「AI(人工知能)活用」とは、AIに何か質問をして答えを返してもらうことだけではありません。自律的にAIに働かせて業務を効率化することが企業にとってのAI活用の本丸です。筆者が経営するTANRENという小さなIT企業がいかにAIエージェントを使って業務を進めているかを、書籍『 小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法 AIエージェントに10人分の仕事をさせる現場のリアル 』(日経BP)にまとめました。本特集では書籍から抜粋し、TANRENにおいて貴重な戦力であり、私の部下である「AI社員」が働く典型的な1日の流れを説明します。その第3回。

AIエージェントの昼

 「13:00 営業フォロー、Chatwork CRM同期」。

 午後1時、筆者は、軽い昼食を取ってデスクに戻ってきます。午前のオンラインミーティングが終わり、午後の商談に入る前の、つかの間の時間です。この時間にChatworkを開きます。ChatworkはTANRENが顧客とのやりとりに使っているビジネスチャットで、そこに顧客とのやりとりごとの「部屋」を設けています。

 TANRENが2026年7月現在、顧客とのやりとりに使っているChatworkの「部屋」は、合計で30を超えます。すべての部屋を筆者が直接見るのは難しく、そこで活躍するのがAIアシスタント(バックヤード担当者専属のAIエージェント)です。対話型で30件の部屋をすべて追うのは非常に困難です。一つひとつ部屋を開けて、読んで、返信して、また次を開く。気がつけば昼休みは消えています。

 そこで部屋の巡回をAIエージェントに「預ける」と、筆者が見なければならないのは、選び抜かれた数件だけで済みます。残りは、AIエージェントが「これは見なくていい」と優先度を付けてくれます。

 AIアシスタントは、バックヤード全般の業務を担う喜田めぐみ専属のアシスタントです。永続記憶や自動スキル作成などに対応するAIエージェント基盤の上で稼働しています。Chatworkの30件の部屋を順番に巡回し、新着メッセージの差分を拾い、優先度を付けて、「読まなくていい部屋」「読むべき部屋」「すぐに対応すべき部屋」の三つに仕分けていきます。AI秘書はこのAIアシスタントの仕事を確認する役割を担っています。そのため筆者がやりとりするのは朝同様、AI秘書です。

 午後1時にAI秘書からDiscordの「秘書との部屋」に次のような報告があります。「勝彦さん、Chatwork CRM同期の昼の報告です。AIアシスタントからのレポートを統合してお届けします」「結論から申し上げますと――本日の対応必須は、商談部屋A『契約条件の最終確認』のみです。残り29部屋は、AIアシスタントの差分通知レベルで足ります」。5月1日午後1時の報告はこういったものでした。

AIアシスタントが温度感を読む

 続けてChatwork上に設けた各商談部屋についての報告があります。

「>商談部屋A:13:45に新規メッセージ1件、要点3つに圧縮済。優先度A(先方からの追加質問、明朝までに回答依頼)」
「>商談部屋B:12:20に資料添付付き返信1件、添付資料を構造化整理済。優先度B(情報共有)」
「>商談部屋C-F:既存案件の事務連絡、AIアシスタントが返信下書きを作成済(喜田さんの最終確認待ち)」
「>商談部屋G-Z(23件):新着なし、または優先度C以下」

 そして「勝彦さん要チェック」の項目として、「商談部屋Aの追加質問、明朝までに方針決定いただきたい優先度A案件です」といった筆者が対応する必要がある投稿について教えてくれます。

 AI秘書はAIアシスタントからの追加情報として、次のような報告もしてきました。「商談部屋Aの先方担当者の発言テンションが、過去3週分の対話と比較して、わずかにシリアスに傾いている可能性があります。明朝の返答時に、温度感を一段慎重にする調整を推奨します」。

 「AIアシスタントが温度感を読む」。これは、TANRENで2026年5月に現場運用が始まったばかりの新しい使い方です。AIアシスタントは、稼働しているAIエージェント基盤の特性上、テキスト解析の精度が高く、過去の対話履歴と比較した「テンションの揺らぎ」を検出するのが得意です。喜田はこの検出結果を参考にして顧客対応の温度を調整します。完全に自動で返信を生成するわけではなく、あくまで人間が温度を判断するための「下処理」としてAIアシスタントが動いています。

 「AIに顧客対応の最終判断は任せない」ということは既に述べましたが、これはTANRENがAIエージェントに業務を任せる際の線引きの一つです。そうではあるものの、「AIに顧客の温度感を検出させる」ところまではやらせています。

 線は日々、現場で引かれていきます。そして、この線が引けるのは、人を雇って部下を育てた経験のある人ほどうまいというのが筆者の実感です。どこまでを部下に任せ、どこから自分が握るか。中小企業の社長が、社員に対して日々している判断と、まったく同じだからです。AIエージェントを「部下」と捉えると、これまで人を雇って磨いてきた感覚が生きてきます。

(写真:Alexander Limbach/stock.adobe.com)
(写真:Alexander Limbach/stock.adobe.com)
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(書籍『小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法』を基に再構成)

[日経クロステック 2026年9月11日付の記事を転載]

少数の社員がAIエージェントを駆使して事業拡大――。小さな会社の社長が説くAI活用実践書。筆者が「1人ユニコーン」的な企業の姿を作り上げる場面に始まり、AIエージェントを人間の同僚、すなわち「AI社員」として遇するためにやっていること、さらに営業・プレゼンの達人である筆者がこれまでの経験をいかにAIに教え込ませるかなど、AIエージェントの使いこなし方を解説する。

佐藤勝彦(著)/日経BP/2200円(税込み)