「AI(人工知能)活用」とは、AIに何か質問をして答えを返してもらうことだけではありません。自律的にAIに働かせて業務を効率化することが企業にとってのAI活用の本丸です。筆者が経営するTANRENという小さなIT企業がいかにAIエージェントを使って業務を進めているかを、書籍『 小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法 AIエージェントに10人分の仕事をさせる現場のリアル 』(日経BP)にまとめました。本特集では書籍から抜粋し、TANRENにおいて貴重な戦力であり、私の部下である「AI社員」が働く典型的な1日の流れを説明します。その第4回。
夕方のAIエージェント
午後6時に筆者は夕方の業務が一段落したところで、Discord上のAIリサーチャーの部屋を開きます。そこには、AIリサーチャーが今日の最終ニュース配信のプレビューを準備しています。朝5時の口コミトップ50に基づく速報は、午前9時に顧客部屋に投稿済みです。それとは別に、午後6時に「夕方の振り返り配信」をしています。今日のAI業界全体の動きを、より深く分析した記事スライド3本で構成しています。このニュースも「AIリサーチャーの部屋 → 筆者の承認 → 顧客部屋転送」という2段階のフローを通ります。
さらに午後6時にはAI秘書から次のような報告があります。
「勝彦さん、夕方の振り返り配信、AIリサーチャーの部屋にプレビュー3本投下完了しています」
「結論から申し上げますと――3本ともブランドルール準拠、ファクトチェック済、独自要素3つ以上を含む状態です。承認のみお待ちしています」
そして生成されたスライドについて説明があります。
「>Slide 1:「Llama 4のオープンソース化が示すこと」(Top 3を深掘り、1200字)」
「>Slide 2:「Anthropic長文記憶機能の業務影響」(Top 1を深掘り、1400字)」
「>Slide 3:「GPT-5.5夜間バッチ安定の含意」(Top 2を深掘り、1000字)」
といった具合です。
そして「勝彦さん要チェック」として「配信は19:00予定です。夕方の帰宅時間に合わせています」「転送先は本日も『勝さんのAIニュース』の顧客部屋。AIリサーチャーの部屋からのコピー転送ロジック、変更ありません」と報告を受けたところで、筆者は「3本ともOK。承認する。19:00配信スケジュールで進めて」と指示を出します。
筆者が誤りを疑った件はチェックを徹底させる
ただし、Slide 2の「Anthropic長文記憶機能」については、先週似たような発表が流れて誤りだったケースがあったため、ファクトチェックを念のためもう一度するように指示を出しました。AI秘書は「承知しました」と答えるとともに、やるべきことを説明します。
「>Slide 2、追加ファクトチェック実施します。Anthropic公式発表(4/30 09:00 PST)と業界ニュースサイト3社でクロスチェック中」「>確認完了次第、本承認に進めます」。そして補足として「確認結果は18:30までにプッシュします。問題があれば差し戻し、なければ19:00配信を予定通り発火します」。こうしたやりとりが続きます。
この後、AI秘書はSlide 2のファクトチェックに集中します。Anthropicの公式発表のURL、発表時刻、機能の名称、料金、利用条件……。これらを公式発表および三つのニュースサイトで突合し、すべて一致していることをAI秘書が確認します。この日は午後6時25分にAI秘書から確認完了の報告があり、続けて筆者に対して配信の本承認をするよう通知。筆者は「OK、19:00配信進めて」と返信し、そして午後7時、ニューススライド3本が「勝さんのAIニュース」の顧客部屋に転送されます。
朝のニュース投稿と同様、午後7時の投稿もAIエージェントに直接投稿することはさせていません。理由は既に書きましたが、AIが生成したコンテンツに、誤りが混入する可能性はゼロではありません。8割は正しく出ても、残り2割にファクトの誤認、誤字、ブランドポリシーの逸脱、参考元のコピー、トーンの不適合といった問題が混じることがあります。
その2割が顧客の目に触れてしまうとその瞬間、信用は崩れてしまいます。「AIが生成しました」は言い訳にはなりません。顧客から見れば、TANRENが配信したものであり、AIの責任ではなくTANRENの責任の下、配信しているものです。2段階の確認は毎日繰り返しています。
夜は翌日のための「仕込み」
筆者は午後11時に書斎のデスクに戻ります。夕方から夜にかけては家族との時間、または企画の打ち合わせに充てています。午後11時からもう一度デスクに戻り、1日の業務をまとめる作業に入ります。AI秘書も午後11時から日記の整理に入ります。AI秘書がその日の筆者の判断、やりとりの違和感、翌日に持ち越す論点などを整理します。
TANRENでは日記と言っていますが、AIエージェントにとっての日報です。ただ単なる日報ではなく、翌日AIエージェントが作業をする上でのコンテキスト(文脈)にもなります。AIに渡す素材を筆者が就寝する前に仕込む作業です。筆者が調理師時代に経験した厨房の仕込みと同じです。
その会社がこれまで積み上げてきた判断や癖や記憶を、毎晩、翌朝のために仕込んでおくということです。昨日までの自分が、明日の自分を助ける。25年やってきた会社なら、25年分の蓄積が、そっくりそのまま明日の燃料になります。
何も持っていないところから始まるのではなく、これまでの経験は無駄になりません。日記整理という地味な夜の作業は、その積み上げを毎晩一段ずつ高くしている取り組みであり、AIエージェントに仕事を任せる上では欠かせない作業です。
「勝彦さん、本日の日記整理が完了しました」。Discordの秘書との部屋にAI秘書から筆者あての投稿が入ります。「結論から申し上げますと――本日の主要判断は12件、違和感を残した論点は2件、明日に持ち越す論点は3件です」。
そしてAI秘書はもう少し詳しく報告を続けます。
「>主要判断12件:顧客部屋A対応方針、News配信3本承認、Chatwork商談部屋A~Cの優先度判定、A社原稿の構成確認、サブスク復帰判断レビュー、ほか」
「>違和感を残した論点:①Chatwork商談部屋Aの先方テンション変化、②Slide 2のファクトチェックで類似発表との混同リスク」
「>明日持ち越し:①商談部屋Aの返答下書き、②5月のサブスク明細確認」
筆者の要チェック項目として、「①の商談部屋A、明朝08:00ブリーフィングで最優先扱いにします」と続きます。最後にAI秘書は「それでは、おやすみなさい。Mac miniの中で、私は引き続き稼働しています」との通知を残し、それを確認して筆者はデスクから離れます。
AI秘書はこの後も「寝ない」状態です。朝5時のcron起動までは待機状態にありますが、待機といっても完全に停止しているわけではありません。深夜に業界ニュースを定期的に取得し、AIリサーチャーの起動準備を整え、Chatworkの未読を巡回し、各種ログを整理しています。「寝ない」。それが、AIエージェントです。
(書籍『小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年9月14日付の記事を転載]
佐藤勝彦(著)/日経BP/2200円(税込み)


