生成AIなどの新しい技術によって仕事の効率化が進んだはずなのに、なぜラクにならない? そんな皮肉な現実に疲れた人に、ぜひ手に取ってほしい一冊があります。退職学研究家の佐野創太さんの『 70%で働く 「もっと頑張る」から脱出する働き方の思考法 』(日経BP)です。佐野さんは、20代のときに頑張り過ぎて2度の短期離職→無職→出戻り再入社→介護離職という紆余曲折を経験しました。今回は、「適度に頑張る」ことができない人に読んでほしい本を紹介してもらいました。
「120%」を疑似体験できる振り切った本
拙著では、セルフ搾取的な働き方から抜け出す方法として、「70%で働く」ことを提案しています。無理して100%の力を出すよりも、コンスタントに70%の力を出すことを心掛けたほうが成果もやる気も安定し、高パフォーマンスの維持につながるからです。ところが、真面目で謙虚な人の場合、「自分は120%でやるくらいじゃないと他の人の70%に至らないから」と頑張り過ぎる傾向があります。そういう人はあえて、本を読んで「120%」の状態を味わってみてはいかがでしょうか。
その格好の一冊として紹介したいのが、歴史学者の会田雄次さんが書いた『よみがえれ、バサラの精神 今、何が、日本人には必要なのか?』(PHP文庫)(紙版は、現在品切れ。古書店、インターネット書店、図書館などで入手することができます)です。

バサラの語源は、サンスクリット語の「vajra(ヴァジュラ)」で、金剛石やダイヤモンドの意味。最も硬いものであることから、転じて、常識にとらわれない様子や型破りな振る舞いを意味するようになったといわれます。そのバサラが今の日本人には足りない、と著者は力説しています。日本人は豊かになったけれど、小さくまとまり過ぎていないか。もっと大胆に面白く、創造的に生きよう――と力強く投げかけてくるのです。
発売されたのは1987年で、約40年前。もしSNSがある時代だったら、すぐ炎上するだろう、というほど強くて鋭い言葉でつづられています。だからこそ胸を射貫く力が強く、最近やる気が出ないな、というときにもおすすめの一冊です。私も、時々読み返しては、「バサラだー!」と自分を奮起させています(笑)。それで一旦バサラモードに振り切ると、反動で揺り戻しがあって、気が付くとちょうどいい70%の自分になっている気がします。

頑張ることは力を抜かないこと、ではない
どうしてこの本が目に留まったのかは覚えていないのですが、本当に読んでよかったと思うのが『 ニコマコス倫理学 』(アリストテレス著、渡辺邦夫、立花幸司訳、光文社古典新訳文庫)です。「中庸」という素晴らしい実践的な思考法かつ行動基準と出合うことができました。中庸というと、両極端の間に位置して、どっちつかずな状態をイメージしませんか? どこかに定まらないことから、私はいいイメージを持っていませんでしたが、その考えが間違っていると本書は教えてくれました。
どういうことか、「勇気」を例にして説明します。アリストテレスいわく――人間には勇気という徳があるが、過剰になると勇気は「野蛮」になって、簡単に突っ込んでいくようになる。逆に、不足すると臆病になって、ささいなことで簡単に逃げるようになる。いずれも簡単にできることだけれど、中庸の状態の「勇気」は違う。状況を見極めて、適切なタイミングで適切な行動を取ることであり、極めて難しいことであるといいます。野蛮と臆病、両極端のどちらかに流されず、最も適切な一点を選び取ることが徳であると。
素晴らしい考え方だと思いませんか? 定義的には中間になりますが、卓越性という観点では頂点です。つまり、中間にして頂点、ということ。「仕事を頑張る」についても同じように考えた場合、頑張り過ぎれば「過労、バーンアウト」になって、全く頑張らなければ「無気力、職務放棄」になりますよね。いずれも主導権を手放してしまった状態ですが、中庸の状態の「頑張る」は違います。主体的に、状況に応じて力を入れたり抜いたりしながら、持続可能な努力を重ねることになると思います。「頑張る=力を抜かないこと、倒れるまでやる」ということではないのです。
常に中庸のイメージを持っておくと、つい頑張り過ぎて“誤作動”を起こしても、最近飛ばし過ぎだからペースダウンしよう、というふうに調整しやすくなると思います。
憧れのTAKUROさんの意外な人生観
最後に紹介したいのは、これまでおすすめした他の本とは全く違う系統の本で、ロックバンドのLUNA SEAのSUGIZOさんと、GLAYのTAKUROさんの対談集『 CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話 』(SUGIZO、TAKURO、立川直樹著、PARCO出版)です。私は、GLAYの大ファンで。ファン歴は小学5年生からなので、キャリアの中で一番に長いのはGLAYのファンだと胸を張れます(笑)。本書は2020年9月の発売と同時に購入しました。
心に響く箇所には付箋を付けていて、いつでもすぐ読み返せるようにしています。なかでも特に好きなのが拙著でも引用した、「音楽も大事で、とってもすてきなものなんだけれども、人生追い越しちゃ駄目じゃないって」というTAKUROさんの言葉です。
当時の世界記録を樹立した20万人ライブなどで有名な彼らは、私から見ると絶対「音楽>人生」だと思っていました。振り切った者にしか見れない最高の景色を見たのだと思っていたのです。実は以前、私は音楽系のインタビューライターをやっていたことがあるのですが、その時の知り合いに「90年代は鉄バットの代わりにギターを持ってバンドをやっているような人が多かった」と聞いたことがあります。何にも代え難い表現の手段として音楽があるのだと。なので、TAKUROさんも「音楽と共に死にたい」くらいのことを言うだろうと思っていました。いい意味で裏切られましたね。2人の子どもがいて、子育てで悩んだ時期があったことなどにも触れられていて、同じく子育て中の身として心強く感じました。
同時に、音楽活動だけでなく、子育てにも重きを置いている様子にハッとさせられました。逆に私の場合、子どもがまだ小さいこともあって、子育てに夢中になり過ぎるところがあります。だから、職業人としての自分にもしっかり重心を掛けておかないといけないな、と。そうしないと、ヘリコプターペアレントのように子どもに過干渉になりかねず、子どもが大きくなったら間違いなくバーンアウトしそうで…。その絵がうっすら見えたので、「仕事」と「子育て」の2つの"点"をしっかり意識するようになりました。
私の理想は、振り子のように、できるだけバランス良く、2つの間を行ったり来たりすることです。それが仕事と子育てを両立する、というリアルな姿ではないかと思います。アリストテレスの「中庸」にも通じる感覚です。どちらか一方に偏らず、2つの間を揺れ動きながら、人生は豊かになっていくように感じます。
取材・文/茅島奈緒深 構成/大松佳代(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか

