それらしい提案書も売り文句もAIが1秒で量産する今、マーケティングの勝ち筋が大きく変わった。有効なのは、従来の「問題解決」型ではなく、「違い」から始める新時代のメッセージモデルだ。この型を使えば、膨大な選択肢の中で比較されることなく、ひときわ頭抜けた唯一の存在になれる。具体的には……。トップマーケター・神田昌典さんの新刊『存在起点のマーケティング』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

言葉には、人を動かす順番がある

 「本日は、おめでとうございます。新郎とは学生時代からのつき合いです。忘れられない出来事がひとつあります。どうか、おふたりらしい未来を築いてください」
 こういう言葉を聞くと、私たちはすぐにわかる。
 ああ、披露宴の祝辞だな、と。
 なぜわかるのか。それは、型があるからである。
 祝福を伝える。関係を示す。情景を置く。未来を願う。
 その順番があるから、言葉が届く。話す側も、聞く側も迷わない。場の空気まで動き出す。

 ここで見てほしいのは、うまい言い回しではない。
 順番だ。

 何を、どの順で置くと、場に集った人たちの心に温かい感情が立ち上がるのか。どの順で言えば、新郎新婦との心理的な距離が縮まり、その後も関係が育っていくのか。
 そうした言葉の並べ方の型を、ここでは「メッセージモデル」と呼ぶ。

 これは、結婚式だけの話ではない。ビジネスでも、まったく同じである。
 顧客と出会う。協力者とつながる。
 取引先との関係を深める。
 社員が、この会社が掲げる旗のもとで働きたいと思う。
 そんなことが起きるときにも、やはり言葉には型がある。

 では次に必要なのは何か。その旗には、何を書くのか。
 どんな言葉を、どんな順番でつないでいけば、自分の価値を必要とする人に届くのか。
 どうすれば、その人たちと出会い、継続的な信頼関係が育っていく土台をつくれるのか。

 その答えが、AI時代に最適化されたメッセージモデル、D-BE UNICK(ディービー・ユニーク)である。

D: Distinction(違い)何が決定的に違うのか
B: Benefit(ベネフィット)それで、何が変わるのか
E:Evidence(信じられる根拠)本当に、そう変われるのか
U:Urgency(緊急性)なぜこれまで、知られていなかったのか。なぜ今、それが必要なのか
N:Nameless Enemy(名もなき敵)何が邪魔してきたのか
I:Innovation(革新的アプローチ)顧客は、どこで「自分も変われそうだ」と感じるのか
C:Case Study(事例/実習)自分でやるには、どうするか
K:Kickstart(最初の一歩)無理なく始めるには、どうするか

 この型を使うと、膨大な選択肢の中で埋もれず、ひときわ頭抜けた存在になれる。
 提案は比較される説明ではなく、記憶に残る宣言へ変わる。そして、一度きりの取引で終わらず、信頼と共創へ育っていく。

お客は「判断疲れ」を起こしている

 D-BE UNICKは、順番を変える。
 最初に置くのは、問題ではない。違いであり、ベネフィットであり、証拠である。
 まず相手の頭の中に、「この会社、この人と組めば、こう変わる」という像を立ち上げる。
 それを、問題を掘り下げるより先にやる。
 なぜか。

 今の時代、問題はもう見えすぎているからだ。
 何に困っているのか。どこが苦しいのか。そのくらいは、本人が一番よく知っている。
 知りたいのは、その先である。
 この状態は、本当に変えられるのか。一時しのぎではなく、根本から変わるのか。その道筋は、ちゃんとあるのか。
 ところが、選択肢が多すぎる。
 人は判断する前に疲れ、最後は「何もしない」という選択に戻っていく。
 だからD-BE UNICKでは、最初に問題を置かない。
 先に掲げるのは、変化のイメージである。

 まず違いを立てる。まず変化を見せる。まず、その未来が見えるようにする。
 問題起点ではなく、存在起点。それが、D-BE UNICKだ。

最初の一行で、提案の運命は決まる

 なかでもとくに重要なのが、Dである。
 「D: Distinction(違い)何が決定的に違うのか」。このDで九割決まる。そう言っても、大げさではない。

 なぜか。
 提案が比較で終わるか。それとも、「これは違う」と相手を前のめりにさせるか。その分かれ目は、たいてい最初の一行にあるからだ。
 ここを、ぜひ盗んでほしい。
 決め手は、中身の量ではない。論点の多さでもない。
 最初の一行で、何を見せるかである。

 たとえば、次のサンプル事例を比べてほしい。研修の案内文の冒頭だ。

●サンプル1:「問題」から始める従来型マーケティング
最近、企画提案が通りにくくなっていませんか。
●サンプル2:「違い」から始める新型マーケティング
AI時代に量産される“それっぽい企画”を、
上司や顧客が「進めたくなる提案」へ変える。

 新型マーケティングの一文が強いのは、内容を説明しているからではない。
 先に、変わったあとの景色を見せているからだ。
 企画が通る。会議が前に進む。比較で止まらない。
 その未来が、読む側の頭の中に一瞬で立ち上がる。

 だから、「どんな研修なのか」を理解する前に、「それは欲しい」が先に来る。
 ここが、決め手である。
 もしここが、「企画提案力を高める研修です」「AIを活用して資料を整える研修です」という説明だったら、どうなるか。

 内容は正しくても、景色が見えない。景色が見えなければ、比較される。
 比較されれば、最後は「他と何が違うのか」に戻される。
 だが、この一文は違う。
 「研修とは何か」を語る前に、この提案と組んだら、現実がどう動くのかを先に見せている。
 だから、単なる説明で終わらない。提案の入り口そのものが、すでに前進を始めているのである。

 ここが立たなければ、そのあとに何を足しても、提案は比較表の一項目に落ちる。
 逆に言えば、ここが立った瞬間、提案全体の運命は変わる。
 だから、Dで九割決まるのである。

判断軸そのものを変える

 ここで多くの人が、一度道を間違える。
 Dとは、他社との違いを整理することだ、と思ってしまうのだ。
 もちろん、それも大事である。他より優れている点を見つけ、違いを言葉にし、強みを整理する。だが、Dの本質はそこではない。

 他より少し優れている点を並べても、相手の頭の中で起きている比較は何も変わらないからだ。
 品質がいい。対応が速い。サポートが手厚い。どれも大事である。
 だが今は、それだけでは埋もれる。相手の頭の中には、すでに他に二社、三社、似た提案が並んでいる。

 その中で少し良く見せても、最後はこうなる。
 「なるほど、どこも悪くはないですね。では、もう少し安くなりませんか」
 これでは一件ずつは取れても、じわじわ削られる。消耗戦である。

 だから重要なのは、同じ比較表の上で一位を取ることではない。
 相手が何をもって選ぶか、その基準そのものを変えることだ。

 先のサンプル事例の案内文も、まさにそこを変えている。
 もし、よくある差別化の発想だけで書くなら、「企画提案の精度を上げる研修です」「AIを活用して企画書を整える研修です」で終わるだろう。
 だが、あの案内文は違う。
 企画書をきれいに整えることではない。会議を「比較」から「どう進めるか」へ変える。
 ここで変えているのは、研修の特徴ではない。
 判断軸である。

 つまり、「企画書として上手かどうか」ではなく、「意思決定を前に進めるかどうか」で見てもらうようにしている。これが「D=決定的な違い」なのだ。

披露宴もマーケティングもカギは言葉の順番。(写真:buritora/stock.adobe.com)
披露宴もマーケティングもカギは言葉の順番。(写真:buritora/stock.adobe.com)
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神田昌典著/日本経済新聞出版/2420円(税込み)