『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)と『古典に学ぶ現代世界』(日経プレミアシリーズ)の刊行を記念し、2025年9月27日、東京・ジュンク堂書店池袋本店で滝田洋一さん(名古屋外国語大学特任教授、日本経済新聞客員編集委員)と豊島晋作さん(テレビ東京報道記者、WBS[ワールドビジネスサテライト]メインキャスター)の対談イベントが行われた。その模様をお伝えする。5回目は会場参加者との質疑応答コーナー。「最近見た映画」「次世代の子どもは何を学ぶべきか」「情報収集の方法」「過去の教訓をどう生かすか」など、さまざまな質問が寄せられた。

最近見た映画は?

テレビ東京 WBS(ワールドビジネスサテライト)メインキャスター 豊島晋作さん(以下、豊島) 今回はみなさんから寄せられた質問に答えたいと思います。まずは「最近、見た映画はありますか」という質問です。

名古屋外国語大学特任教授 滝田洋一さん(以下、滝田) せっかくなら「これはすごいから、見たほうがいい」という映画を挙げましょう。豊島さんは何かありますか?

豊島 クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』です。番組でクリストファー・ノーランさんにインタビューしたのですが、実は事前に「絶対にヒロシマとナガサキに関する質問はしないでくれ」というお達しがあったようです。映画としてはいい作品なんだけれど、そういう縛りは米国の矛盾や苦悩を示していると思いました。

滝田 『古典に学ぶ現代世界』でも少し書きましたが、『オッペンハイマー』は池のほとりでオッペンハイマーとアインシュタインが語り合うシーンから始まります。ああいう映画の始まり方はいいですよね。

対談後半では活発な質疑応答が行われ、大いに盛り上がった
対談後半では活発な質疑応答が行われ、大いに盛り上がった
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 最近見た映画では『国宝』も良かったです。ラストには少し違和感があるけれど、男の友情を描いた点が非常に良かった。

 若い頃のトランプ大統領を題材にした『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』という映画も面白い。彼は20代の頃、不動産業を営む父親が黒人に部屋を貸さなかったため、行政当局に告発されて廃業の危機に陥ります。そこでロイ・コーンという悪名高き辣腕弁護士に相談に行ったところ、「勝つための3つのルール」を伝授されます。1つ目は「アタック、アタック、アタック(攻撃して、攻撃して、攻撃しろ)」。2つ目は「自分の非は絶対に認めない」。3つ目は「何が起こっても勝利を主張しろ」。この映画で描かれた若いトランプが今と重なって見えて面白い。

次世代の子どもたちは何を学ぶべきか?

豊島 2つ目の質問です。「AI(人工知能)の進化が止まりません。次世代の子どもは何を学ぶべきだと思われますか? 6歳児も『ChatGPTに聞いたら?』とすぐ言います」。

滝田 今、私は大学で授業をしており、学生には「複数のAIに同じ質問をして、返ってくる答えを比較しなさい」と言っています。AIを使って勉強することは否定しませんが、返ってくる答えは結構違いがあるからです。

 例を挙げると、今年9月半ば時点で「自民党総裁選の情勢はどうですか?」と聞いたら、X(旧Twitter)のGrokは比較的最近の話が返ってきたけれども、ChatGPTの無料版は「9人の候補が立候補」と2024年の総裁選の情報が返ってきました。このように1つのAIだけに頼ると間違うことが多いので、いくつかを使い分ける必要があります。豊島さんはAIを仕事で使っていますか?

豊島 私はGoogleのNotebookLMを使っています。ChatGPTはまだヘンテコな答えを出す可能性があるので、仕事ではNotebookLMですね。これにPDFの資料、報告書、統計データを読み込ませ、「この情報のみで要約して」「データの分析結果を分かりやすく教えてほしい」「イエスかノーを答えて」といった使い方をしています。膨大な資料を何百ページも読まなくてよくなるし、YouTubeもリンクを貼るだけで「この人はこういうことを言っている」「何回言及したか」も全部答えてくれるので、すごく便利です。

 私も小学校3年生の子どもがいます。AIの時代、今の勉強がどのぐらいの意味を持っているのか、妻とも議論になります。世の中に電卓が登場したとき、使う人は基本的に四則計算を理解した上で使っていました。しかし今後は、AIがどうしてその結論を出したのか、プロセスを人が理解できない状態になっていく可能性はありますね。

 一方でAIには代替できないのは感情や共感性、それとストレス耐性です。滝田さんも新聞記者として、理不尽な上司に耐えるとか、非合理的なるものに直面してきたと思います。人生においては、正しいことをやっているのに全否定されるようなことが往々にして起こりえます。子どもにはそういったときにも負けない耐性を身につけてほしいと思います。

滝田 今回の対談で一番大事な発言だと思います。感情と耐性。感情に任せて議論を始めると、もうとんでもないことになります。本だとしたらここはアンダーラインを引くぐらい大事なこと。全く同意でございます。

情報収集の方法は?

豊島 3つ目は「お二人に情報収集の方法を聞きたいです」。滝田さんはどうやって情報収集をしていますか?

滝田 基本的には「人と会って話を聞く」こと。文字に書いてあるものは「自分なりの解釈」とかなんとか言っても、ロクな解釈にはなりませんから。重要なのは人に意見を求めること、人の話を聞くということに尽きます。

 インターネットで情報を集める場合は、公式発表の1次資料をきちんと読む。1次資料には役立つことがたくさん書いてあるのに、テレビや新聞は報道する時間やスペースが限られているから、一部しか伝えません。自分で関心を持った企業や組織、役所などのホームページを見ることをお勧めします。

豊島 私も人に会うのが基本です。何か読むとなると日本経済新聞。人事、お悔やみ、決算、株価、業績、エッセー、小説…と、日経は世界の新聞の中でもかなり情報量が多いものです。フィナンシャル・タイムズ(FT)は情報量が少ないですが、エッセー系の記事が充実しています。ファクトに解釈を加えているので、読みやすい。ファクトを知りたい、あの会社の業績はどうか、株価は? という場合は日経、ニュースの意味を見いだしたいときはフィナンシャル・タイムズですね。

 それから、さまざまな1次情報を厳選しておくことも重要です。ジョージ・ソロスをもうけさせたという斎藤ジンさんの著書『 世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ 』(文春新書)に、「基本的にヘッジファンドのオーナーはさまざまな情報に当たるよりも、絶対に信用の置けるものをいくつか確保している」と書いてありました。有象無象(うぞうむぞう)の情報を収集していくと玉石混交になるので、選別は不可欠です。

本を読む時間をどうつくる?

豊島 4つ目は「どのように本を読む時間を捻出されていますか? 電子書籍は利用しますか? 紙の本とどう使い分けていますか?」。

滝田 私はあまり目が良くないので、電子書籍はつらいです。紙の本がいいと思います。どうやって時間を捻出するかという質問は、自分が引きつけられる本だけ読んでいればいいんじゃないかと。「直近のベストセラーは全部読んでおこう」という読み方は避けたほうがいいと思います。

豊島 私も圧倒的に紙の本がいいですね。電子書籍で読むのは小説だけ。ページをめくって、付箋を貼り、黄色のアンダーラインを引くのが基本。そして、2回目に読むときは黄色のアンダーラインのところを中心に読みます。読書時間は土日と移動中。カーゴパンツのポケットに文庫本を入れておくというのが、私の休日スタイルです。

 5つ目は「滝田さんへ。WBSへの復帰を強く望んでいます。滝田さんのダジャレが恋しいです」。

滝田 「大変ありがとうございます」とだけお答えします。私も70歳近いですから、40代の豊島さんが中心になるほうがWBSは躍動感があっていいと思いますよ。私は最近、YouTubeの「POlight(ポライト)」という日本の政治や経済を分かりやすく解説する番組でコメントをしています。豊島さんのYouTubeと比べたら視聴者数は3桁ぐらい違いますが、よろしければご覧ください。

相手の心を開く方法

豊島 6つ目は「インタビューをするときはさまざまな年代、考え方の人とコミュニケーションを取ることになると思います。やりとりをするうえで、特に気をつけていることはありますか?」。

 本にも書きましたが、「事前にその人について徹底リサーチする」のは大前提です。著書があれば読み込んで、感銘を受けた部分に付箋を貼り、それを基に取材します。一方で、取材相手が作家の場合、著作を読んでいくのは当然ですが、相手も「また同じことを聞かれるのか」と思うので、本の話ばかりするのは逆効果の場合もあります。十分に準備して臨んだほうがいい人がいる一方で、『ハゲタカ』シリーズで知られる真山仁さんのように、「会った瞬間、率直なコミュニケーションをしてくれないと、信用できない」と言う人もいます。結局のところ、これはかなり難しいですね。滝田さんはどうしていますか?

滝田 事前の準備は必須だとしても、第一印象で決まってしまうところがあります。会った瞬間にお互い気持ちが通じるかどうか。そこが通じていれば、似たような質問をしても違う方向に話が展開していくと思います。

 オープンマインドではなく、クローズドマインドな人にインタビューするときは、「これは自分の仕事なんだ」と割り切って話を聞くしかないでしょう。でも、世に影響力を持つ人の7~8割はオープンマインドに話ができる人だと思います。特に経営者は。

過去の教訓を生かすには

豊島 7つ目は「『古典に学ぶ現代世界』を読みました。『歴史は繰り返さないが、韻(いん)を踏む』とあります。人は過去の教訓や経験を生かしきれないのが現状ではないかと思いますが、どうしたらいいですか?」。

滝田 読んでくださり、ありがとうございます。それはマーク・トウェインの言葉ですね。はっきり言って、立派な教訓を学んで、上手に対応しようという期待はほとんど持ってないんです。その都度、その都度の課題につじつまを合わせて対応していくしかないのかなと。仕事も日常生活も。私はあまり世の中や人間に対する期待のレベルが高くないものですから。答えになっていなくて、すみません。

豊島 日本における過去の大きな失敗と過ちというと第2次世界大戦があります。野中郁次郎さんが『 失敗の本質 日本軍の組織論的研究 』(共著/中公文庫)を書かれたのは40年前です。第2次世界大戦のようなとんでもないことは繰り返したくないと思いますが、今の台湾をめぐる危機は心配です。もし、台湾有事になったら、日本人はどう行動するのでしょう。感情的になって暴発してしまうのか、それともひたすら弱気になって中国の拡大を許すのか。そこはとても憂鬱な、日本が懸念すべき事項の1つだと考えています。

国政への意欲は?

豊島 8つ目は「国政への意欲はありますか?」。実は永田町の取材をしていると、そのようなお誘いを受けます。でも国会議員になるということは、売り上げが4000万円ぐらいの中小企業の社長になるのと同じことです。議員歳費が2000万円少しぐらいで、交通費だとかいろんなものを合わせると4000万円ぐらい。ただし、次の選挙で勝てる保証はありません。総理が「解散」を宣言して、選挙に負ければ無一文になるかもしれない。

 そのような世界に、どれだけ合理的な人間が参加するだろうか? という話です。普通の親なら、まず反対するでしょう。だから、安直な2世議員ばかり生まれるという、この国の不幸な状況があります。

最も思い出深い1冊は?

豊島 最後の質問です。「たくさん本を書かれているなかで、一番印象に残っている本は何ですか?」。

情報収集の方法は、二人とも「人に会うこと」
情報収集の方法は、二人とも「人に会うこと」
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滝田 『ローマの休日』のアン王女の心境でしょうか。「いずこの街もそれぞれに忘れがたく……いえ、ローマです」。どの本も忘れがたいのですが、私にとってのローマは『日米通貨交渉 20年目の真実』(日本経済新聞社)という本です。1985年のプラザ合意(ドル高是正の政策合意)から20年たったときに、当時の通貨交渉の1次資料を入手して書きました。国際通貨に関しては元朝日新聞主筆の船橋洋一さんが書かれた『 通貨烈烈 』(朝日文庫)という本が圧巻で、もう富士山のような存在感なのですが、私の本も筑波山ぐらいにはなれたらいいなと思っています。40年前の日本が持っていたパワーや交渉力を記したつもりですので、機会があれば読んでみてください。

豊島 私は『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』で結構プライベートの部分をさらしたので、自分の黒歴史と向き合うことになった印象的な1冊です。こちらも読んでもらえたら、うれしいです。

取材・文/三浦香代子 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

日経プレミアシリーズ『 古典に学ぶ現代世界
名著の中に問題解決の道を探す

AIと超高齢化、ポピュリズムと全体主義、権力の偏重とタテ社会、人情と情緒、外交と経済運営――。長きにわたって読み継がれてきた古典は、私たちが抱えている課題解決へのヒントになる。ジョージ・オーウェルから有吉佐和子まで、数々の名著を現代の視点から読み解く。「日経BOOKプラス」の好評連載を大幅加筆。

滝田洋一著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作氏が、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「自分の考えや情報を分かりやすく人に伝える方法」、「より正確に、より多くの情報を人から聞き出す方法」について、基本的な部分から応用的な要素までを徹底解説。

豊島晋作著/日経BP/1980円(税込み)