何か? ChatGPTです。プロダクトでしたよね。

 突然、新しいプロダクトが登場して、人々はこう言いました。「ああ、これのことか」

 80年分の約束と失望が、たったひとつの優れたプロダクトで全部忘れられたわけです。

 私がこの世界をどう見ているかというと──私たちは、ブロックチェーンにおける“ChatGPTモーメント(ChatGPTの登場の瞬間)”に到達しなければならないということです。私たちは、クリプト(ブロックチェーンを基盤とした暗号技術)を使った“素晴らしいプロダクト”に到達しなければならないのです。

そのプロダクトにたどり着くための方法は:
・規制を正すこと、
・優れた起業家たちをこの分野に呼び込むこと、
・彼らに資金を提供すること、
・彼らを支援すること。

 そうすれば、いずれ誰かが、その“素晴らしいプロダクト”を作り出すでしょう。私はそれを信じています。これが、私がこの世界をどう見ているかです。どうやって“ChatGPTモーメント”にたどり着くのか。なぜなら──私たちはまだ、そこにたどり着いていないのです。

まず他から移植して成功し、その後「ネイティブ」に

なるほど。あなたの本の中で、ブロックチェーンを利用したもので、最初に登場するのはスキューモーフィックなプロダクト(他の事象にあるものを転用したプロダクト)だと書いていましたよね。私の考えでは、ステーブルコインや DeFiがすでにブロックチェーン上ではプロダクトマーケットフィットしていると思います。このような「クリプト(ブロックチェーン)ネイティブ」なプロダクトのほうが、うまくいっているように感じます。スキューモーフィックなプロダクトはいつ来ると思いますか? あるいは、ステーブルコインや DeFiのようなネイティブなプロダクトこそが、実はブロックチェーンにとって良いものだと考えていますか?

ディクソン氏:ちょっと戻って説明すると、本の中では、私は2種類の技術について語っています。「スキューモーフィック」と「ネイティブ」です。

 スキューモーフィックとは、「ある技術を別の領域から持ってきて、ブロックチェーン上に載せる」という意味です。つまり、何かを「移植」するということですね。

 それに対してネイティブとは、そうですね──。

 本の中で私が挙げている例でいうと1990年代の初期のインターネットでは、昔のウェブサイトを見てみるとわかるんですが、雑誌のような見た目をしていました。人々はオフラインの世界にあったもの──たとえば写真をカタログ風に並べたり、雑誌のようなレイアウトにしたり──そういう見た目をそのまま画面に載せていたんです。

 でもその後、ネイティブなインターネット体験と呼べるものが登場するまでには時間がかかりました。

 たとえば YouTube。これはまったく新しい概念でした。誰でも動画をアップロードできるなんて、非インターネット世界には存在しなかったですよね。あるいはFacebookをはじめとするSNS。それは本当の意味でのピア・ツー・ピアのコミュニケーションでした。通常、テクノロジーというのは、そういうふうに進化していくんです。

 で、私の考えとしては、ステーブルコインについて言えば、たとえばUSDC(注:Circleが発行する米ドルに連動したステーブルコインで、日本では金融庁が初めて取引を認可したステーブルコインでもある)や他の法定通貨担保型ステーブルコインはスキューモーフィックだと私は考えています。なぜなら、これは「ドルという従来世界のもの」を、オンチェーン(ブロックチェーン上でやりとりすること)に持ち込んでいるからです。

 一方で、ビットコインを新しい通貨としてドルや円に取って代わるものにしようとした人たちはネイティブなアプローチです。ですが、それは実際にはあまり普及していません。

 つまり、ビットコインは「価値の保存手段」としては定着しましたが、法定通貨の代替としては少なくとも今のところ定着していません。その代わりに、実際に今、プロダクトマーケットフィットしているものは、よりスキューモーフィックなものです。

 つまり、「ブロックチェーンと従来の金融の世界をつなぐ橋を作ろう」という考え方。それこそが、ステーブルコインなんです。そういう意味で、これは歴史的なパターンに沿っていると言えますよね。

 そしてDeFiの多くも、たとえば「レンディング(貸し付け)」のようにすでに存在していた行動を、この文脈で再構築しているわけです。レンディングというのはもちろん、非常に昔から存在しているものです。だから私は、この意味でも、ブロックチェーン技術は歴史的なパターンに沿って進化していると考えています。

 そしてそれが意味するところは、もしブロックチェーン技術が成功すれば、まずはステーブルコインやDeFiのようなスキューモーフィックな波がやってきて、その後、5〜10年くらいたってから、ネイティブなものが登場してくるという流れになる、ということです。

ブロックチェーンネイティブなプロダクトはAIにあり

 それはたとえば……そうですね、AIに関連する何か面白いものかもしれません。これは私がよく考えていることのひとつです。つまり、「これまで存在し得なかったもの」──たとえば、AIの時代においてクリエイターが収益を得るための新しい方法とか。

 私たちは今、Worldcoin(注:現在Worldと名称変更)というプロジェクトに投資しています。これはOpenAIのサム・アルトマン氏が共同創業したものです。Worldcoinは、ブロックチェーンを使って「自分が人間であることを証明できる」という仕組みです。

 なぜなら、これからのインターネットはボットであふれていくだろうし、「誰がボットで、誰が人間なのか」を見分けることが非常に重要になってくるからです。そしてそれによって、まったく新しいタイプのアプリケーションの数々が生まれることになるかもしれません。

 たとえば、「人間しか使えないソーシャルネットワーク」を作ったり、あるいは、「この動画が誰によって作られたかを証明する透かし」を入れたり。こういうものは、私にとってはより“ネイティブなもの”と感じられる例です。そして、将来的に重要な行動様式になっていくかもしれないと考えています。少し先の未来で、ですね。

ありがとうございます。AIについてもっと話したかったのです。今、人々はAI分野にとても関心を持っていますが、ブロックチェーンはAIとどのように関わってくるのでしょうか? もっと深くAIと協働できる余地はあるんでしょうか? 何かアイデアはありますか? 最近のあなたのポッドキャストでも触れていましたが、ブロックチェーンがAIとどう関わるかについて、もう少し詳しく説明してほしいと思っていたのです。

ブロックチェーンで皆が報酬を得るAIモデル開発

ディクソン氏:いくつか例を挙げましょう。これらは、私たちが投資したプロジェクトの一部です。

 ひとつはGensyn(https://www.gensyn.ai/)というプロジェクトです。彼らがやっていることは、こうです。今、AIモデルをトレーニングしようとすると、膨大な計算能力が必要になります。企業は、こうしたモデルをトレーニングするために、何億ドルという金額をGPUに費やしているんです。

 Gensyn AIがやっているのは、GPUリソースを持っている人たちのコミュニティを、ひとつに集められるようにするということです。イメージとしては、エアビーアンドビー(Airbnb:個人が所有する物件を旅行者に貸し出す民泊サービス)みたいなものだと考えてください。

 もしあなたが家にゲーム用のGPUを持っているなら、それをネットワークに追加できるのです。そして、ゲームをしていない間、そのGPUがアイドル状態のときには、ネットワーク全体の計算能力に貢献できるわけです。その取引の反対側には、計算処理をしたい誰かがいて、その人が処理タスクをネットワークに提出します。

 ネットワークはそれを分割して、いろんなノードに送信します。そして、その作業に対して報酬が(GPU提供者にブロックチェーンを通じて)支払われる経済モデルがあるのです。

 このアイデアで重要なのは、小規模な企業でも、大規模なAIモデルをトレーニングできるようになるという点です。何億ドルもする設備投資をしなくても済むのです。

 多くの重要なテクノロジーと同じように、これはある意味で、アクセスの民主化を実現しているのです。この場合は、AIトレーニングへのアクセスの民主化ですね。これがひとつ目の例です。

 もうひとつは、先ほども言いましたが、Worldcoin(https://world.org/)です。これは「人間性の証明」を提供するソリューションです。たとえば今、Xのチェックマークの青いバッジは実際のところ、あまり意味がありませんよね?

 でも、もしそれがブロックチェーンを利用して証明されるものだったらどうなりますか? 「この人は本当に人間です」と証明されるようなバッジがあったらどうなりますか? これによって、ものすごくパワフルな新しいことが実現できるのです。

 たとえば、「人間(の投稿)だけを見たい」というフィルターをかけることができるでしょう。あるいは、「この動画はAIが作ったものなのか、それとも人間が作ったのか」を見分けることができるようになります。他にも、いろんな面白いことができるはずです。

 なので、これがもうひとつの例です。

ブロックチェーンによるさまざまなAIプロジェクトが生まれている(写真:tippapatt/stock.adobe.com)
ブロックチェーンによるさまざまなAIプロジェクトが生まれている(写真:tippapatt/stock.adobe.com)

クリエイターに新しい収益モデルをもたらす

 そして3つ目の例を挙げると、これは韓国のファウンダーによるプロジェクトなのですが、Story Protocol(https://www.story.foundation/)というものがあります。

 このアイデアは、たとえばイラストレーターやアーティストのようなクリエイティブな人たちが、自分の描いたイラストにブロックチェーン上で著作権を登録することができる、というものです。そしてその上で、経済的な条件を設定することができます。

 たとえばこう言えるわけです。「私のイラストをAIで使っていいよ」とか、「リミックスしてもいいよ」とか。

 私がスーパーヒーローのキャラクターを描いたとして、あなたがそれを別のバージョンに変えたいと思ったり、自分のビデオゲームに登場させたいと思ったりしたとしましょう。そのとき、私の条件に従ってくれさえすれば、何をしても構わないというわけです。

 たとえばこういう条件ですね。「何をしてもいいけど、あなたが得た収益の10%は私に支払ってください」──そういった具合です。ブロックチェーンは、こうした著作権条件を追跡し、執行する役割を担います。この仕組みの素晴らしい点は、クリエイティブな人たちが報酬を得られる手段になるというところです。これはAIの時代において非常に重要なことだと思っています。

 著作権というものは、昔から存在する制度です。それは合衆国憲法にも記載されていることで、クリエイティブな人々にインセンティブを与えることの重要性が明記されています。

 そして私は、著作権はとても大切なものだと考えています。でも同時に、それを現代化する必要もあるとも思っています。もし誰かに電話をして、大がかりで複雑な契約をしなければならないのだとしたら、そんな仕組みはインターネット規模ではスケールしないのですよね。

 だからこそ、これは小規模なクリエイターたちが自分の知的財産を登録して、AIシステムの開発者やその他の人々がそれにアクセスできるようにする手段になるわけです。そしてブロックチェーンは、その経済的な関係を仲介するのです。お金が公正に分配されるように。

 というわけで、これがAIとクリプトの交差点にある、3つの異なる例です。

(第3回に続く)

米シリコンバレーのトップクラス投資家、クリス・ディクソンが25年間のソフトウエア業界でのキャリアに基づいて、より良いインターネットのビジョンとその実現方法を提示します。今日のインターネットは一部の大手テック企業の支配下に。これを正し、開発者、クリエイター、ユーザーなどのコミュニティに権益を与える本来のオープンなネットワークを取り戻す鍵となるのがブロックチェーン技術です。本書を読めば、ブロックチェーンの本来の力によってどのようにインターネットを再創出し、それが私たちの未来にどのような影響を与えるのかを理解できます。

クリス・ディクソン 著/大熊希美 訳/日経BP/2420円(税込み)