アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーであり、フォーブスが選ぶ世界最高の投資家ランキング「ミダスリスト」で第1位にも選ばれた『Read Write Own シリコンバレートップクラスVCが語るインターネットの次の激戦区』著者のクリス・ディクソン氏に聞く連載。前回(第2回)では、なぜかつてのブロックチェーン・ビジネスが失敗したのか、そしてAIとの関係はどうなるのかについて話を聞いた。

 補足すると、最近のディクソン氏のポッドキャストでは、AIと協働するブロックチェーンの役割について頻繁に語られている。たとえば、1セント未満で送金できることからマイクロペイメントでの活用が期待されているほか、プログラマブルであるため、AIエージェントが自動で送金を実行できる点などが挙げられる。

 さらに彼は、かつてインターネットのソーシャルプラットフォームがクラウドやモバイルといった技術とともに隆盛を迎えたように、次の大きなムーブメントは、AI、ブロックチェーン、そして何らかのハードウエアの三位一体によってもたらされるのではないかと語っている。第3回(最終回)のテーマは、次に来るビジネスや規制などブロックチェーンを取り巻く環境について。

オープンソースと同じように発展するはず

少し違う角度の話をさせてください。ブロックチェーンはプロダクトを非中央集権化させると言っていますよね。でも、コンピュータの歴史を見てみると、非中央集権化の後に中央集権化が起きたり、またその逆の流れが起きたりしてきました。

 たとえば、メインフレームからPCになり、そのあとマイクロソフトがPC市場で支配的になりました。そしてインターネットが登場し、ビジネスが分散化しました。でも今では、FacebookやGoogle のようなビッグテック企業が再び市場を支配しています。そして今度は、ブロックチェーンが登場してきていて、また分散化されると言われています。

 あなたは、ブロックチェーンは仲介者を排除するとおっしゃっていました。でも、将来的には、誰かがこの市場を支配するかもしれません。たとえば、コインベースのような企業は、非常に大きな取引量を持っていて、イーサリアム(Ethereum)上に彼ら独自のレイヤー2(イーサリアムの上位階層のネットワークのことで、コインベースはそのベースを開発している)を構築するまでになっています。

 この「非中央集権化と中央集権化のシフト」について、あなたはどう見ていますか? ブロックチェーンも次のビッグテックに支配されてしまうのでしょうか?

クリス・ディクソン氏(以下、ディクソン氏):もしブロックチェーンが成功すれば、コインベースのような大企業は出てくるでしょう。でも、ここで良い例えがあると思うんです。それは、オープンソースソフトウエアです。

 具体的に言うと、1990年代にはマイクロソフトのWindowsが世界で支配的なオペレーティングシステムでした。一方で、Linuxはニッチで趣味的なシステムだったのです。Linux はもちろん、オープンソースのOSですね。

 そして今では、Linux が世界で支配的なOSになっています。おそらく市場シェア95%はあるでしょう。AIもデータセンターのシステムもすべてLinuxです。AndroidのスマートフォンもLinuxです。ロボティクスや自動車などの新しいデバイスもLinuxベースです。そして、Linuxの上にも、大きな企業はたくさん存在しています。

 テスラ(Tesla)は自社の車をLinux上で動かしていますし、AmazonはAWSをLinux上で構築しています。それでいいんです。彼らは大きな企業ですが、OSレイヤーで稼いでいるわけではありません。彼らが稼いでいるのは、スタックの別の部分なんです。

 なので、ステーブルコインの例に戻ると──確かに、大企業は現れるでしょう。でも、そのレイヤー、つまり決済レイヤーは、私は「高速道路網」のようなものだと捉えています。そして私は、この「高速道路網」は、基本的に無料であるべきだと考えています(注:ここでの高速道路網とは無料で利用できる公共財としての比喩。料金を徴収する道路のことではない。米国では高速道路はほぼ無料)。

 インターネット上でお金を送るのは、基本的に“ビットを送る”ようなものです。

 確かに、不正送金の防止やマネーロンダリング対策など、多少の追加作業は必要です。それには一定のコストがかかります。でも、今日のコストのほとんどは、必要以上に利益を乗せているだけなんです。だから、送金は“道路”のような存在であるべきなんです。

 それは、道路の上に大きな企業が築かれてはいけない、という意味ではありません。トラック会社、サービスエリア、ビルなど、あらゆるものがその上に存在できます。でも、独占的なネットワークができてはいけないんです。

 ビジネスの世界では、「競争優位性」や「モート(堀)」という概念があります。ウォーレン・バフェットも「モート」という言葉をよく使いますよね。今日、ビジネスにおける最大のモートはネットワーク効果です。ネットワーク効果とは、たとえばFacebookが今どんなにひどい製品を出しても、人々はまだ使い続ける──なぜなら、友達が全員そこにいるからです。それほどまでに強力な力なのです。

インフラとなるネットワーク層は公共財であるべき

 だから、ステーブルコインのネットワークが「高速道路網」のような公共財になればいいというのが私の考えです。その上でビジネスを築くことはできます。そこには、規模やブランド、伝統的な競争力はあるかもしれません──でも、ネットワーク効果はない。それが決定的な違いです。

 ネットワーク効果はあまりにも強力すぎる。それは利益率に反映されます。

 普通のビジネスは、10%、20%、高くても30%の利益率です。でもネットワーク効果を持ったビジネスは、90%の利益を出すことができます。それほど強大な力なんです。

 なので、基本的なアイデアはLinuxと同じです。

 スタックの中の特定のレイヤー、特にネットワーク層のような強力な部分をブロックチェーンによって公共財にするという考え方です。その上に人々がビジネスを築いていくことはできるけれど、彼らは昔ながらの方法で競争しなければならない。

 つまり、より良い製品を作ることで勝負する。ネットワーク効果でユーザーを囲い込むのではなく。それが、私が見たいと思っている世界です。それは「反資本主義」でもなければ「反ビジネス」でもありません。それは単にビジネスは質や価格で競争すべきであり、ネットワーク効果による独占的支配ではない、ということです。

 Eメールは良い例です。Eメールは公共のプロトコルです。誰もEメールを所有していません。でもその上には、GmailやOutlookのような企業が構築されています。彼らは利益を上げていますが、Eメールネットワーク自体を支配しているわけではありません。Eメールネットワークは人々のものです。そして、私はお金や決済も、そうあるべきだと思っています。金融もそうあるべきです。それが、私たちが目指す世界です。

 コアのネットワーク層は、公共財であるべきなのです。

インフラとなるネットワーク層は「高速道路網」のような公共財であるべき(写真:paylessimages/stock.adobe.com)
インフラとなるネットワーク層は「高速道路網」のような公共財であるべき(写真:paylessimages/stock.adobe.com)

次に来るのは決済と金融

多くの人が知りたがっていること、そして私自身も知りたいことがあります。それは、あなたが考える「次にクリプトにとって重要なものは何か?」ということです。今はたくさんの開発者がインフラを作っています。でも私は知りたいのです──ブロックチェーンにおける「次のビッグなもの」は何か、が。この分野で、どんなビジネスや、どんな部品がまだ必要なのでしょうか? どんなテクノロジーとか、どんな部品とか、アプリケーションとか? 時には機能的な何か、とかそういうものは何でしょうか?

ディクソン氏:そうですね──あらかじめ言っておくと、私はかなり米国中心の見方をしています。

 でも、私が思うに、今後1〜2年で本当にうまくいく可能性が高いのは、「決済(ペイメント)」と「金融(ファイナンス)」分野だと思います。

 この分野でこれまで直面してきた基本的な課題はこうです。たとえば、ステーブルコインを使った決済、レンディング、ユニスワップ(Uniswap:分散型取引所のひとつ)のようなトレーディング──これらはすでに非常に高い取引量を持っています。私たちはユニスワップにも投資しています。この5年間で、たしか約3.5兆ドルの取引量があると思います。

 でも、課題はそこではなく、それが「サンドボックス状態」であるということなのです。つまり暗号資産同士しか取引できないということです。

 株や債券の取引をしようとしても、それはできない。ウォール街の企業は、そういったものと統合しようとしない。ごくごく稀(まれ)に、それをやる企業もありますが、一般的にはやりません。

 もしゴールドマンサックスやその他の銀行に話を聞いたら、彼らはきっとこう言うでしょう。「いや、私たちはブロックチェーンには手を出せません」と。これがこれまでの現実なんです。

 だから私は思うんです。決済や金融の分野において、ブロックチェーンはすでに非常に成功している。でもそれは、人工的に「サンドボックス」されている──つまり、暗号の世界の外に出ることを禁止されてきた、ということなんです。

 しかし今、米国では規制方針において非常に大きな変化が起きています。

 私はかなり楽観的に見ていますが、今後6カ月以内に議会で法律化が進むと考えています。それによって、とても明確なルールが生まれ、そして、これまで話してきた「橋(ブリッジ)」をすべて構築できるようになると思っています。

 だから、これこそがこれからの2年間のストーリーになると思っています。

 明確な規制が整備される。すでにうまくいっている「決済」「レンディング(貸し付け)」「トレーディング(売買)」の仕組みを、それ以外の金融の世界へとブリッジを架けていく。従来型の金融機関が、これらのツールを活用できるようになる──私はこれらのツールは、彼らが今使っているものより明らかに優れていると思っています。そして、それがまず最初のブレイクスルーになるはずです。

 つまり、何億人ものユーザーを呼び込むことになります。

 ブロックチェーンアプリケーションに人々を慣れさせることになります。

 過去の詐欺によって傷ついたブランドイメージが回復することになります。

 そして人々が、ブロックチェーンを決済や金融に使うようになったら──次のステップはこう言えるわけです。

 「ねぇ、あなたはもうウォレットを持っている。資金もある。テクノロジーも信頼している──じゃあ次は、ゲームに使ってみよう。AI関係に使ってみよう。SNSにも使ってみよう」

 私は、そういう流れになると思っています。

 そして、繰り返しになりますが──何度も同じことを言ってるようですが──やっぱり私は「規制」が鍵だと信じているんです。

 私はこういう人たちと常に話をしています──銀行、大手金融機関の人々と。彼らは皆こう言うのです。

 「われわれもこういうことをやりたい。でも、もっと規制の明確さが必要なんだ。グレーゾーンがあることは、私たちはできない」

 グレーゾーンというのは、彼らにとっては「NO」なんです。起業家にとっては、グレーゾーンは「YES」にもなり得ます。でも、大手金融機関にとってはそうではない。

 なので、これが私のプランであり、希望でもあります。今すでにうまくいっているもの(決済と金融)を使って、ブリッジを構築し、拡張し、人々を引き込み、そして最終的には、他の分野へと広げていく、ということです。

起業家の自由も、消費者の保護も必要

最後にその「規制」について教えてください。暗号資産に関する規制は、どう変わってきていると感じていますか? そして、アンドリーセン・ホロウィッツにおけるあなたの役割は、この規制の形成においてどんなことを担っているのですか?

ディクソン氏:話すことはたくさんあります。まず、米国について話しますが、米国の規制には複数のレベルがあります。

 たとえば、SEC(証券取引委員会)や CFTC(商品先物取引委員会)といった機関があります。

 彼らの役割は、基本的には「ガイダンス(指針)」を出すことです。そして最近、彼らは実際にそのガイダンスを出し始めています。そのガイダンスというのは、つまり「こういうことをするなら、こういうルールに従ってくださいね」ということです。それに加えて、彼らは執行も行います。

 つまり、ガイダンスを出して、それに従わないと判断した場合には、実際に制裁措置を行うのです。

 ここ4年間で、特にバイデン政権のもとでは、意図的にガイダンスを出さず、状況を曖昧なままにしておくという方針を取っていました。これはいわゆる「執行による規制」というやり方です。つまり、指針を明確にせずに、いきなり訴訟を起こすということです。

 これは非常にわかりにくくて、多くの混乱を引き起こしました。ただ、最近になってようやく、実際にガイダンスを出し始めることで、その混乱を修復しようとし始めました。それは良いことです。

 でも、ガイダンスはあくまで行政府の方針であって、将来変わる可能性もあります。ルールを永続的に定める唯一の方法は「立法」です。

 米国において立法というのは、以下の流れを意味します。

・下院が法案を可決する
・上院もそれを可決する
・大統領が署名する

 これこそが私たちが見たいもの、つまり「真の立法」なのです。

1996年の通信品位法がインターネットのイノベーションを起こした

 インターネット普及開始の時代にも、米国ではとても有名な法律がありました。それが1996年の通信品位法(Communications Decency Act of 1996)です。

 私に言わせれば、これは過去40年で最も重要なテクノロジー関連の法律だったと思います。この法律が、インターネットに必要なあらゆる基本ルールを整備したのです。

 たとえば、「セクション230(通信品位法230条)」という条項(注:インターネット上のサービス提供者、たとえばSNSの運営会社は、ユーザーが投稿した内容について、原則として法的責任を負わないと定めた法律)が含まれていて、これは世界中で模倣されたルールになっています。もしこのセクション230がなければ、ソーシャルネットワークは存在できなかったでしょう。

 それが定めたのはこうです。「もしユーザーがあなたのプラットフォーム上で悪い投稿をしても、運営者が自動的に責任を負うわけではない」

 運営側には、たとえば24時間以内などの「合理的な期間」で削除する義務はあるけれど、すべての発言に対して法的責任を負わなければならないとしたらプラットフォームは訴訟だらけになってしまいます。

 この1996年の法律は合理的なルールを定めたのです。「責任は必要です──でも、現実的でありましょう」と。そしてこの法案が、明確なルールを作り、それによって起業家たちはこう言えるようになったのです。「よし、ルールはわかった。じゃあ自分の会社を作ろう」と。

 私が最初のインターネット企業を立ち上げたのは2004年でした。そのとき、私はルールを理解していました。私たちは弁護士を雇い、法律を順守し、ちゃんと開発できたのです。そしてそれが、あれだけ多くのイノベーションを生んだ理由です。

スタートアップの代わりに、ブロックチェーンに必要な政策を提言

 だから、私が思う最終的な目標はこうです。人々に明確さを与える立法を作ること、人々がルールを理解できること、ルールを信頼できること、自分の時間、労力、お金を投じられること、そしてそのルールは、合理的であるべきです。

 イノベーションの自由と消費者保護のバランスが取れていること。何かを創るには自由が必要です──でも、同時に保護も必要なのです。

 私たちの役割は基本的には「政策提言」です。私は頻繁にワシントンD.C.に行っています。政策立案者たちに対して、この話をすべて説明しています。数年前には「クリプトに関わる人はみんなクレイジーなリバタリアンなんだろう」と思われていたんです。

 私たちは実際に行って、「いや、これは社会にとって実質的なメリットがある分野なのです」と説明します。

 私たちはスタートアップと一緒に仕事をしています。そしてもしあなたが10人規模のスタートアップだったとしたら、ワシントンD.C.に行って意見を述べる時間もリソースもないですよね。そこで私たちは気づいたんです。「米国で、スタートアップの成功だけを願っているような組織はほとんどない」と。

 私たちは、クリプト、AI、その他の分野において、スタートアップに成功してほしいと思っています。私たちはそれを「プロ・リトル・テック(Pro-little tech)」と呼んでいます。

 ビッグテック──たとえばGoogleやFacebookには、ワシントンD.C.に数千人のロビイストがいます。でもスタートアップには、誰もいません。だから私たちは思ったんです。「私たちがやらなければ、誰がやる?」と。

 私たちはスケールがあり、かつスタートアップと同じ利害を持つ、数少ない存在なんです。それが約4年前のことです。それ以来、私たちはこのミッションに本気で投資してきました。今では「政府対応部門」も持っています。

 私たちはワシントンD.C.に行き、提言し、イベントを開催します。私たちのウェブサイト(a16zcrypto.com)に行けば、規制に関する記事が何百本も掲載されているのがわかるでしょう。それらを政策立案者に共有しています。そして、彼らが私たちの見解を考慮してくれることを願っているのです。

 つまり、私たちは、政策に影響を与えるリソースを持たない小さな企業たちの代わりに、その声を届けることを目指しているのです。

クリス・ディクソン氏(写真:a16z提供)
クリス・ディクソン氏(写真:a16z提供)

今年は、クリプトスタートアップが安全にビジネスできるようにするための「規制改革の始まりの年」になるかもしれませんね。

ディクソン氏:そうです。そして私たちの希望は、米国がこれをやれば、他の国々もそれに続いてくれることです。少なくとも主要な西側諸国の間で、何らかの調和が起きるのではないかと。

 私は、アジアにもとても期待しています。多くのイノベーションは、アジアからも生まれるべきだと思っています。

そうあるといいです。今日はどうもありがとうございました。

ディクソン氏:ありがとうございました。

■変更履歴
記事中、「通信品位法」の正しい英語表記は「(Communications Decency Act of 1996)」でした。掲載当初、「(Telecommunications Act of 1996)」としていました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2025/07/31 12:00]
米シリコンバレーのトップクラス投資家、クリス・ディクソンが25年間のソフトウエア業界でのキャリアに基づいて、より良いインターネットのビジョンとその実現方法を提示します。今日のインターネットは一部の大手テック企業の支配下に。これを正し、開発者、クリエイター、ユーザーなどのコミュニティに権益を与える本来のオープンなネットワークを取り戻す鍵となるのがブロックチェーン技術です。本書を読めば、ブロックチェーンの本来の力によってどのようにインターネットを再創出し、それが私たちの未来にどのような影響を与えるのかを理解できます。

クリス・ディクソン 著/大熊希美 訳/日経BP/2420円(税込み)