名古屋の中心地から近い名古屋大学東山キャンパスには、医学部以外の8学部が集まる。その理系地区にある「Booksフロンテ」は、1階で文庫や新書、雑誌などをそろえ、2階は理工書に特化した店舗であるのが特徴。理学部や農学部、工学部の学生を中心に、さまざまな学生が訪れている。同店の澤田江里さんに、品ぞろえや売れ筋などについて伺った。

名古屋大学生活協同組合Booksフロンテの澤田江里さん
名古屋大学生活協同組合Booksフロンテの澤田江里さん
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名大生の声を聞き、ニーズを売り場に反映。読書イベントにも注力

 名古屋大学(以下名大)は名古屋市内に3つのキャンパスがあります。医学部以外が集まる東山キャンパスは、名古屋の中心地からほど近い場所にありながら、敷地面積約70万平方メートルの広さを誇ります。東山キャンパス内には、生協書店は文系地区にある南部生協プラザと、理系地区のBooksフロンテと2店ありますが、Booksフロンテは東海地区の大学生協書店では最大の広さとなっています。

 1階は雑誌や文庫、漫画や文具などを幅広く取り扱っていますが、2階は理工書に特化しています。理工書の品ぞろえでは、全国の大学生協の中でもトップクラスを自負しています。先生方が読むような専門書から、学生向けの演習書や参考書など、理系学部に必要な本は新刊含め一通りそろえています。

地下鉄名城線名古屋大学駅から徒歩5分、理学部や農学部に近い
地下鉄名城線名古屋大学駅から徒歩5分、理学部や農学部に近い
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Booksフロンテ入り口。1階は新書や文庫、雑誌や語学、漫画などを展開
Booksフロンテ入り口。1階は新書や文庫、雑誌や語学、漫画などを展開
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 近隣には一般の大型書店もありますが、学内にある書店の特徴を生かすために、できる限り名大生の声を聞き、品ぞろえを行っています。現在、全国の大学生協では「読書マラソン」を行っており、学生の「推し本」コメントをWebなどで募集しています。そのコメントを売り場に張り出し、学生の興味を引く売り場作りに注力しています。実は読書マラソンへのエントリー数は、名古屋大学が最も多く(2024年10月30日現在)、すでに何十冊も読み、コメントしている人もいます。

 コメントが書かれた本の前で足を止める学生は多く、実際に買っていくケースも少なくありません。もちろん、普段から学生とコミュニケーションを取って要望をヒアリングしているほか、リクエストノートや「組合員の声」カードなどからもニーズを拾い、売り場に反映しています。

 2024年11月に「Booksフロンテ」初のイベント「本屋トーク」を開催しました。情報学研究科の谷村省吾教授が講師となり、11月は「哲学っぽい科学の本を読んでみよう」というテーマでトークイベントを行いました。文系・理系問わず幅広い学生に参加してもらいたいとの思いから哲学というテーマを選び、谷村先生から学生に薦めたい本を紹介いただきました。継続的な開催につなげていきたいと考えています。

「あなたの推し本」コーナー。全国大学生協が実施している「読書マラソン」の参加者は名大生協が首位を走る
「あなたの推し本」コーナー。全国大学生協が実施している「読書マラソン」の参加者は名大生協が首位を走る
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「推し本」コメントも充実。参考に本を買う学生が増えているという
「推し本」コメントも充実。参考に本を買う学生が増えているという
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売れ筋は名大ゆかりのノーベル賞受賞者関連本。SNSで話題の小説も

 理工書の最近の売れ筋は、ノーベル賞受賞分野の物理、化学、工学の専門書です。名大に在籍経験のあるノーベル賞受賞者は6名いらっしゃいますが、特に益川敏英博士、小林誠博士(2008年ノーベル物理学賞)、下村脩博士(2008年ノーベル化学賞)、天野浩博士(2014年ノーベル物理学賞)の著書はコンスタントに動いています。関連する研究テーマの本も継続的に売れています。

「名大温故知新」の棚には名大ゆかりのノーベル賞受賞者などの本が並ぶ
「名大温故知新」の棚には名大ゆかりのノーベル賞受賞者などの本が並ぶ
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上級生や卒業生の単位取得や卒業、院試の危機を救った本を紹介する「SOSフェア」
上級生や卒業生の単位取得や卒業、院試の危機を救った本を紹介する「SOSフェア」
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「理工書・演習書フェア」は担当者が定番の理工書をセレクト
「理工書・演習書フェア」は担当者が定番の理工書をセレクト
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 一般書では他校同様、SNSやYouTubeで話題になった本が売れる傾向があります。最近の例では、ダニエル・キイスの『 アルジャーノンに花束を 』(ハヤカワ文庫NV)、劉慈欣の『 三体 』(ハヤカワ文庫SF)、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『 百年の孤独 』(新潮文庫)など。『アルジャーノンに花束を』と『三体』は読書マラソンでも人気で投稿コメント数も多く、いいコメントをPOPにして張り出していることもありコンスタントに売れています。

 名大出身の水野太貴さんが出演しているYouTube番組「ゆる言語学ラジオ」で紹介された本も話題になることが多いです。水野さんご本人の著書『 きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集 』(KADOKAWA) (関連記事:KADOKAWA『きょう、ゴリラをうえたよ』今井むつみ監修 「まえがき」を読む) は学生からのリクエストにより置くようになりましたが、人気が出始めています。また、理工書でも「SNSで薦められていたから」という理由で選ぶ人が増えつつあります。私たちも今後さらに、SNSでの動きを注視する必要があると感じています。

 名大の学生にお薦めしたいのは、講談社の「ブルーバックス」シリーズです。当店でも専用の棚を設けていますが、新刊が出ると学生のみならず先生方も買いに来られます。文系出身の私にも分かりやすい内容で、専攻以外の分野の科学的な知識を手軽に得ることができると思います。視野を広げるいいきっかけになるのではないでしょうか。特に中山裕木子さんの『 テンプレート式理系の英語論文術 国際ジャーナルに学ぶ伝わる論文の書き方 』は発売以降人気です。Booksフロンテのブルーバックスの中では一番人気ではないでしょうか。著者の中山さんは英語の本を数多く執筆されていますし、名大で指導されていたこともあるようです。これから国際論文を出す学生さんにお薦めです。

 個人的に注目しているのは、小川哲さんと朝井リョウさんの小説。小川哲さんは、本屋大賞にノミネートされた『 君のクイズ 』(朝日新聞出版)が話題で名大生にも人気ですが、10月に発売された新刊『 スメラミシング 』(河出書房新社)にもぜひ注目してほしいですね。朝井リョウさんは現代っぽいタッチが心地よく、学生の皆さんも共感できる本が多いと感じます。同じく10月に新刊『 生殖記 』(小学館)が発売されましたが、グイグイと引き込まれてしまう1冊です、私もバスの中で読み始めて、座席の脇にスマホを置き忘れてしまったほど。ぜひ皆さんにもこの「他にはない没入感」を味わってほしいです。

澤田さんお薦めの朝井リョウ『生殖記』と講談社ブルーバックス『テンプレート式 理系の英語論文術』
澤田さんお薦めの朝井リョウ『生殖記』と講談社ブルーバックス『テンプレート式 理系の英語論文術』
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「いつ来ても変化のある店」を目指したい

 来店客数はコロナ前に戻っているとはいい難く、学生の本離れは着実に進んでいると感じます。生協書店としては、本を読む機会を少しでも多く提供したい。そのために読書マラソンのコメントを紹介したり、名大生の先輩の声を紹介したりして、本を手に取るきっかけを増やしています。

 当店では、文具や雑誌などは置いていますが、食品などを扱う購買部は併設してないので、他店のように「飲み物を買いがてら毎日書店にも寄る」というような人はいません。だからこそ、売り場の作りをこまめに変えたり、お薦めコメントを更新したりと、来るたびに何らの変化があるお店作りを意識しています。

 名大は読書マラソンへの参加者が多いように、本離れがいわれるなかでも、読書が好きな学生が一定数いることにうれしさを感じますが、もっと多くの人に読書の楽しさを知ってもらうことが生協書店の役割と思っています。

 今はネットを中心にさまざまな情報収集源がありますが、紙の本でしか得られないものがあります。興味のある本に出合い、次のページが気になって気になって、ページをめくるのももどかしくなる感覚は他では得られないもの。1冊に没入し、心の中にいつまでも残り続ける感覚を、ぜひ多くの人に味わってほしいと願っています。

取材・文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/上野英和