2025年11月、中央大学多摩キャンパスで、作家生活15周年の作品となる『 イン・ザ・メガチャーチ 』を上梓した朝井リョウさんの講演会(中央大学文学会主催)が開催されました。当日、約350席の会場は満席になり、熱気に包まれる中、事前に参加者から募集した朝井さんへの質問に朝井さんが答える形で講演がスタート。朝井さんのユーモアあふれる軽快なトークに会場が沸いた講演の一部を4回に分けてお届けします(今回は3回目)。聞き手は中央大学文学部国文学専攻4年生で、文学会イベント代表の蓬田盟さんです。
登場人物を描くときに意識していること
中央大学文学会・蓬田さん(以下、──) 参加者からの事前質問では「小説を書くこと」に関するものが多かったですね。
朝井リョウさん(以下、朝井) その中でも、「どのように小説のテーマを決めていますか」「どうして多くのキャラクターをつくれるのですか」というような質問が多かったですね。人物設定に関しては「自分と異なる価値観を持つ人物を書くときに意識していることはありますか」といった質問もたくさんいただきました。ここからは私の最近の作品についてちょっとお話したいと思います。
そういえば質問の中に、最新刊の 『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版) と、 『スペードの3』(講談社文庫) の違いを問うているものがありましたね。確かにどちらも“ファンダム”が中心に据えられた物語なんですけど、前者ではコミュニティーの集団心理について、後者ではコミュニティー内の個人について書いていたように思います。それぞれ読み比べて違いを楽しんでもらえたら、うれしいです。
作家
2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』など多数。
人物の書き分けに関してですが、まず私は生物学的には36歳の男性です。そのうえでいろいろな人物を書くとして、36歳で男性のキャラクターは楽に書けるかといわれれば、全然そんなことはない。私は結局、「世界とその人の関係性が人間の違いに表れる」と思っています。だから、私と条件としては同じ36歳で男性のキャラクターを書くとしても、世界との関係性のほうを優先します。
ものすごく単純な例を挙げると、同じ36歳の男性でも身長が190センチだったときと150センチだったときでは、世界の見え方が違うし、捉え方も変わってきます。そういう部分をどんな場面でも忘れないようにしながら、キャラクターを書くようにしています。
例えば『イン・ザ・メガチャーチ』では、冒頭、同じテレビ番組について3人の登場人物が感想を述べるシーンがあります。同じものをまなざしたときの感想の違いに、世界とその登場人物の関係性が表れてくると思っています。
書き始めると現れてくれる「文章の神様」
ちなみに、これも多かった質問です。「スランプはありますか」。
朝井 「朝井さんも『自分は何を書いているんだろう』と不安になるときはありますか」「小説というものに憧れがありつつ、なかなか書き出すことができません」「最近、小説を書き始めたのですが、なかなか執筆が進まないことが多いです。朝井さんはどんな順番で書き続けていますか?」「行き詰まったときはどうしますか?」――このあたりの質問たちですよね。
私は、「行き詰まり」って大抵自分に期待し過ぎている状態だと思っていて、だからもうとにかく「書き始めるしかない」と思っています。ちょっとスピリチュアル的なことを言いますが、いざ書き始めると、文章の神様がサービスしてくれるんですよ。書き始めると「これがここにつながるんだ」「ここはこう書けばよかったんだ」みたいな福音めいたひらめきが急に降ってくる。でもそれって、書き始めないと絶対に降ってこないんですよ。とにかく何でもいいから書き始めると、文章の神様がサービスしてくれる。私は本当にそう思っています。
「小説」というと、どうしても才能があるか、ないかという話になり、私も同業の方の作品を読むと「すごい才能だな」と思う人がいます。でも、私たちは大抵、日本語で文章が書けますよね。そのうえ想像力も備わっている。自分の人生経験があれば「誰でも1冊は本が出せる」といわれています。でも本を出したい人が全員本を出せるわけじゃない。
それは単純に、皆が何かを書いたとして、「書き終える」人が割合として100分の1ぐらいだからだと思います。主に長編小説の話です。さらに「書き終え続ける」となると、そのまた100分の1ぐらいになると思います。この時点で1万分の1なので、日本の人口が1億人だとしたらこの時点で1万人ぐらいに絞られている気がするんですよね。そこに入れれば、あと世に出るかどうかというところの差はそんなに大きくないと思うんです。
だから、行き詰まりを感じても、とにかく書き始めて、書き終えて、それを続けるしかない。書き始めたら文章の神様がサービスしてくれますから!
世の中には「小説家になる方法」的な本がたくさんあるんですけど、読んでみると、「結局みんな、それぞれ固有の書き方で書いているんだな」と分かると思います。共通のセオリーはないんじゃないかな。だから、いっぱい書いて、自分の書き方を見つけて、書き終え続けて、まずは1万分の1になりましょう、というのが私ができるアドバイスの限界です。
朝井リョウ著、日本経済新聞出版、2200円(税込み)
取材・文/三浦香代子 構成/幸田華子(第1編集部) 写真/稲垣純也



