2025年11月、中央大学多摩キャンパスで、作家生活15周年の作品となる『 イン・ザ・メガチャーチ 』を上梓した朝井リョウさんの講演会(中央大学文学会主催)が開催されました。当日、約350席の会場は満席になり、熱気に包まれるなか、事前に参加者から募集した朝井さんへの質問に朝井さんが答える形で講演がスタート。朝井さんのユーモアあふれる軽快なトークに会場が沸いた講演の一部を4回に分けてお届けします(今回は2回目)。聞き手は中央大学文学部国文学専攻4年生で、文学会イベント代表の蓬田盟さんです。

学生時代は「共感の読書」、社会人は「発見の読書」

朝井リョウさん(以下、朝井) 前回の記事 「自分が『何者』か分からなかった朝井リョウが、進学先を決めた1冊」 で紹介した本は、学生時代の「共感の読書」でした。

 社会人になってからは「発見の読書」を求めるようになりました。もし学生時代に発見の読書をしていたら、もっといろいろなことを楽しめていたのかなと思います。大人になった今、学生のころに読めていたらよかったな、と思う本を紹介しますね。

学生のときに「発見の読書」をしていたら、何か変わったのかもと語る朝井さん
学生のときに「発見の読書」をしていたら、何か変わったのかもと語る朝井さん
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 今日ご紹介するのは、昨年読んだ 『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』(小学館) 。ノンフィクションライターの前川仁之さんが世界の難民の人々に焦点を当てた作品です。

 テーマだけ聞くと読むハードルが上がりそうですが、文章全体をユーモアが貫いていてとても読みやすく、本当に示唆に富んでいる一冊です。東京大学を中退後、人形劇団員、警備員を経て、立教大学で異文化コミュニケーションを学び直されたという経歴からもにじむように、著者の知的好奇心と行動力のかけ合わせ方がすさまじい。

『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』(小学館)の中に出てくる言葉に感銘を受けた/画像クリックでAmazonページへ
『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』(小学館)の中に出てくる言葉に感銘を受けた/画像クリックでAmazonページへ

 日本にウクライナから難民が来るとなったとき、前川さんは9日間で簡単な会話ができるまでのウクライナ語を習得し、埼玉県のボランティア活動に参加してウクライナの方々と交流を持っています。そのようなコミュニケーションから生み出される思考や体験のエピソードがたくさん出てくるのですが、印象に残るのは前川さんの他者に対する姿勢です、前川さんは、異なる背景の人と交流するとき、まずその人の母国語でコミュニケーションを取ることと、その人のルーツや母国の歴史的背景を知る、ということを意識されていると感じます。このような、知的好奇心と行動力のかけ合わせが豊かなコミュニケーションを生むいろいろな例を、もっと若いときに知っておきたかったなと感じました。

 前川さんは「1つの正解よりも100の逃げ場があったほうがいい」というようなことも書いていて、この言葉も救いになるのではと思います。もし、私が学生時代にこの本を読んでいたら、忘れられない一冊になったはずです。

 ちなみに蓬田さんが、最近読んで面白かった本は?

中央大学文学会・蓬田さん(以下、──) えっ、僕が話していいんですか。今年出版された、あさのあつこさんの 『NO.6[ナンバーシックス]再会#1』(講談社) です。もともと『NO.6』のシリーズがあって、新シリーズが2冊発売されたのですが、1カ月で読み切ってしまいました。ディストピア小説で、主人公・紫苑の相棒のネズミのセリフがいちいちキザで、超かっこいいんですよ。

聞き手は中央大学文学部国文学専攻4年生で、文学会イベント代表の蓬田盟さん
聞き手は中央大学文学部国文学専攻4年生で、文学会イベント代表の蓬田盟さん
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朝井 あさのあつこさんは本当に幅広くてすごいよね。私も読んだなあ。

『バッテリー』 ですか。

朝井 そうそう、三浦しをんさんの 『風が強く吹いている』 とか、森絵都さんの 『DIVE!!』 とか、スポーツ小説の金字塔ですよね。

本の話題で盛り上がる朝井さんと中央大学の学生・蓬田さん
本の話題で盛り上がる朝井さんと中央大学の学生・蓬田さん
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就活に効く「心のおまじない」になる一冊

朝井 さて、今日は大学生の来場者が多いので、『何者』や「就活の体験談が聞きたい」という質問も多かったですね。ここからは就活の話です。

講演会では事前アンケートで募集した質問内容が朝井さん特製のスライドで映し出された
講演会では事前アンケートで募集した質問内容が朝井さん特製のスライドで映し出された
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 私が就活をしたのは10年以上前で、会社員生活は3年ほど。今とは状況が違うと思いますが、私がぜひおすすめしたいのが石田夏穂さんの 『黄金比の縁』(集英社文庫) です。この本では会社から理不尽な扱いを受けた主人公が、「会社への最大の復讐は何か」と考えた結果、ある独自の基準で学生を選別することを決意します。その詳細はぜひ本編を読んでほしいんですけど、とにかくこの主人公が徹底して、いかに就活というシステムが正しく機能していないか、と語ってくれるんです。その切れ味が本当に最高! 私は何度も声を出して笑いました。

 この本を読むと、就活で『お祈りメール』が来たとしても『そもそも就活って正しく機能してないからな』と心を守るおまじないをゲットできます。私が解説を書いてますので、併せて楽しんでいただきたいです。

就活のシステムが機能していないと思えて力が出る『黄金比の縁』(集英社文庫)/画像クリックでAmazonページへ
就活のシステムが機能していないと思えて力が出る『黄金比の縁』(集英社文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 現在就活をしている人やこれから社会人になる人、もしくはまだ若手で「こんな自分に仕事なんてできるのかな」という人に対しては、「社会に出るとき、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」と伝えたいです。なぜなら……(この後その理由を具体的なエピソードと併せて話しましたが、具体的すぎるゆえWeb上ではカットとさせていただきます)。

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朝井リョウ
作家
1989年、岐阜県生まれ。
2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』など多数。最新作は『 イン・ザ・メガチャーチ

取材・文/三浦香代子 構成/幸田華子(第1編集部) 写真/稲垣純也

■変更履歴
本文を一部修正しました。 [2026/01/10 23:30]
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」――2025年、作家生活15周年を迎えた朝井リョウが、ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。

朝井リョウ著、日本経済新聞出版、2200円(税込み)