40代で巨大IT企業Zホールディングスの会長に就任した川邊健太郎氏が、若い頃に読んでおきたかったという5冊を紹介する。第3回はビジネスをシンプルに捉えられるエッセー集『狸ビール』を紹介する。
<1回目「川邊健太郎 思いがけない不本意が人生を彩る」><2回目「川邊健太郎 未曽有の惨事に学ぶ『圧倒的当事者意識』」>
ビジネスと人間がシンプルに見えてくるエッセー集
好奇心の赴くままに本を読むので、誰かから薦められたものにはあまり食指が動きません。けれど、漫画雑誌『モーニング』の編集長だった島田英二郎さんから「川邊さんはこの本を好きだと思う」とプレゼントされたこの本は、確かに面白かった。
最後に紹介するのは 『狸ビール』(伊藤礼著、講談社文庫) 、英文学者でありハンターでもある伊藤礼さんによるエッセー集です。あえて分類するなら脱力系エッセーでしょうか。テーマはハンティングですが、朝起きられなくて成果もいまいちな日常や偉大なる父親(作家の伊藤整氏)へのコンプレックスが垣間見え、共感も笑いも湧いてきます。
犬との交流も心に残ります。猟師にとって猟犬は、まさにビジネスパートナー。狙った獲物は共同作業で手に入れます。猟というプロジェクトは、普通に飼っているときとは比べものにならないほど、人間と犬の絆を強めてくれます。このことは私自身も痛感しています。
猟師と漁師と経営者
都内で生まれ育った私ですが、今は千葉・館山に家を持っています。企業の保養所として使われていた海沿いの建物を買い取って、プロの手を借りDIYもしながら、住環境を整えてきました。最近、漁業権を得て漁もするようになりました。その前から狩猟免許と銃所持許可証を持っていて猟もしているので、今現在は、経営者と猟師と漁師、三足のわらじを履いていることになります。
1次産業を経験したことで、思考がシンプルになりました。海も山もそれにまつわる仕事も、今多くの人が関わっている3次産業よりもはるか昔からあるもので、これらの仕事は生きていくことに直結しています。ですから、1次産業には人間の社会的営みに不可欠な、リーダーシップやリスク管理、仲間との関係が、かなり本質的かつ露骨に残っています。
それと比べると、学生の頃から続けてきた仕事は抽象化も複雑化もされていて、私はビジネスの本質については分からないまま取り組んできたのではないかと思いもします。その本質を理解するために猟や漁をしろとは言いませんが、この本を通して触れてみるのはどうでしょうか。少し古いですが難しい本ではありません。気楽に読めると思います。
ビジネス書以外をすすめる理由
2023年5月に、X(旧Twitter、@dennotai)で若手に向けた本の紹介を始めました。きっかけは、この春にZホールディングスの社長を退いて会長になり、政府の新しい資本主義実現会議のメンバーとして、若い人のスタートアップ支援について考えることが増え、私なりに若い人を応援したいという思いが強くなってきたからです。40代のプライム上場企業会長という自分自身を客観視したとき、SNSでの発信力がもっとあってもいいのではないかという思いもありました。
4月からまず 自分の起業時代の経験をつづりました 。どなたかがtogetterにまとめてくれています。
長い振り返りが終わって次は何をしようかと考えていたときに、けんすう(実業家の古川健介さん)から、たくさん本を読んでいるのだから、かつてブクログに書いていたような書評を、若手に向けて再開したらいいのではないかとアドバイスされました。対象はビジネス書以外で、です。
ビジネス書以外というアイデアはいいなと思いました。働いている人の多くは、ビジネス書については、どれを読めばいいかだいたい分かるでしょう。仕事で評価されたければこのあたりのビジネス書、効率化したければこのあたりといった具合です。けれど、その周辺となると、あまり必要性を感じないこともあって、誰かから強く推されない限りなかなか手に取らないのではないでしょうか。
そこで「#若手にオススメしたいビジネス書“以外”」というハッシュタグで書き始めました。今後も、小説も含めたお薦めの本について書いていきます。
取材・文/片瀬京子 構成/木村やえ(日経BOOKプラス編集部) 写真/窪徳健作







