第1回と第2回で、LLMの持つ長所と短所について見てきました。LLMをうまく戦力化できれば、企業の競争力を高められる強力なパートナーとなり得ます。ではLLMの短所に配慮しつつ、長所をいかんなく発揮してもらうためには、どのように付き合っていけばいいのでしょうか。本稿では、新刊『生成AI「戦力化」の教科書』から抜粋・再編集して、「新入社員」LLM君とうまく付き合うコツについて解説していきます。
新入社員LLM君と付き合うコツ
優秀なものの、処理能力に限界もあるLLMという新入社員をどのように扱えばうまく価値を引き出せるのでしょうか。より踏み込んだ活用については書籍本編に譲りますが、ここまでの性質を踏まえて、すぐに考えられる取り組みをご紹介します。
まずは、以前も書きましたがプロンプトエンジニアリングの基礎の理解です。そこにLLMの性質が多く詰まっています。大まかにまとめてみると、まず明確で詳細な指示を与える癖をつけることでLLMは思った通りの処理をしやすくなります。もしこのプロンプトを新入社員に渡してうまくこなせないだろうなと思った場合は、そのプロンプトを一段詳細にしてみてください。新人に仕事を任せる視点で捉えてみると良いプロンプトになりやすい印象です。
また、要約やなんらかのデータの抽出であれば、過去の事例を提供することも有効です。Few-shot Promptingとも呼ばれますが、元の文書とそこから得られた良いアウトプットを事例としてプロンプトに加えることによって、LLMは例を参考にした良いアウトプットを作ります。事例に限らず、知識を与えることでうまく処理できるだろうということであればそうした知識は意図的に付け加えてください。社内のマニュアルであったり、対象業務で使われる知識(扱う商品であったり、過去の経緯であったり)を補完することで処理の精度は上がるでしょう。
使うモデルの癖を理解することも有効です。直近のLLMの進化は、だんだんとモデルごとの得意領域が見えてくるようになりました。特に論理的推論や難しい意見を書いたりといったタスクではOpenAIのGPT-5 Thinking、プログラミングであればClaude、画像・音声・動画といったデータ処理はGeminiを使ったりという使い分けをしています。モデルごとの癖については、これも年々変わっていきうるものです。自分の使う道具の性質を調べながら、自分なりに癖を理解しておきましょう。
LLMの立ち位置を明確にしておくことも有効でしょう。LLMは誤りを生み出し得る仕組みです。完璧はありえないと考えており、あくまでLLMの出力は下書きである、と考えてみてください。下書きであれば、最後は人がレビューする必要があります。下書きとして業務フローに加えるぶんには相当な効率化につながるケースが多く見られます。メールの下書きも、ていねいに敬語表現に落とし込むといったことはLLMは迅速に行えますし、文書を要約させることも非常に速いです。これらを活用しつつ、あくまで最終成果物は人間が生み出す、というすみ分けをすることで、業務で自然とLLMという新入社員のことを受け止められるでしょう。
ここまで説明してきたように、LLMのプロンプトを扱うのは多少骨が折れます。習熟や知識がある程度必要なツールと見たほうがよく、チャットツールを万人のための解決策と見るのは難しいものと私は考えています。プロンプトだけでなく、業務の整理やその言語化のスキルが求められます。ある種、人のマネジメントの巧拙にも近いようなスキルが必要で、それが得意な人だけで組織ができあがっているわけではありません。この現実を理解しつつ、LLMという優秀な新入社員と付き合う必要があるのです。
うまく使って仕事を変える
とはいえ、うまく使える人にとっては強力な仕事のパートナーになることは事実です。最近ですと、私自身は会議の議事録を自動生成し、傍らで市場やお客様に関するリサーチを走らせながら、さらに自社サービスのプロトタイプ開発を自動で開発させています。さらには常に海外のニュースを集めて要約し、メールやマネジメントの支援もLLMが行っています。さまざまな業務を自動で行ってくれているため、私個人の生産性は以前よりも格段に上がっています。
単純な繰り返し作業や、たくさんのデータを読み解くといったことについて、LLMは人間よりも安く素早く実現してくれる知能です。この効率を活用すれば、より考える業務やお客様と接する時間を増やすことができ、成果も増えていくでしょう。
こうした活用を誰もが行う方法はないのでしょうか。書籍本編では、ここまでの「賢くも限界がある新入社員」であるところのLLMをうまく業務に溶け込ませ、誰もがそのメリットを受け取るための方法について考えていきたいと思います。
松本勇気著/日経BP/2640円(税込み)

