初版が10万部を超えるロングセラーとなった『 日経文庫ビジュアル ビジネス・フレームワーク<第2版> 』の著者、堀公俊氏の最新作『 ビジネススキル強化メソッド 』では、職務、観察、会議、プロジェクト、社内講師、読書、動画、研修、資格、生活、ネット、コミュニティ、副業、転職、起業という15のスキルアップ手法を解説している。同書を抜粋・再構成し、今回は「会議」の手法を紹介する。
会議をムダにしているのはあなた自身?
「仕事のムダ」という言葉を聞くと、多くの人が思い浮かべるのが会議ではないかと思います。メールで済むようなことを伝えるために集められたり、みんなで決めたという体をつくるためだけに開かれたり。
会議とは読んで字のごとく、会って議論する場です。みんなで意見を戦わせて、納得感のある結論を得るためにあります。組織の意思決定の大切な場です。
あわせて忘れてはいけないのは、会議は人材育成の貴重な場であることです。会議は組織の縮図であり、仕事のあらゆる要素がそこに凝縮されているからです。たとえムダと思える会議も能力開発の面で有効活用ができます。会議がムダなのではなく、会議をムダにしているのはあなた自身かもしれません。
会議を学びの場に変える方法
会議でどんなスキルが学べるのか、ざっと挙げてみましょう。まず思考系のスキルとしては、ロジカルシンキング、批判的思考、創造思考、問題解決、意思決定などがあります。
積極的に発言する人はもちろん、聞いているだけの人であってもこれらのスキルは学べます。「え、それっておかしくない?」「○○じゃダメなの?」と頭の中でツッコむことで思考力が鍛えられるからです。
次に対人系のスキルですが、プレゼンテーションから交渉まで、ほとんどすべてのスキルが会議で学べます。そのためには議論に加わってほしいのですが、観察に徹するという学び方もできます。
もちろん、会議を進める立場となればファシリテーションのスキルが身につきます。そうなれない人には書記をお勧めします。議事録を書くことでライティングのスキルのみならず、傾聴力や論理思考力が高まります。こんなルーティンかつ地味な仕事でもスキルアップを見出せるのです。
一方、会議と組織は相似形をなしており、会議での人間模様を観察すればリーダーシップやチームビルディングといった組織系のスキルが学べます。さらに、ビジネスマナーや報連相などの業務系のスキル、情報収集や整理といった知的生産系スキルも会議を使って鍛えることができます。
こう見ていくと、自分が取り組みたいビジネススキルの視点で会議をじっくり観察すれば、気がつくことがいろいろあるはずです。会議はまさに学びの宝庫でありムダな部分はどこにもありません。
有効な「人間ドラマノート」
退屈な会議を有意義に過ごす方法があります。名づけて人間ドラマノートです。ノートの真ん中に線を引いて、スペースを縦2つに分割します。その上で、観察するターゲットを決めます。黙って座っている人よりも、積極的に会議に参加している人のほうが、観ていて面白いです。
紙の左半分は「事実」を書くエリアです。その人が何を話したか、どんな態度だったか、実際に起こったことを時系列でメモしていきます。それに対して右半分は「心理」を書くエリアです。そのときの心模様、心の声、気持ちの変化など、参加者の心の中で起こったことを想像してメモします。観察力を発揮させて勝手に解説をつけていくわけです。
最初は左側を書くだけで十分です。慣れてくれば少しずつ右側が書けるようになります。とはいえ、いわゆる空気が読めない人は上達に時間がかかります。それでも諦めずにやれば書けるようになってきます。
これもすべてのビジネススキルの基礎となる観察力や言語化能力を鍛えることができます。何人かで手分けしてやって後でつきあわせれば、リーダーシップやチームビルディングなど組織系のスキルの学習にもつながります。
教えることでスキルが深まる
「教えることは学ぶこと」だとよく言われます。血肉になっていないものは教えられず、教えることで理解や技術が深まるからです。
皆さんが得意としているビジネススキルがあれば、一度考えてみてください。具体的な手順を、まったく知らない人にどう説明しますか。よい手本を後輩に見せることができるでしょうか。うまくやるための奥義や極意を初心者から聞かれたら何と答えますか。
こうやって思考実験してみるだけでも、自分の至らなさに気づきます。教えられるようになることを目標にして、スキルアップに取り組んでみてはいかがでしょうか。
仕事の中のチャンスを生かす
仕事の中で人に教える機会はたくさんあります。職場でのちょっとした説明や指導、アドバイスやフィードバックも教えることの一種です。面倒臭がらず出し惜しみせず、自分の学習のためだと思ってどんどん教えてあげるとよいでしょう。教え分かち合うことで自分に磨きがかかります。
ただし、押し売りは禁物です。教えるよりも考えさせるほうがよい場面も多くあり、相手の学習を妨げてはいけません。
スキルが上達してくれば、社内資格の判定員や社内コンテストの審査員など、評価する仕事が回ってくることもあります。これも教えることの一部であり、積極的に引き受けたほうが自分のためになります。
直接的に何かを教える立場になれなくても、教えることに間接的に関わることはできます。職場での学習を計画する役目を引き受けたり、会社の人材開発の担当者になったりして。立場が変わるだけで人や組織に対する見方や入ってくる情報が違ってきます。
リバースメンタリングで教える側へ
こんな話をすると、「私はまだ若くて、人さまに何かを教える立場にない」と言う方がいます。そんなことはありません。若い人だからこそ教えられることがあります。
最近、リバースメンタリングを導入する企業が増えてきました。通常のメンタリングとは逆に、若手がメンター(指導・相談役)となって、上司や先輩に助言や指導を行う人材育成法です。
たとえば、リスキリングの一環として、ITの基礎知識やツールの使い方を若手が管理職や役員にマンツーマンで指導させている企業があります。こうすることで双方のスキルアップになると同時に、世代間のコミュニケーションも促進されます。若手のモチベーションアップにもつながります。
ITに限らず、若手だけが持っている知識、経験、技術、価値であれば、リバースメンタリングを使って組織内で共有ができます。若者市場のトレンド、流行りの商品やサービス、新しい行動パターンなどです。
リバースメンタリングの制度がなくても心配要りません。若手のほうから、「部長、○○について知らなくて大丈夫ですか?」と誘い水をすれば乗ってくるかもしれません。ダメモトで試してみてはいかがでしょうか。
「スキルを高めたい、でも、何をどう身につけたらいいのか分からない」そんな悩みに応える、ビジネススキルの効果的な開発法をまとめました。目標設定の仕方、15のスキルアップ技法、後輩の育成方法に加え、スキルの棚卸しに役立つ「スキルチェック表」も収録。
堀公俊著/日本経済新聞出版/2090円(税込み)