仕事や家事に追われ、子どもに十分構ってあげられない。そんな自分を責めていませんか。本連載は、京都大学教授・大倉得史さんの『 親子の「折り合い」の見つけ方 限りある時間の中で心をつなげる 』から抜粋、再構成してお届けします。第1回のテーマは「子どもは大人の忙しさをよく分かっている」。「お母さんにお弁当を作ってほしい2歳の女の子」のエピソードから、忙しい毎日の中でも愛情を伝える工夫を考えます。

子どもは大人の忙しさをよく分かっている

「今度の水曜日はお弁当の日だから、みんな、お母さんにお願いして、好きなおかずを作ってもらってね」

 先生がそう言ったけど……ママはいつもお仕事忙しいし、ふだんの夕食は外食や冷凍食品。作ってくれるのか、心配だな……。

 「先生、お弁当の日のこと、ママに言ってほしい……」

 そう言ってきたのは、保育園の2歳の女の子でした。

 これはある保育園の先生から実際にお聞きしたエピソードです。非常に忙しいご家庭で、この子はお母さんが料理している姿をほとんど見ることがなかったようです。他の子どもにとっては特別感のある「お弁当の日」が、かえってこの子にとっては、お母さんが本当にお弁当を作ってくれるかという不安になっていました。

 幸い、保育者がこの子の気持ちを察して、母親にお弁当の日のことを丁寧に伝えてあげたことで、お母さんはその日がんばってお弁当を作ってくれました。アニメのキャラクターの顔をしたおにぎりに、ふだんはなかなか我が子に構ってあげられないお母さんの愛情がいっぱい込められていました。お弁当を食べ終えたときの、「あ~おいしかった~!」という幸せいっぱいのこの子の笑顔が、保育者にとっても忘れられなかったといいます。

 このように、子どもは小さくても、忙しい大人の状況をよく見ています。お母さんやお父さんが仕事をがんばっていることや、疲れて気持ちに余裕がなくなっていること、それでも自分のことを愛してくれていて、ときに優しくしてくれること。

 親の側は、忙しいときに限って子どもが話しかけてくる、気を引こうとしてくる、子どもは何も分かっていないと思いがちです。もちろん、親が何をそんなに慌てているのか、どうしてそんなに切羽詰まった気持ちでいるのかということまでは分からないでしょう。ですが、親が忙しくしていること自体は分かりますし、そんな中で親の優しさを感じる瞬間は子どもにとってはとびきり嬉しいものになります。その喜びを求めて、構ってもらえなくても、十分に相手をされなくても、また話しかけてくるわけです。

短い時間でも愛情は伝わる

 もしかすると読者の中には、子どもに対して十分応えてあげられていないと感じている方もいるかもしれません。でも、大丈夫です。子どもは、お母さん、お父さんの大変さやがんばりをちゃんと見てくれていますし、一番の根っこで自分のことを愛してくれていることも感じています。忙しい親だからといって、子どもの心が満たされないわけではありません。

 仕事や家事の忙しさの程度に応じて、できる範囲で、子どもに愛情を示す時間を作っていけば、子どもはその愛情を糧にしてきちんと育っていきます。そして、例えば将来、「うちの両親はとても忙しくて、あまり一緒に遊んだりすることはなかったけど、精いっぱいの愛情をもって育ててくれた」といった実感を抱くようになります。

 ですから、「うちは仕事が忙しいから、よその家庭に比べて十分に構ってあげられない」といったことを気に病むよりは、子どもに構ってあげる時間の「質」を高める工夫をする方が実り多いと思います。食事中だけは一緒に食卓に座って、子どもに今日あったことの話を聞くようにする、お風呂のときに一緒にしりとりやなぞなぞをしてあげる、といったことでも十分です。場合によっては、夜寝るときに「今日も忙しくて、あまりお話を聞いてあげられなくてごめんね」と言ってあげるだけでも、子どもは親の気持ちを分かってくれるかもしれません。

 「親なのだから、しっかり愛情をかけて子どもを育てねばならない」「十分な時間をかけて子どもの相手をしなければならない」と強く思いすぎると、自分を苦しくさせてしまいます。もちろん、ふだんは忙しい両親が、お休みの日に丸一日かけて自分と遊んでくれたといったことは、子どもの心に深く残ります。ですが、そうしたことができなくても、日常生活の何気ない一コマで親の優しさに触れる瞬間があれば、その温もりの感覚は子どもの中に身体の記憶として刻まれていきます。一日の中に1回でも2回でも、そうした瞬間を作っていくところから始めてみてください。それだけでも、子どもにとっては十分に「愛されている一日」になります。

 子どもを無条件に愛するのが親心などと言われますが、実は親を無条件に愛してくれているのは、子どもの方なのかもしれません。いつも親のことを思ってくれる子どもの大きな愛に甘えてみても良いのではないでしょうか。親として多少できないことがあったとしても、きっと子どもはそれを許してくれるはずです。ある意味、子どもは親のことを大きな気持ちで見てくれている存在でもあるのです。

忙しい毎日の中でも、子どもは親の姿をよく見ている(写真はイメージ)(写真:imtmphoto/stock.adobe.com)
忙しい毎日の中でも、子どもは親の姿をよく見ている(写真はイメージ)(写真:imtmphoto/stock.adobe.com)
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子育てを「ちゃんとしなきゃ」と思うほど、苦しくなる。京都大学教授の大倉得史さんが、親と子の気持ちをすり合わせ、共に育ち合うための50の発想を紹介。発達心理学の視点と自身の子育て経験から、完璧を目指さず、限りある時間の中で心をつなげるヒントを届けます。

大倉得史(著)/日経BP/1870円(税込み)

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