「都の西北」早稲田大学・早稲田キャンパス。政治経済学部、法学部、商学部、教育学部、社会科学部、国際教養学部の学生がこの地で学ぶ。キャンパスの西端、西門近くにある早稲田大学生協ブックセンターは書籍単独店で、在庫冊数4万冊を誇る大型店だ。2021年から同店を担当する橋本歩さんに、売れ筋や注目本、学生たちへのメッセージなどを聞いた。
生協発の学生読書サークルと共働して棚作りを進める
大学生協では書籍と購買部と一体になっている店舗が多いですが、当店は大学生協の中では数少ない書籍単独店です。そのため、文庫・新書はもちろんのこと、人文・社会科学を中心とした専門書を数多くそろえており、常に約4万部の在庫を抱えています。
特徴は、早大生協発の学生組織である読書サークル「Book Portal」の存在。メンバーが選書した企画棚を通年で設けており、早大生がお薦めしている本を手作りのPOPとともに展開しています。現在、全国の大学生協で読書マラソンを行っていますが、読書マラソンのコメントカードの中から優秀な作品を表彰する「早稲田賞」を企画運営するなど、Book Portalのメンバーが読書マラソンの推進も担ってくれています。また、年1回のペースでBook Portal主催のトークショーも開催しており、2023年は早稲田大学文化構想学部出身の小説家である阿部智里さん、24年もやはり第一文学部(現・文学部)出身の三浦しをんさんにご登壇いただきました。
早大生の生協加盟率は約9割と高いですが、現状、客足自体はそう多いとは言えません。春秋の教科書販売の時期はごった返し、1日千冊以上の本がレジを通りますが、それ以外は静か。新型コロナ禍を経て、キャンパスに学生が戻ってきてしばらくたちますが、当店は早稲田キャンパスの端にあるため、学生が気軽に来店するには少し距離があるのかもしれません。また、授業時間が1時限100分になり、授業と授業の間の休み時間が短くなり、教室を移動するだけでいっぱいいっぱいという声も聞きます。たくさんの学生に本に触れてもらうためには、「わざわざ足を運ぶ理由がある店舗づくり」が急務であると感じます。
そのためにも、これからも「BookPortal」と連携しながら魅力的な売り場づくりに注力するほか、出版社の割引フェアを定期的に開催して新しい本との出会いを提供したいと考えています。もちろん、いつ来ても欲しい本が手に入るよう、専門書を中心に売れ行きのいい定番書籍は切らさずそろえています。
急に売れるようになった本はSNSが起点に
「東大・京大1位」帯がついている書籍を、町の書店さんで目にすることがあるかと思いますが、そのような本は早大生協でももれなく売れています。特に売れているのは、東大総合文化研究科教授である國分功一郎先生の『 暇と退屈の倫理学 』(新潮文庫)。単行本の刊行から10年以上、文庫化から3年以上になりますが、継続的に売れており、2024年1~10月の文庫部門でも売り上げTOP3に入っています。
あとは、SNSなどで話題になった小説や新書、専門書が動く傾向にあります。急に売れ始めた本は、だいたいSNSが起点ですね。著名な先生がSNSで「役に立った」とつぶやくと、それがどんどんリポストされて学生が興味を持つケースが多いようです。最近では、歴史学者の松沢裕作さんの『 歴史学はこう考える 』(ちくま新書)が売れています。
個人的に注目しているのは、写真家でありエッセイストの植本一子さんの本。日々の暮らしや、植本さんのご家族・パートナー、お友達との出来事について記録された日記エッセーが多いのですが、うれしい、悲しい、怒りも、すべてがありありとつづられており、初めは「こんなすごいもの読んでもいいのか」とドキドキしたほど。植本さんの生活の中で日々起きていることは、我々にも当てはまるものばかりなので、自身の生活を振り返り「こんなこと、あるなあ」と共感できるのがいいですね。1冊上げるならば、2024年暮れに刊行されたはじめての自費出版エッセー集『それはただの偶然』ですね。
社会学者である岸政彦先生が手掛けられた『 東京の生活史 』(岸政彦編、筑摩書房)、『 沖縄の生活史 』(石原昌家・岸政彦監修、沖縄タイムス社編集/みすず書房)なども興味深い本です。いずれも現地の人への分厚いインタビュー集ですが、「自分ではない誰かの生活」をリアルに知ることができるのは、本ならでは。私は1日に1人ずつ、ゆっくり読み続けています。
早大生にぜひ読んでほしいのは、『 自炊者になるための26週 』(三浦哲哉著、朝日出版社)。映画研究を専門とされている三浦哲哉さんの、「自炊」にまつわる一冊です。私自身も栄養のバランスや節約への意識、外食やコンビニご飯への罪悪感もあり、自炊は「しなければいけない」ものだと思い込んでいました。この本を読んで「このように捉えればもっと楽しく自炊できるんだ」と気付き、自炊に対する私のもつれ固まった薄暗い気持ちがゆるゆると解きほぐれていきました。
学生の皆さんの中には、大学進学を機に1人暮らしを始めた人も多いと思います。この本を読めば、自炊に感じている「壁」を乗り越えられるのではないかと思います。
興味関心をさらに一歩深めるために、本を活用してほしい
早稲田キャンパスには政経、法、商、教育、社会科学、国際教養の6学部があり、多種多様な学生が集まっています。この店舗にも、数人でワイワイと盛り上がりながら来店するグループもあれば、1人で静かに黙々と本を選んでいる人もいて、学生ごとに個性を感じます。英語が堪能な学生が目立ちますね。早稲田には留学生も多いのですが、春秋の教科書販売時期にスタッフが留学生に対してうまく対応しきれないときに、さっと間に入って通訳してくれることが何度もあり、とても助けられました。早大生はなかなかひとくくりにはできないですが、このように人情味がある点は共通しているかもしれません。
学生の中には、「教科書は買いに来るけれど、それ以外では生協に来たことがない」という人も多いようです。「もっと来店してほしい、本を読んでほしい」と押し付けたくはありませんが、少しでも興味のあるニュースや時事ネタなどがあったら、さらに一歩踏み込んで調べるために、本を活用してほしいですね。どんな興味にも応えられる店づくりを意識しているので、気になることがあったらここにきて、新たな知識を自分のものにしてほしいと思っています。
取材・文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/吉澤咲子






