大手企業から中小企業まで、いま企業倫理が厳しく問われています。多様な倫理的な課題を、組織が誠実に判断する方法をまとめたのが『組織は倫理をないがしろにする 戦略的に「誠実性」をデザインする』(ロバート・チェスナット著、並木将仁監訳、松山宗彦訳、日経BP)。今回は「『あの人はなぜ例外?』を作らない 違反からルールを見直す」をテーマに、本書から一部を抜粋し、お届けします。

例外社員の危険性

 誠実性についての難しい問題として、倫理規則違反に対処する上で、会社の優先事項がどれかで摩擦が起きるような例をひとつ取りあげることにしよう。
 このようなケースではその企業が誠実性というものにどれほど真剣に取り組んでいるかがテストされる。そして我々はテストに不合格となった企業を数多く目撃してきているのだ。

 私は、「どんな企業であっても、倫理規則の中に但(ただ)し書きのようなものをつけて、一番価値のある従業員については順守を強要しないことがあってはならない」と考えている。この考え方は、価値観を定める段階においてもすでに、きちんと織り込まれていなくてはならないし、実際のルールを書く時とルール違反が起きた時への反応、どちらにもこの考え方が適用される。
 また私は「ゴールデン」従業員症候群についても指摘したい。
 上級リーダーのお気に入りでルール違反に対する批判からかばわれたり、処罰からも守られたりする従業員のことだ。企業にとって最高に難しい誠実性のジレンマは、そういう人物が自分の立場を、他の従業員が見ているような状況で利用してきた場合に起きる。
 要するに彼らは大胆にも、マネージャーや他のリーダーが自分の倫理規則違反となる行為から目を背けて、無視してくれると思っているのだ。
 この点について、スリフティと名付けた仮想の会社を例にして考えていこう。

ルール順守か営業利益か 会社の優先事項は?

 この会社がまだ設立して間もない、いつつぶれてもおかしくない企業だったころ、ここではCEOを含む全員が、国内の出張ではエコノミークラスにすることでコスト削減に励んでいた。
 それから10年が経ち、スリフティは今や従業員2000人を越えるグローバル企業となった。
 その従業員のひとりがセールスの幹部であるジェーンだ。彼女は社内のセールス担当の誰よりも売り上げをあげている。彼女は常に国内外を飛び回っては、空港から営業プレゼンテーションへと直行しては、すぐに空港へと戻るというのを繰り返している。
 ジェーンには一度に複数の都市を回るような出張があって、時には国内と国外への訪問を一度に行ったりする。彼女には寝る時間があったらどこでもうまく寝られるという特技があって、飛行機から降りてすぐのミーティングにも、休息十分で向かえている。

 ところで彼女は身長5フィート11インチ(約180㎝)である。そんな彼女にはエコノミークラスの座席は苦痛でしかない。
 そこでこの仕事を始めて何年かたったころから、彼女はルールを無視するようになった。
 自分だけは会社の経費でビジネスクラスの席を取り、彼女のマネージャーはそれを無視するようになったのだ。何といっても、ジェーンは社内のスーパースターなのだ。
 だがこれにある別の営業担当者からクレームが入った。
 マネージャーはジェーンを呼んでこう告げた。
 「ジェーン、残念ながらもういままでのようには行かないようだ。これまでは見過ごしてきたけど、正式に苦情が入ったよ。君にはエコノミーに戻るか、自分で差額を出してビジネスを使ってもらうしかないな」

 ジェーンにはボスがこんないざこざを持ち掛けてきたことが信じられなかった。

 「他社さんはセールスチームにビジネスクラスの利用を認めていますよね。どうやら私もそっちに加わったほうがいいのかしら」

 ジェーンのマネージャーにとって頭から除外できなかったのは、CEOがメディアやウォールストリートに向けて、「スリフティではいまでもビジネストリップにエコノミーを使い続けている」と発信している点だった。
 そのため、ジェーンの行動は、会社のブランドを傷つけてしまっている。彼としては、この問題を表ざたにしなくてはならない。無視するわけにはいかないのだ。
 理屈で言えば、筋を通してジェーンにはエコノミーを使うよう言い聞かせるのが王道であろう。だがそれが死守すべきラインだとも思えない。
 信じていただきたいが、上背のある人間にとって、エコノミーの座席で寝ようとするのは、寝心地などというレベルの問題ではない。まさに苦痛なのだ。また何千ドルかの出張費用のためにスター営業部員を失って、代わりに守れるのがメディアに向けた過去のエピソードでしかないとしたら、それは会社全体にとっての損失なのである。

 だがその一方で、もしこのルール違反に対して何の処分も行われなかったとしたら、ジェーンは自分の都合でいつでもルールを無視しだすかもしれない。
 そして他の従業員たちも同じことをしだすだろう。

現状に合わないルールを見直す

 私の見るところ、この営業部員は会社にとって価値ある資産だし、彼女のリクエストは理不尽とはいえない。
 だから私の考えとしては、ここは会社が柔軟性を発揮して方向転換を図るべきだと思う。
 つまりこのルールを規則全体から削除してマネージャーに座席のアップグレードを認める裁量権を与える。あるいは、創造力を発揮してこうしたアップグレードが営業部員にとっての報酬となるようなルールに作り替えるのである。
 それは多分、ある目標を達成した従業員だけがビジネスクラスを利用できるという報奨にするというような感じになるだろう。
 それであれば、ジェーンが享受している出張特権は、自社の誠実性に背いた例外ではなく、他の者にとっても誘因となるような報奨へと変わるのである。そしてその圏外にいたような営業部員たちがそこに入るべく売り上げを伸ばして来たら、コスト増加分への支払いよりも生産性を上げることになるのだ。
 CEOはエコノミー出張の話を取り下げるのに気が進まないかもしれないが、それでもスター営業部員を失うよりもマシだと思ってくれるであろう。

 かつての状況においては正しかったルールが、そのような時期が終わってからも生き残ってしまうことはあり得る。
 だからその部分に変更を加えても誠実性を失うことにはならない。
 最終的には、この包括的ルールは会社としてのゴールを推し進める役には立たなくなっているのである。だから会社としては、見てみぬふりをするのではなく、そのことを認めて考え直す必要があるのだ。

(写真:takasu/stock.adobe.com)
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「常識で考えて、それは絶対ダメでしょう」ということが、なぜ組織だと起こってしまうのか。「『社内の理不尽』は必ずたまる」「正しい決断をしないリーダーに従業員はがっかりする」「望まない顧客には立ち向かう」など、「誠実性」を戦略的にデザインすることなしには、これからの組織は生き残れない。

ロバート・チェスナット著、並木将仁監訳、松山宗彦訳/日経BP/2970円(税込み)