韓国で「泣けるビジネス書」として話題になった『 会社のためではなく、自分のために働く、ということ(日経ビジネス人文庫) 』(チェ・イナ著、中川里沙訳)。人生100年時代、長く働かなければならない私たちが大事にしたい考え方とは。本文抜粋の第2回。

うまくやれば長続きし、長く続ければうまくいく

 ブランディングに関する数ある定義のうち、私は「ブランディングとは、時間とともに価値を蓄積する作業」という定義が好きだ。

 棒グラフを思い浮かべてほしい。横軸を時間、縦軸を価値としたとき、右肩上がりのグラフを描くようにするのがブランディングの作業だ。すぐに実を結ぶのは難しく、短期的に見ると結果が出ないかもしれないが、少しずつ価値を蓄積し、最終的に大きな価値をつくりあげるのがブランディングなのである。つまりブランディングは、蓄積の力を前提としている。

 だからどんな仕事であろうと、お金を稼ぐために1~2年がむしゃらに働いて辞めようという人は、ブランディングに興味をもつ必要がない。ブランドをつくり、認められるのは長期的な作業だからだ。

 自分を一つのブランドに仕立てることは、時代的な変化を鑑みても悪くない戦略になるだろう。いわゆる「人生100年時代」は、私たちがどの時代より長生きし、それだけ働く時間が長くなったことを示唆しているのだから。

人生100年時代は長く働くことを前提に、長期的にとらえて自分にとってよい選択とは何かを考える(写真:shironagasukujira/stock.adobe.com)
人生100年時代は長く働くことを前提に、長期的にとらえて自分にとってよい選択とは何かを考える(写真:shironagasukujira/stock.adobe.com)
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パワーブランドになりたかった

 あなたは、カフェと聞いて真っ先にどのブランドを思い浮かべるだろう? スターバックスではないだろうか? では、スポーツブランドは? ナイキの可能性が高いだろう。

 いま、あなたが思い浮かべた代表的なブランドは「パワーブランド」に該当する。つまり、ある分野の強力なブランドとして顧客が求め、愛し、価値を認めるブランド。パワーブランドには「第一想起率が1位」という共通点がある。第一想起率というのは、顧客が真っ先に思い浮かべるブランドの比重だ。

 広告業界で働きはじめて10年を過ぎたころ、私は自分こそが一つのブランドだと自覚し、広告業界のパワーブランドになるために努力した。人々が「コピーライター」と聞いて真っ先に私の名前を思い浮かべるような、そんなブランドになりたかった。当然、いいコピーを書き、いいアイデアを出し、いい広告をつくり続けてようやく到達できる目標だった。

 私はその目標を達成できただろうか? 結果に関係なく、そのような考え方や目標が私を支えたのは明らかだ。何をして、何をしないのか、あるいは何を優先すべきかの基準がはっきりした。

 パワーブランドになるという決心は、私の北極星になった。昔の人は、北極星を頼りに航海に出たという。とくに日が暮れた漆黒の夜、北極星は羅針盤のような役割を果たした。私も疲れたり、スランプに陥ったりしてすべてを投げ出したくなったときや、道を見失ったとき、目標という名の北極星を見つめながら進むべき道を探した。

 人生100年時代、働く期間が長くなると考えるだけで心が落ち着かない人もいるかもしれない。でも、長いあいだ働くことについて別の面も考慮する必要がある。つまり、働く時間が増える現実に備えなくてはならないのだ。

 いままであらゆる経験をし、さまざまな人を見てきた私は次のように結論づけた。うまくやれば長く続けられる! 環境や条件の変化によって働く期間は長くなるが、誰もが長く働けるわけではない。仕事とはすなわち機会だ。その仕事で使われるだけの理由が自分にあるとき、機会を手に入れられるのだ。

自分がどうなりたいのかという基準を持つことが、スランプのときの支えとなる(写真:siro46/stock.adobe.com)
自分がどうなりたいのかという基準を持つことが、スランプのときの支えとなる(写真:siro46/stock.adobe.com)
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長いあいだ現役で活躍した人々

 野球好きの読者のために、一つクイズを出そうと思う。イ・ジョンボム、ヤン・ジュニョク、イ・スンヨプ。三人の野球選手が持つ二つの共通点はなんだろう? まず、「韓国のプロ野球界をけん引したスター選手」であるという点だ。

 もう一つはなんだろうか。それは「長年、現役で活躍した選手」という点だ。イ・ジョンボム選手は1993年から2012年まで、ヤン・ジュニョク選手は1993年から2010年まで、イ・スンヨプ選手は1995年から2017年まで、所属チームのエースとして選手生活を続けた。

 日々、真剣勝負が行われる戦場で、成績が振るわずチームの役に立たなかったとしたら、これほど長いあいだ選手生活を続けられただろうか? また、彼らは常に順風満帆だっただろうか? そうではない。どの選手もスランプに見舞われ、苦戦する時期があった。

 一つ例を挙げよう。韓国の野球代表チームは、2008年の北京オリンピックで金メダルを獲得した。しかし、イ・スンヨプ選手は予選7試合での打率が1割台と不振にあえぐ。続く日本との準決勝戦でも、相次ぐゲッツーと三振によって役目を果たせないでいた。テレビで試合を見ていた国民の多くが、歯がゆい思いをしていた。

 そうして迎えた8回裏。両チームのスコアは2対2の同点。ここでイ・スンヨプ選手の打順が回ってきた。そして彼はやってのけた。スタンドの壁を大きく越える2ランホームランを放ったのだ。チームを決勝戦に導く、決定的なホームラン。イ・スンヨプ選手はキューバとの決勝戦でも2ランホームランを決め、3対2での勝利に貢献した。

 その後、イ・スンヨプ選手は次のように述べている。

打席のほうに歩いているとき、観客席から「イ・スンヨプを外せ」という声が聞こえてきました。(中略)でもホームランを打ってから、あらゆる苦痛と不安が洗い流したように消えました。あのホームランは、僕がその後も野球人生を続ける原動力になりました。(中略)「イ・スンヨプを外せ」という言葉に対して、うらみを晴らしたとも言えますね。実際、その言葉を聞いたとき、心のなかでは「その言葉、後悔させてやる」と思ってましたから。

―『中央日報』「『イ・スンヨプを外せ』……いまだに忘れられない一言」より


 このように、スタープレイヤーだからといって常に順風満帆なわけではない。スポーツ選手に限らず各分野を代表する人たちも同じだろう。大切なのは、彼らがさまざまな困難のなかでも自分の仕事を「長く続けた」こと。その結果、誰もが目を見張るすばらしいパフォーマンスを出したのだ。

 野球の話をしたついでに、本を紹介しようと思う。野球ファンで心理学者のキム・スアン教授が書いた『レジェンドはスランプからつくられる(레전드는 슬럼프로 만들어진다)』だ。「レジェンドはどうやって逆境を克服するのか」という副題が付いているように、韓国プロ野球界のレジェンドたちが、どのようにして一流の選手になったのかに迫る。

 働く人、とくにいまの仕事で輝き、長く続けたいと思っている人なら、野球好きでなくても一読する価値がある。韓国球界のレジェンドである「ハルク」こと、イ・マンス選手は次のような推薦文を書いている。

人々はレジェンドたちのことを「一流の選手」として記憶にとどめるが、私は「死力を尽くして健闘した選手」として記憶にとどめてほしいと願ってきた。レジェンドは生まれるものではなく、つくられるものだ。スランプのなかで、じつに凄絶に、そしてたゆまずつくられるのだ。

自分だけの北極星を心のなかに

 彼らは長い目で見たときに自分の価値を高めるかどうかを基準にし、行動するからだ。私自身、難しいプロジェクトにも臆せず挑戦できたのは、成功しようと失敗しようと、それが自分の学びや成長につながると信じていたからだ。

 長期戦には自分だけの北極星が欠かせない。自分をブランドとして見つめる目をもつのは、道に迷ったときに進むべき道を示してくれる北極星をもつことだ。あなたも自分だけの北極星を心に灯そう。

韓国の大手広告代理店を辞めた著者は、働く人の悩みに寄り添った〈チェ・イナ〉本屋を始める。やがて、その言葉、選書が評判に――。他人の基準や考え方にあわせるのではなく、自分の意思や希望に沿って働くにはどうすればいいのか。働く時間と自分の時間、同僚、上司との関係、転職など、仕事の悩み、もやもやが、読み進めるうちに晴れていく。

チェ・イナ著、中川里沙訳、日本経済新聞出版、1210円(税込み)