LLMは、「文章の続きを考える」という一点を実現したアルゴリズムです。その単純さにもかかわらず、幅広い業務をスピーディーにこなせて疲れ知らず。加えて知識量も豊富で、思考力も兼ね備えています。LLM戦力化の巧拙が、今後企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。本稿では、新刊『生成AI「戦力化」の教科書』から抜粋・再編集して、LLMの生い立ちと、持てる能力を解説していきます。

LLMは「文章の続きを考える」アルゴリズム

 我々のチャットの向こう側にいるLLMとは一体全体何者なのでしょうか? まずは技術的な詳細を省きつつも、どのような性質があるのかひも解いていきます。

 LLMという技術について人に説明するとき、皆さんはなんと表現していますか? 人間のように考えるAIであったり、会話AIであったりさまざまな表現があるかと思います。私はこの技術のことをいつも「物知りでタフで賢い新入社員」と説明しています。物知り、タフ、賢い、どれも羨ましい性質ですね。これらはLLMの持つ性質から来ているものです。

 24時間365日、あらゆる質問に回答を返し、さらには数学などの問題にも強い、そんな新入社員があなたの会社に来た、と考えてみてください。どんな仕事にも答えてくれますので、メールの執筆や、マーケティングのコピーライティング、リサーチ、どんなタスクに対しても、いつでも対応してくれる、そんな社員がいたらどんなに助かることでしょうか。LLM自体はそうした可能性を秘めた存在だと思っています。

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 一つひとつ説明する前に、LLMというアルゴリズムの性質をお話しさせてください。LLMは現在世界中の天才が寄って集って開発を進めている非常に大規模でさまざまなテクニックの集合として作られているアルゴリズムですが、実現していることは実は非常にシンプルな仕組みです。「文章の続きを考える」というその一点を実現しているのがLLMの仕組みなのです。その単純さにも関わらず、LLMは文章の要約や分類、質問への回答や会話など多様な処理に対応できています。

 これは言語の持つ問題の構造化力から来る性質になります。我々人類は、言語を通じてさまざまな課題を文字で表現する能力を得ました。文書の要約も分類も、すべて言語で表現できます。例えば分類を考えてみましょう。分類においては、

次に与えるメッセージは感情的にネガティブか? ポジティブか?
「筋トレをしたのでとてもさわやかな気持ちになった。」
答え:

 という問題を与えられたときに、ポジティブという言葉が続くものと思います。同じように、「次の文章で筆者が言いたかったことを要約すると?」という形で要約の問題を表現したり、「こんにちは、お元気ですか?」という挨拶に会話を続けたりといった形で問題を文章で正しく表現すれば答えは何となく見えてくるのではないでしょうか。

 世の中にはすでに文章としてこうした問題が表現された文章がたくさんありますし、さらにはWikipediaのような説明的文章なども多数あります。「コーヒーは、コーヒーノキの種子を焙煎(ばいせん)・粉砕し、お湯で抽出して得られる苦味のある飲料であり……」といった形で、さまざまな知識が文章として表現されています。

 LLMはこうした大量の世の中に存在する文書から学び、あらゆる文章に対して続きを考えるという能力を獲得したモデルです。これまでのソフトウェアと違うのは、何となく続きっぽいもの、を表現可能であるという点です。ですので、さまざまな問いかけに対して、それっぽい続きを考えることで答えを導き出しています。

LLMは「物知りでタフで賢い」

 こうして世に現存する大量の文章を学ぶことで、知識的な問いに対しても回答を返すことができるわけです。論文やWikipediaから学べば、あらゆる知識を学べるわけですし、人の会話の記録を学べば自然な会話も実現できます。現在のLLMは、インターネット上のテキストのほとんどを学習できているのではないかというような文章量で学習しています。ですので「非常に物知り」なわけですね。

 さらにはタフです。当然ながらAIですので、コンピューターと電気が用意されていれば動き続けます。ですので、24時間365日ずっと仕事をすることができます。先端のモデルともなると、サイズは公表されていませんが相当大規模なAIになりますので、動作させるのにNVIDIAの最先端のGPUを備えた数千万円のコンピューターの上でフルパワーで実行させる必要があります。非常に高コストではありますが、それが担保できる状況においては常にLLMの力を引き出すことができます。

 そして、そのようなAIの動作環境はOpenAIやMicrosoft、Anthropicといったプレーヤーがすでに競争をしながら整備し続けていますのでいつでも使えます。しかも競争が続いている関係で、年々処理の精度は上がり、一方で処理コストは低下を続けてきました。おおよそ1年でコストは1/10、性能も向上するという状況がこの数年ずっと続いているように思います。

 その上で、LLMはこの1年ほど推論モデルと呼ばれる新しい進化が起きています。これは「賢さ」に関連する進化だと考えてください。推論モデル以前のLLMは、モデルがいかに進化したとしても、例えば数学の問題のような論理的思考力を求める問題解決が難しい状態でした。一度出力してそれで終わりでしたので、仮説を立てて、計算して、それを検証して、また仮説を修正して、といった反復的な処理が苦手だったのです。

 これに対して、OpenAIのo1モデルや以降登場したGPT-5 ThinkingやDeepSeek-R1といった推論モデルは数学的問題に対して、一度の生成だけでなく、その生成結果をもとにアクションし、検証し、という複数の生成を繰り返しながら一つの問題を解くことを可能にしました。もちろん、それまでも、LLMが何度も自身の結果を受け取ってはさらに続きを生成してというステップを踏ませることはできたわけですが、一つの問題に対してぶれることなく話題を継続させることが難しく、脱線して答えにたどり着けないことが多かったのです。これを強化学習というアルゴリズムを通じて、一つの問題をじっくり考え続けられるようチューニングしたものが推論モデルなのです。

 じっくり考える、これを専門的にはInference Scalingと呼びますが、このテクニックの効果は劇的で、執筆現在最新のOpenAIの推論モデルでは、国際数学オリンピックで金メダルをとる水準の成績を残しています。

LLMは仕事が速い

 LLMは仕事も速いです。文章を扱うタスクであれば、そのほとんどは人間よりも素早くこなせるでしょう。例えば人間は本1冊を読むのに、ごく一部の速読の達人を除けば、集中したとしても数時間、時には数日以上かかることでしょう。一方で、LLMに本1冊をもとにして要約を作らせたり、特定の情報を探させた場合、数十秒から数分程度で処理が終わります。しかも疲労というものはありませんから、何度でも同じ本に対してさまざまな角度で情報を取り出すこともできます。処理速度の観点で人間は比べるまでもない、という状況です。

 この1年はいわゆるマルチモーダルモデルも進化しました。大雑把(ざっぱ)に言ってしまえばこれは画像や音声、動画を文字と同列に扱って処理をする仕組みです。コンピューターから見ると、文字も画像も音声も動画も、その他さまざまなデータは0と1のデータの集合です。テキストとして扱うことができます。その性質を生かして、画像等さまざまなデータに対応させる試みが行われ、現在ではさまざまなタスクが解けるようになりました。

 画像や音声、動画が扱えることで、書類の画像を見せて、そこに書かれていることを理解させたり、ロボットが周囲の状況を理解するといったことが可能になりました。文書の中に画像などを埋め込むことで「文章の続き」と同じメタファーで問題を解けるのです。人間と同じように目と耳を持ったと言えます。正直なところ、まだまだ画像や音声などを、完全に人と同じように処理できるというわけではありませんが、それでも多様なタスクを実行できるようになったことは確かです。

 LLMはここまで説明したような知識量、タフネス、賢さすべてを兼ね備えた存在になりつつありますし、今後もその性能に進化が続くものと考えられています。文章として問題を表現したらさまざまな問題を解決できるこの性質を活かすことがLLM活用のコツとなります。

(写真:Mr. Dutz/stock.adobe.com)
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