英語力を測る物差しは「何点取れるか」から「何ができるか」に大きく変わる――。そんな時代を先取りし、“今、英語を学ぶ意味”と“AIを使ってAIを超える英語学習法”を解説した『 自分が言いたいことを、英語でもちょっといい感じに伝えられる人がやっていること AIに自分に合った英語の学び方を作らせる技術 』(斎藤広達、石塚浩之著/日経BP)から内容の一部を抜粋してお届けする。第2回は、語彙習得への苦手意識を払拭するための考え方。

「容量の決まった袋」のイメージを捨てる

 「単語は知っているのに、とっさに出てこない」

 そんな悩みを抱えている人は少なくありません。それは記憶力の問題ではありません。知識として「わかる」状態と、「使える」状態の間には、埋めるべきギャップがあるのです。

 語彙や文法は、頭の中に入っているだけでは役に立ちません。相手の言葉に反応するまでの0.1秒の間に、自動的に引き出せるようになって初めて、コミュニケーションの手段になります。

 英語の形を整えるための最初のステップは、最低限必要な語彙を獲得することです。それはわかっていても、多くの人が語彙習得に苦手意識を持っています。そして、頭の中に容量の決まった袋があり、いっぱいになるとそれ以上は入らなくなるようなイメージを持つ人が少なくありません。まずはそのイメージを捨てましょう。

(写真:かめです/stock.adobe.com)
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 言語の学習に関しては、ある程度以上の語彙を獲得すると、頭の中に語彙のネットワークが構築されます。そして、新たな語彙は、そのネットワークに登録することが可能となります。

 それもそのはず、ある言語の語彙は、決してバラバラの知識の寄せ集めではないのです。語彙と語彙は様々な関係で結びついています。例えば、1つの単語を学ぶと、いろいろな派生語に拡張することができます。

 実際にact, active, action, actor, actress, actualなど、1つの語は、様々な品詞に形を変えます。また、possibleとimpossible、includeとexcludeなどのように接頭辞、接尾辞などで意味を調整し、別の語に拡張する場合もあります。これらは、その言語固有の体系における結びつきです。

場面・状況・行為の構造ごと記憶する

 一方、言語的知識より世の中に関する知識で結びつけられる関係もあります。例えば、「料理する」という動詞を知っている人が「炒める」「煮込む」「蒸す」といった語を新たに学ぶ場合を考えてみましょう。

 「料理する」という語はすでに〈調理〉についてのネットワークを頭の中に呼び起こしています。言語学ではこれをフレームと言います。このフレームには、「調理者」「食材」「調理器具」「熱源」「完成品」といったフレーム要素がすでに構造化されて存在しています。

 新しく学ぶ「炒める」「煮込む」「蒸す」は、まったく白紙の状態から登録されるのではなく、この既存の〈調理〉フレームのネットワーク上に、いわば同じ棚の隣の引き出しとして収まるのです。「豆を炒る」とは言っても「豆を炒める」とは言わず、「ご飯を炊く」とは言っても「ご飯を煮る」とは言わない、というような例は、言語知識と世の中の知識の両方が関わった例と言えるでしょう。

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 語が様々なネットワークの値として位置づけられることは、語彙習得の効率という観点から非常に重要な意味を持ちます。ネットワークが充実していればいるほど、新語はどこかのフレームに引っかかる可能性が高くなり、定着しやすくなるのです。逆に言えば、学習の初期段階では語彙同士をつなぐフレームそのものが少ないため、個々の語が孤立した状態で記憶されやすく、忘れやすい。これが「ある程度以上の語彙を獲得すると、学習が加速する」という現象の認知的な説明になります。

 さらに、フレームネットの視点は、単に語と語の結びつきにとどまらず、場面・状況・行為の構造ごと記憶するということも示唆しています。

 例えば、「炒める」を覚えるとき、人はその語を単体で覚えているのではなく、「誰かが、何らかの食材を、フライパンなどの道具を使って、強火で手早く加熱する」という場面を構造ごと獲得しているのです。語彙とは、こうした場面に関する知識を反映しているとも言えるでしょう。

AIの翻訳機能などを使えば、誰でも英語でコミュニケーションができる時代に、なぜ自ら英語を学ぶ必要があるのか。「日々、英語を使って仕事をこなす」外資系ITコンサルタントと、「言葉と思考の関係を探究する」通訳研究者が、それぞれの立場からその疑問に答え、「AIを“外部脳”として使い切る」最先端の英語学習法を伝授します。英語との向き合い方が、がらりと変わるきっかけにもなる1冊です。

斎藤広達、石塚浩之(著)/日経BP/1760円(税込み)