仕事で求められるスキルは職種ごとに異なる。しかし、職種にかかわらず共通して必要なものがある。それは「問題解決」「コミュニケーション」「マネジメント」のスキルだ。自身がどれくらいのレベルにあるか、チェックできる意外な場面とは…? 初版が10万部を超えるロングセラーとなった『 日経文庫ビジュアル ビジネス・フレームワーク<第2版> 』の著者、堀公俊氏がスキルの開発法を解説。『 ビジネススキル強化メソッド 』から抜粋・再構成してお届けする。

必ず身につけるべきビジネススキルとは

 仕事で必要となるビジネススキルは、当然のことながら職種によって違います。たとえば、営業職ではプレゼンテーションや交渉のスキルが大切であり、企画職ではリーダーシップや戦略立案のスキルが求められます。

 そこで、必要なスキルを職種別に整理した職種別ビジネススキル一覧表をつくってみました。元になったのはテーマ別研修です。さまざまな研修会社が、どんな職種を対象にどんな研修を実施しているかを徹底的に調べて一覧表にまとめました。

 ただし、取り上げたのは思考系、対人系、組織系のスキルのみです。業務系、知的生産系のスキルは、職種よりも個人によって必要度が変わるため、この表からは割愛しました。職種に特有なスキルも入れていません。

職種別ビジネススキル一覧表(管理系の例)
職種別ビジネススキル一覧表(管理系の例) (出所)『ビジネススキル強化メソッド』
(出所)『ビジネススキル強化メソッド』
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 こうやって見ていくと、職種にかかわらず共通して必要なスキルがあることが分かります。それは、企業や社会が重要視するスキルと重なります。

 言い換えれば、「それさえ持っていればそれなりに仕事ができる」という超お得なスキルです。早く習得して磨きをかけるに越したことはありません。企業サイドにしても、まずはそれを社員に叩き込むのが効率的です。合わせて3つあり、3大ビジネススキルと呼ぶことにします。

超・お得な3大ビジネススキル

①問題解決
 ビジネスは問題解決の連続です。問題発見、原因分析、対策立案、行動決定の4つのステップを繰り返しながら、目標を達成していきます。どのステップも重要ですが、スキルのレベルが上がるにつれて、下流(立案)から上流(発見)に重きが置かれるようになります。

 問題解決をうまくやるには、ロジカルシンキング、定量分析、創造思考、意思決定などのスキルが要ります。いわば、思考系のスキルの集大成が問題解決のスキルです。

②コミュニケーション
 仕事は一人ではできず、人と人のコミュニケーションで成り立っています。その良し悪しによってチームのパフォーマンスが大きく左右されます。話す、聴く、応える、観る、訊くといったスキルは組織活動の基本です。話し言葉に加えて書き言葉(ライティング)も使いこなせれば鬼に金棒です。

 コミュニケーションのスキルをしっかり身につけておけば、コーチング、アサーション、プレゼンテーション、説得、交渉といった他の対人系のスキルへの展開が容易になります。

③マネジメント
 組織を効果的に動かせるかどうかはマネジメントにかかっています。目標を立て、ヒト・モノ・カネ・時間などを手配し、計画通りに進むよう仕事を管理していきます。部下を持つ管理職はもちろん、あらゆるビジネスパーソンが身につけるべきスキルです。

 マネジメントのスキルを広くとらえると、大半のビジネススキルが含まれるようになります。戦略立案や企業会計からタイムマネジメントやプロジェクトマネジメント、果ては業務改善や人材開発まで、幅広いスキルが該当します。

3大ビジネススキルは「会議」で測る

 3大ビジネススキルがどれほど身についているか、簡単に調べられる方法があります。会議を舵取りするファシリテーターとして、ファシリテーションのスキルを実演するのです。

 会議は組織の縮図だと言われています。会議という限られた場で、問題解決、コミュニケーション、マネジメントのスキルを発揮するのがファシリテーションである、ととらえることもできます。

 そのため、ファシリテーションのレベルを見れば、その人の3大ビジネススキルのレベルがおおよそ分かります。どれが得意でどれが不得意かがつかめるようになるのです。

 であれば、まずはファシリテーションにトライしてみて、そこから3大ビジネススキルのどれを伸ばすべきかを考える、というのも一法です。どのスキルに取り組むべきか迷っている人がいたら、ファシリテーションを入り口にしてみることをお勧めします。

3大ビジネススキル
3大ビジネススキル
(出所)『ビジネススキル強化メソッド』
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すべての人にリスキリングが求められる

 取り組むべきビジネススキルを必要性から考える場合に、忘れてはならない大切な話があります。今はビジネスの大転換点にある、という点です。

 社会のデジタル化や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に伴い、新しく生まれた仕事をこなすための能力開発が求められています。いわゆるリスキリングです。

 もはや、有能なデジタル人材が組織に何人かいればよい、という時代ではありません。DX によってビジネスモデルが大きく変わり、企画、開発、販売、製造、サービス、物流、管理などすべての仕事において、業務プロセスを変化させなければいけません。

 単にデジタル機器が使いこなせるだけでは不十分で、現場の一人ひとりがデジタルで発想し、行動しないと、仕事が回りません。すべての人を素早くリスキリングしないと、価値が生み出せない時代になってしまったのです。

 そのために必要となるスキルとしては、プログラミング、データ分析、AI、デジタルマーケティングなどが一般的なものとして挙げられています。さらに、自社のDX 戦略に応じたスキルも学ばなければいけません。しかも、知識やスキルを常にアップデートさせないと、ついていけなくなります。

会社任せにしていては遅すぎる

 海外では、AT&T、アマゾン、ウォルマートといった巨大企業がリスキリングにかなりの投資をしています。ダボス会議においても「2030年までに10億人のリスキリング」が提唱されています。

 この点でも日本は大きく遅れをとっており、大企業における取り組みが始まったところです。「現場任せで教育にお金をかけない」風潮が強い日本において、本当に取り組む気があるのか、心もとないものがあります。ましてや中小企業においては厳しい現実があります。

 今や仕事に不可欠となったビジネスソフトのExcelがそうでした。一部の感度の高い人が使い始め、触発された人が自分で教本を買ってきて勉強したり、職場で教え合ったりしていました。集合研修のカリキュラムに組み込まれ、仕事のプラットフォームになったのは、その後での話です。

 会社任せにしていたら遅きに失します。必要に迫られた私たち一人ひとりがどうにかする他ない。そう思っておいたほうが無難だと思います。

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