あなたは普段、メモをどのように活用していますか? メモは、相手の話や重要事項などを覚えておくためだけのものではなく、もっと重要な役割がある、と語るのは、累計29万部の「ベストセラー100冊」シリーズの著者で、自らもプロのライターとして豊富な取材経験を持つ藤吉豊さんと小川真理子さんです。話を聞くときに、メモが相手に及ぼす影響とは? メモを取ることで、聞き方はどう変わるのか? 新刊『 「聞く力のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。 』(日経BP)から、抜粋して解説します。3回目は、メモの意外な効用と活用法です。
メモは覚えておくためだけのものではない
「聞く」ときに、メモを取る人もいれば、「話に集中したいから取らない」という人もいます。しかし、100冊を超える聞き方の本を見ていくと、「メモを取りながら聞くこと」をすすめる本が数多くありました。
作家・ジャーナリストの立花隆さんも、人の話を聞くときには必ずメモを取っていたと語っています。
「聞いていることをメモしています。それは職業的訓練というか、僕は大学を出てすぐ週刊誌の記者になったでしょう。それで人の話を聞くときはすぐにメモをとります。(略)本当はそのときにメモをとって、メモのときにまず要約して、さらにそれをまとめるときに要約して、初めていいものができるわけです」(河合隼雄、立花隆、谷川俊太郎『読む力・聴く力』/岩波書店)
メモというと、「忘れないための記録」と考えられがちです。もちろん、その役割もあります。しかし、聞き方の本では、メモは「相手を安心させる行為、相手を大切に受け止める姿勢を示す行為としても大切」と語られていました。
聞き方の本の多くは、メモを「単なる記録」ではなく、「理解を深めるため、また、相手への敬意を示す聞き方の技術」として扱っていました。
聞き方の本に書かれていた、メモの効果をまとめました。
●集中力や理解力が高まる。
●重要なポイントを整理しやすくなる。
●記憶に残りやすくなる。
●気づきや疑問を言語化できる。
メモで「真剣に聞いていること」を相手に伝える
メモには、話し手の話し方や意識を変える力もあります。
人は、自分の話がきちんと記録されていると、「曖昧な話ではいけない」「きちんと伝えよう」と感じやすくなります。
すると、話の内容を整理したり、より正確に説明しようとしたりと、話し方そのものが変わってくることがあります。
真剣に聞くことはもちろん大切ですが、「真剣に聞いていることが相手に伝わること」も同じくらい重要だと、聞き方の本では語られていました。
たとえば、会議や打ち合わせで、相手がうなずきながら要点をメモしていると、話し手は「きちんと受け止めてもらえている」と感じます。すると、「言い漏れがないように話そう」「内容を正確に伝えよう」という意識が働きやすくなります。
反対に、反応が乏しかったり、聞いているのかどうかわからない態度だったりすると、「本当に伝わっているのだろうか」と不安になり、話しにくさを感じることがあります。
弁護士の谷原誠さんは『図解 するどい「質問力」!』(三笠書房)で次のように語っています。
「相手の話は真剣に聞くことが重要ですが、同時に、真剣に聞いているということが相手に伝わらなければなりません。相手が話している最中は相づちを打ち、共感を示し、場合によってはメモを取る。こうした行動によって、『私は、あなたの話に興味があり、真剣に聞いています。あなたの話は私にとってとても重要です。あなたは重要な人物なのです』というメッセージを伝えます」
脳科学者・AI 研究者の黒川伊保子さんも、次のように述べています。
「若い女性脳は1時間分くらいの会話はほぼすべて覚えておけるので、彼女の言い分は理解したが、私は彼女にメモを取ることを再度要求した。『メモは自分のために取るわけじゃない。話し手を安心させるために取るものなのよ。あなたの話をちゃんと聞いてます、わかってます、忘れません、という意思表示』と」(『夫のトリセツ』/講談社)
聞き方のプロたちは、メモを単なる記録としてではなく、相手が安心して、より正確に話せる場をつくるための聞き方のひとつとして活用しています。
受け身の聞き方から脱却する
メモには、理解や記憶を助ける働きもあります。
人は、聞いただけの内容を、思っている以上に忘れてしまうものです。とりわけ、数字や約束事・指示内容などは、「覚えているつもり」でも抜け落ちやすく、あとから思い違いや行き違いにつながることがあります。「聞く」と「書く」を同時に行うことも大切なのです。
メモを取りながら話を聞くと、ただ受け身で聞くのではなく、主体的に意識を話に向けられる効果もあります。
話を聞きながら手を動かすことで、重要な内容を聞き逃しにくくなり、話への集中力も高まります。
その結果、内容の理解が深まり、話の全体像もつかみやすくなるのです。
また、メモはあとから見返すため「だけ」のものではありません。話を聞きながら感じた疑問や違和感を書き留めることで、自分の考えも整理しやすくなります。
メモを単なる記録ではなく、「理解を深め、記憶を助けるための道具」として活用することも大切です。
「何を残すか」を意識しながらメモを取る
聞き方のプロたちによると、ただ聞いた内容を次々とメモするだけでは、メモの効果は十分に発揮されません。
では、どうすればいいのでしょうか。
大切なのは、「何を残すか」を意識しながらメモを取ること、全部を書こうとしないことです。
すべてを残そうとすると、書くことに意識が向きすぎて、話の流れや相手の表情の変化を見失ってしまうことがあります。
聞き方の本に書かれていたメモを取るときのポイントを以下にまとめました。
●「いつ・誰が・何を・なぜ・どうする」を意識する。
●数字や約束事、固有名詞は必ず残す。
●「あとで確認したいこと」や疑問も書き留める。
たとえば、仕事の打ち合わせなら、「いつまでに」「誰が」「何をするのか」をメモで押さえておくだけでも、話の整理がしやすくなります。
また、質問をするときには、あらかじめ質問項目や仮説をメモしておくと、自分の考えが整理されます。相手にも、「準備をしてきた」「真剣に考えている」という印象が伝わりやすくなります。
100冊には、「重要だと思ったことだけをメモする」習慣をすすめる本もありました。限られたポイントに絞って書くことで、「何が本当に大切なのか」を見極める力も養われます。
メモを取ることに集中しすぎない
多くの聞き方の本には「メモをすることの大切さ」が書かれていましたが、一部の本には、「あえてメモを取らないほうがいい」という意見もありました。
メモに集中しすぎると、相手の表情や声の変化、話すリズムへの注意が薄れてしまうことがあるからです。
とくに、深い悩みや心の内を聞く場面では、書き留めることよりも、目の前の相手に集中することが優先される場合もあります。
大切なのは、メモを取ることと、目の前の相手に集中することを、場面に応じて使い分ける姿勢だといえそうです。
藤吉豊、小川真理子(著)/日経BP/1760円(税込み)

