米国では今、富裕層を中心にロンジェビティ(健康長寿)への関心が盛り上がっている。老化や寿命は「避けられない運命」ではなく、科学とテクノロジーによって「管理・介入できる対象」であり、それにより健康寿命を最大化しようとする動きだ。その先導役の一人が、Xプライズ財団の創設者兼会長として知られる起業家のピーター・H・ディアマンディス氏だ。医学の専門職学位(MD)を持つ同氏の最新刊『科学的根拠による体調メンテナンス大全』(尼丁千津子訳、日経BP)から、すぐに役立つ食や睡眠に関する長寿実践法を抜粋してお届けする。前回に引き続き、ディアマンディス氏の睡眠法について。第3回。
前回、『科学的根拠による体調メンテナンス大全』の著者ピーター・H・ディアマンディス氏が毎晩実践している、安定して良い睡眠を確保するための方法を6つ紹介した。今回は、さらに5つを紹介する。
➆寝る前の娯楽
ここ5年ほどで取り入れた習慣のひとつは、就寝前や切り替え時間に、ベッドでテレビを観ないようにしたことだ。スクリーンから出るブルーライトがメラトニンの生成に影響を及ぼすことは広く知られている。その代わりにオーディオブックを聴いている。寝る前の大人版「読み聞かせ」といったところだ。
⑧睡眠サプリメントとメモ帳
では、時差ぼけやなかなか寝つけないときはどうしているか。私が使う製品のひとつは、ライフフォースの「ピークレスト」というサプリメントで、持続放出されるメラトニン、グリシン酸マグネシウム、L-グリシン、L-テアニン、ビタミンAが含まれている。2つ目の工夫は、夜中に頭がさえすぎてしまうとき、思いついたアイデアをすぐに書き留められるよう、ベッドの脇にメモ帳とペンを置いておくことだ。頭のなかのことを書き出すことで安心し、再び眠りにつくことができる。
⑨Oura Ring
「Oura Ring」は魔法のように眠りを誘う装置ではないが、睡眠の質を数値化してくれるので、睡眠をゲーム感覚で管理でき、改善に取り組める。毎朝、最初にするのは、その日の「コンディションスコア(回復度指標)」と「睡眠スコア」(詳細は本章の最後で触れる)を確認することだ。目標は、各スコアで常に90点以上取ることだ(達成できないこともあるが、常に目指している)。翌朝のスコア測定を考えるだけで、早寝し、アルコールや深夜の食事を控える十分な動機になることが多い。
他にも「Oura Ring」は、レム睡眠、深い睡眠、心拍変動(HRV)バランス、体温、平均心拍数といった多くの指標を計測してくれる。
⑩夜遅くの飲食は避ける
質の高い睡眠のための重要なアドバイスのひとつは、就寝の2時間前から何も食べないことだ(私の場合、午後9時30分に寝たいので、午後7時30分以降は食べない)。そうすることで、十分な消化の時間を確保し、横になったとき胃がいっぱいで逆流や胸やけを起こすのを防げる。
就寝前に食べないことはオートファジー(細胞のなかの異常なたんぱく質や老廃物を処理する仕組み)を促す。また、寝る直前に食べないことで腸内環境も改善する。カロリーの少ない環境で活発になる有益な腸内細菌が増えるからだ。
当然のことだが、午後や夕方にカフェイン(コーヒー、コーラ、緑茶)をとると、その日の夜の眠気が大きく妨げられる。あまり知られていないが、カフェインの半減期は、代謝の早い人で4~6時間、遅い人で8~10時間に及ぶ。つまり、体内のカフェイン量が半分になるまで、それだけ長い時間がかかるということだ。
私の場合、カフェイン代謝が遅いため、午後6時頃にカフェインをとると、午後10時の就寝時にはコーヒー半杯分が体内に残ったまま眠ろうとしていることになる。
⑪朝日を浴びる
一日を勢いよく始め、体内時計を整え、気分を高めるうえで、外に出て太陽光を浴びることほど効果的なものはない。早起きができなくても、できるだけ早い時間に20~30分、屋外で自然光を浴びるとよい。
朝に太陽光を浴びることは、体内時計を同調させ、体にメラトニンの分泌を抑える信号を送る。その結果、すっきり目覚めて日中に頭がさえた状態になれる。さらに、気分、エネルギー水準、集中力を向上させる神経伝達物質セロトニンの生成も促進される。日中のセロトニンの量が増えると、気分がよくなり覚醒度も高まる。夜には、メラトニンの生成を助ける。
そして、朝日を浴びることは、「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾールの調整にも役立つ。コルチゾールを適切に調整することは、日中のエネルギーを維持し、夜の安眠を確保するために不可欠だ。
要するに、朝の太陽光を十分に浴びることで、寝つきがよくなり、睡眠の質も高まり、気分まで改善される。

質の悪い睡眠による生産性損失は年間60兆円超
『ランドヘルスクオータリー』に掲載された研究によると、質の悪い睡眠による生産性の損失は、米国では年間4000億ドル(60兆円)以上に上る。また、同じ研究では、睡眠時間が1日6時間未満の人が多いことによって、社会全体で年50万日以上のフルタイム勤務に相当する労働が失われていると推計している。
個人レベルで見ると、多くの人が真っ先に削るのが睡眠だ。しかし、「死んでから眠ればいい」というよくある考え方は、健康、幸福、長寿を根本から損なうものだ。例えば、毎晩6時間、あるいは7時間未満の睡眠しかとらない生活を続けると、がんのリスクが2倍になり、アルツハイマー病の発症リスクも高くなる。さらに、睡眠不足は不安障害やうつ病といった深刻な精神疾患にもつながる。
カリフォルニア大学バークレー校の神経科学・心理学教授で、ヒューマン・スリープ・サイエンスセンター所長でもあるマット・ウォーカー博士の著書『睡眠こそ最強の解決策である』から私が学んだ重要な教訓のひとつは、「もし人間がより短い睡眠で生きられるように進化できたのなら、そうしていたはずだ」という気づきだった。睡眠中は捕食に対して無防備で、生産性も最も低い。それにもかかわらず、人間の体は進化の過程で8時間の睡眠を必要とし続けてきた。
ぜひ、自分のために8時間ぐっすり眠ることを最優先にしてほしい。
健康な人でも4日間4時間睡眠で「糖尿病予備群」に
2024年度の「ロンジェビティ・プラチナムトリップ」(ディアマンディス氏が主催する、最先端の健康長寿医療を体験できる富裕層向け特別プログラム)で、ウォーカー博士が、睡眠が健康と長寿に及ぼす影響について講演し、見解を語った。ウォーカー博士は、睡眠不足は深刻な代謝的・ホルモン的影響を及ぼすと強調した。睡眠不足に陥ると体は、栄養失調と同じような状態になると説明した。「『死んでから寝ればいい』と考えていると、皮肉にも寿命は短くなり、短くなった人生の質も大きく低下する」

続いて彼は、若い健康な男性を対象に5日間、1日5時間の睡眠に制限した研究を紹介した。結果は、被験者のテストステロン値は10歳年上の男性と同程度にまで低下した。「5時間睡眠を5日続けると、男性は実質的に10歳年をとったのと同じになる」と博士は強調し、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンも同様の影響を受けると指摘した。
さらに博士は、睡眠不足が認知機能や代謝機能を損なうことも示した。実験の参加者を4日間、4時間の睡眠に制限した研究では、血糖値が正常だった人々が実験終了時には「糖尿病予備群」と分類される状態になった。これは、短期間の睡眠不足でも、代謝に大きな負担がかかることを示唆している。
「深い眠りこそ、体にとって最も重要な回復の時間だ。心血管系を元気にし、血圧を下げ、免疫の武器庫を補充することで免疫系を活性化させる」とウォーカー博士は述べた。深い眠りは、アルツハイマー病に関連するアミロイドβ(ベータ)やタウといった有害なたんぱく質を取り除き、脳を浄化する働きがあると説明した。女性の場合、51~52歳までは男性よりも多くの睡眠を必要とし、深い眠りに入りやすい。しかし、女性の深い眠りは60歳を過ぎると急激に低下し、これは更年期と関連している可能性がある。ただし、この関連についてはさらなる研究が必要だと述べた。
ピーター・H・ディアマンディス(著)、尼丁千津子(訳)/日経BP/2200円(税込み)
