健康で活力ある人生を長く送ることを意味する「Longevity(ロンジェビティ)」という概念が世界で注目されている。この概念を詳しく解説し実践法を説く『LONGEVITY GUIDEBOOK 科学的根拠による体調メンテナンス大全』(ピーター・H・ディアマンディス著)が12月に国内で発売された。ディアマンディス氏と親交があり、自身も彼の勧める健康法を実践するジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏に、私たちがアップデートすべき健康長寿の考え方について聞いた。

単なる長寿を超えた概念「Longevity」とは?

 12月に発売された『LONGEVITY GUIDEBOOK 科学的根拠による体調メンテナンス大全』は、起業家であり医学博士でもあるピーター・H・ディアマンディス氏が記した、長寿のためのガイドブックだ。

 同書はAIやCRISPR(ゲノム編集ツール)、遺伝子治療、細胞医療などにより「今後10年で健康寿命を何十年も延ばせるようになる」という知見に加え、ディアマンディス氏が最新科学やテクノロジーを活用し、食事、睡眠、運動、さらに精神的健康を保つために実践している習慣について、余すことなく紹介している。

 同氏が起業家や投資家たちとともに運営するプライベートコミュニティ「アバンダンス360」の会員であり、彼と親交があるのが、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏だ。後藤氏は、リスキリングの第一人者として活動しつつ、彼から伝授された「ロンジェビティ・スキル」をもとに、私たちがこの先、長く活躍し続ける「キャリア・ロンジェビティ」が今後さらに重要になってくると提言する。

 インタビューの前編では後藤氏に、ロンジェビティという概念、世界での動向、同氏の著書から受け取った健康長寿のヒント、後藤氏のロンジェビティ実践法について聞いていく。

後藤さんは、『LONGEVITY GUIDEBOOK 科学的根拠による体調メンテナンス大全』(以下、ガイドブック)の著者、ピーター・H・ディアマンディス氏と交流されているそうですね。

後藤:ピーターとの出会いは、8年前の2017年に遡ります。「シンギュラリティ」という言葉をご存じでしょうか。AI(人工知能)が指数関数的に進化し、人間の知能の総和を超える、という概念のことを言います。シンギュラリティの概念を提唱した脳科学者でAI研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏とピーターが共同創業者として作った「シンギュラリティ大学」という教育機関(2008年にシリコンバレーで設立)があり、私はこの「シンギュラリティ大学」を日本に招致するプログラム運営に関わっていたのです。

後藤宗明(ごとう・むねあき)氏=ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事
後藤宗明(ごとう・むねあき)氏=ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事
1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士銀行(現みずほ銀行)を経て米国で起業。 2008年に帰国後、米国のフィンテック企業の日本法人代表などを務めたのち、2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立、代表理事となる。政府への政策提言、47都道府県のうち27の自治体や企業向けのリスキリング導入支援を手がける。リスキリング3部作の『自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング』(日本能率協会マネジメントセンター)を2022年9月に刊行。その他、『中高年リスキリング』(朝日新聞出版)など著書多数。(撮影:田村充)

 そんな中、私自身の話になるのですが、昨年11月、暴飲暴食がたたって体重が108kgになり、肝機能の異常値が出てしまいました。「このままではまずい」と危機感を抱き、かねてより知っていた、ピーター氏がロンジェビティについての知見を広めているプライベートコミュニティ「アバンダンス360」に入会したのです。

 ピーターのガイドブック(書籍版)が米国で発売されたのは2025年1月。私自身、ガイドブックの内容に従ってライフスタイルを大きく変えました。その結果、半年間で健康診断の結果はすべて「健康」に戻すことができました。

 自分の経験も踏まえ、ビジネスパーソンも「ロンジェビティ・スキル」(詳しくは後述)を高めることでより長く元気に活躍していける、という確信を強め、リスキリングに加えて、ロンジェビティを広めるべく、活動をしているところです。

ここで、「ロンジェビティ」という言葉についてあらためて教えてください。

後藤:「Longevity」とは、長寿、長生き、寿命といった意味で、場合によっては働く人の労働寿命を指すこともあります。

 ロンジェビティは、単に長寿ということを示すのではなく、「健康で活力ある人生を長く送ること」を意味しています。現在、医療分野、健康関連ビジネス、最新テクノロジー投資といった幅広い分野で、世界で一大ブームが起きています。

「ロンジェビティ」とは?

2010年代後半から米国でロンジェビティがブームに

健康寿命に関心が高まっている超高齢化社会のわが国だけでなく、世界で「ロンジェビティ」がブームになっているのですね。

後藤:私は2014年ごろから国際会議に参加し、リスキリングとロンジェビティというテーマを追いかけていました。ただ、当初のロンジェビティの議論は、「不老不死を目指そう」というもので、若干怪しげに感じ、興味はあったものの発信を意識的にしてきませんでした。

 しかし、ロンジェビティに関するベストセラーがどんどん出始め、2010年代後半からそのブームに火がつき始めました。

 2016年には俳優のキャメロン・ディアスらが「The Longevity Book」という書籍を出しました。この本では女性の体の仕組みや最適な健康状態を維持するための具体的なステップが示され、反響を呼びました。2019年に出版されたハーバード大学のデビッド・シンクレア教授による「Lifespan」(日本語版『ライフスパン 老いなき世界』(東洋経済新報社)」や、長寿学の権威であるピーター・アッティア氏による「OUTLIVE」(日本語版『アウトリブ 人はどこまで生きられるのか 健康長寿の限界を超える科学的戦略』(NHK出版)」など、睡眠、食事、生きがい、医療と運動など、いろいろな切り口のロンジェビティ関連書籍が相次いで登場しベストセラーとなっています。

日本語版『ライフスパン 老いなき世界』(東洋経済新報社)
日本語版『ライフスパン 老いなき世界』(東洋経済新報社)

「ライフスパン」などは日本でも話題となりましたね。ディアマンディス氏のガイドブックも、ロンジェビティのブームの流れの中にあるのですね。欧米で「長生きすること」が注目されているのはなぜですか?

後藤:欧米諸国もわが国と同様に少子高齢化が進行しており、年金・医療・介護といった社会保障制度が持続不可能になる懸念が広がっています。「健康寿命を延ばし、働き続けられる社会づくり」が国家的課題になっているのは、わが国と同じです。

 並行して、テクノロジーと医療サイエンスが飛躍的に進歩したことも要因として欠かせません。AI・データ解析、バイオテクノロジーが急速に進展し、生物学的年齢を測定する技術が進展しています。「生物学的年齢は逆行が可能」という研究成果も相次いでおり、「老化はコントロール可能である」という認識が主流となっています。

 なかでも米国では、50代の人たちがこれから消費者のボリュームゾーンになり、ビジネスとして盛り上がっているという実情があります。不老不死に関心の高いシリコンバレーのテック長者たちがロンジェビティの領域に巨額投資し、研究所やスタートアップが次々と設立されています。

ガイドブックにも、1回あたり8000~1万2000ドルもする血漿交換療法(TPE)を受けていると書かれていて、富裕層はここまでやるのか!と驚きました。

後藤:そうですよね。米国の富裕層はロンジェビティに貪欲に取り組んでいます。日本にいる私たちには少々極端な取り組みに感じるかもしれませんが、ロンジェビティ関連の先進企業によって研究が進展し、サービス開発が進むことで、必ずテクノロジーの民主化が起き、いずれ私たちの手元に届くようになるのです。

 実際に、ウェアラブル、血液・マイクロバイオーム(腸内細菌叢)解析、デジタル治療、個別化栄養などの新たな産業が誕生し、手軽に私たち消費者が利用できるものが増えてきました。日本でもすでに活用が広がっていますが、腕にセンサーを装着するだけで血糖値の上下動を見ることができる装置「FreeStyleリブレ」を私も愛用しています。スマホに標準搭載されているヘルスケアアプリも無料で有用なサービスが増えています。

 大手化粧品メーカーのロレアルも、今年、「美をロンジェビティの核心に据える」と宣言し、俳優のジェーン・フォンダやアンディ・マクダウェルが髪を染めないままランウェイを歩き、年を重ねる美しさを提唱し始めました。

 今年公開したNetflixの映画『DON'T DIE:“永遠に生きる”を極めし男』では、寿命を延ばすために自らの肉体と財産を賭ける起業家ブライアン・ジョンソンのドキュメンタリーが放映され、全世界でファンを獲得しています。また、2025年5月には、米国のタイム誌がロンジェビティ専門のサイト「TIME Longevity」をオープンしています。

Netflix映画『DON'T DIE:”永遠に生きる”を極めし男』独占配信中。老化にあらがい、既知のあらゆる限界を超えて寿命を延ばす。 そのために自らの肉体と財産を賭ける、裕福な起業家ブライアン・ ジョンソンの日常に迫るドキュメンタリー
Netflix映画『DON'T DIE:”永遠に生きる”を極めし男』独占配信中。老化にあらがい、既知のあらゆる限界を超えて寿命を延ばす。 そのために自らの肉体と財産を賭ける、裕福な起業家ブライアン・ ジョンソンの日常に迫るドキュメンタリー

 このように、ロンジェビティをキーワードとするビジネスの潮流は、間違いなく日本にもやって来ると思います。

海外のロンジェビティ事情についてお話を聞くと、「人生100年時代」という言葉に代表される、私たちがイメージする「長寿」とは雰囲気がずいぶん違うように感じます。

後藤:確かに、欧米でのロンジェビティは、「vibrant(いきいき、エネルギッシュ、活気に満ちる)」という英語で表現するような、意気揚々としたイメージがあります。一方、わが国で長寿というと、「好々爺」、「ご長寿」という言葉がしっくりくるかもしれませんね。また、「少子高齢化」という言葉はどうしてもネガティブな印象を持たれがちです。

 もちろん、医療問題や社会保障など解決すべき課題は数多くあります。一方で、ロンジェビティという概念は、長寿からさらに進み、何歳になってもいきいきと活躍し続ける、というゴールをみんなで目指していこう、という力強いムーブメントであると私は理解しています。

食事管理と健康管理で体重15kg減、健診の数値も標準以内に

ディアマンディス氏のガイドブックを読み、後藤さん自身もライフスタイルを変えたという先ほどの話、ここで詳しく聞かせてください。

後藤:この5年ほど、海外出張や地方出張の日々が続いていて、毎日のように会食でお酒を飲んでいました。暴飲暴食がたたり、体重も108kg近くになっていました。

米国版の『LONGEVITY GUIDEBOOK』
米国版の『LONGEVITY GUIDEBOOK』

 2024年11月に、健康診断で、肝機能の数値γ-GTP(*1)が、なんと150U/Lを超えてしまい、「すぐに薬を!」と言われたのですが、「薬を飲む前にできることはないか」と主治医に聞くと「今から3カ月禁酒してください」と言われました。素直に禁酒したのですが、3カ月後も数値が下がりきらなかった。

*1 基準値は医療機関によっても異なるが、日本人間ドック・予防医療学会では50U/L以下が正常値、51~100U/Lが要注意、101以上が異常値としている

 そんなときにピーターがロンジェビティについて情報交換をしているプライベートコミュニティ「アバンダンス360」を運営していることを知り、入会しました。2025年1月には米国版の『LONGEVITY GUIDEBOOK』が出版されました(写真)。

 すでに、コミュニティでいろいろな健康法については教えてもらっていましたが、ガイドブックを携え、彼が提唱する方法をひたすら実行しました。

 食事、運動、睡眠管理に至るまで、着実に実行した結果、体重を15kg落とすことに成功しました。さらに今年の4月に全ての健康診断の数値が標準以内におさまりました。肝機能はもちろん、境界型糖尿病だった血糖値も正常に戻ったのです。

2025年3月に「アバンダンス360」に参加してロンジェビティ・テックを体験してきた
2025年3月に「アバンダンス360」に参加してロンジェビティ・テックを体験してきた

ヘルステックを駆使した生活改善は正直楽しかった

すごいですね! かなりの意志力が必要だったのでは。

後藤:それが、実はすごく楽しかったんですよ。特に、24時間の血糖値が分かるFreeStyleリブレは、何を食べたら自分の血糖値が上がるかがすぐに分かります。改善した食生活の体への影響がリアルタイムで見ることができるので楽しいのです。牛丼を食べたときの数値の上がり方にはぞっとしましたが(笑)。

 外食もやめて、食事を自炊するようになり、ピーターが著書で勧めている抗酸化力の高いビーツやベリー、キノコなどをしっかり食べるようにしています。今まで料理したことのない食材に触れることも多く、今では食材の栄養素を理解しながら調理するスキルが身につきました。出張中も、ミックスナッツやビフィズス菌入りヨーグルト、ブルーベリー、チアシードなどを持ち歩いています(写真)。

後藤氏はナッツやヨーグルト、ブルーベリー、チアシードなどを出張時などに携帯している
後藤氏はナッツやヨーグルト、ブルーベリー、チアシードなどを出張時などに携帯している

 また、「健康にはこれがいい」という情報は世にあふれていますが、「健康にいい」と言われているものでも、人それぞれの体質や腸内環境によっては「良くない影響」をもたらすものもある、ということをガイドブックから学び、衝撃を受けました。人によって腸内細菌叢が違うので、ちゃんと消化できるものもあれば、炎症が起きてしまうものもある。そこで、ピーターも活用しているという腸内細菌叢をRNA解析し、食べるべき食品、避けるべき食品を教えてくれる「VIOME」というサービスのテストを米国で受けました(図)。

後藤氏のVIOMEの検査結果例。左上の腸・消化器系の健康が「注意」となっている
後藤氏のVIOMEの検査結果例。左上の腸・消化器系の健康が「注意」となっている
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 私の検査結果は、生物学的年齢は45歳(実年齢は54歳)だったのですが、腸の炎症老化が進行していることが判明しました。そこで、食生活の改善をして、次のテストではスコアアップできるよう取り組んでいるところです。AIの進化によって、これまで分からなかったことが分かるようになってきた、個別化できるようになってきたというのもロンジェビティ・テックの良い事例だと思います。

アイマスクと耳栓をして睡眠、オンライン会議は歩きながら

睡眠について、何か心がけていることはありますか。

後藤:ガイドブックには、「決まった時間に寝る」、「就寝前の30分のクールダウンが大事」、「正午以降はカフェイン禁止」といった提案が書かれています。私もそれらを実践し、アプリで日々睡眠スコアを計測し続けています。最近は、高スコアを取れるようになってきました。

 ピーターからは「人間は寝ている状態でも耳で聞き、光をとらえている」と教わり、お勧めされているアイマスクをつけ、耳栓をして寝るようにすると、これまでよりもぐっすりと眠れるようになりました。

ディアマンディス氏が推薦するアイマスクを装着している後藤氏
ディアマンディス氏が推薦するアイマスクを装着している後藤氏

運動はしているのですか?

後藤:私は走ること、泳ぐことは大好きなのですが、筋トレがどうしても好きになれず……。しかし、血糖値上昇を抑えるためには血糖を貯蔵する筋肉量を増やすことが必須と知り、自重での筋トレにまず取り組んでいます。

 ガイドブックには、ピーターは週4回のウエイトトレーニングをしていると書かれていました。表紙の写真で彼の体つきは知っていましたが、実際に会ったら、ヤバいぐらいムッキムキでした!

ディアマンディス氏は運動の大切さを強調していますね。ガイドブックには、「座りっぱなしは新たな禁煙」「1日4000歩以上歩くと脳組織の健康が維持される」「運動に匹敵するほど効果が実証されている薬はない」といったことが書かれていました。

後藤:はい、そこで私も、仕事机をスタンディングデスクに一新して、ルームランナーとセットにして、オンライン会議は歩きながら参加しています。食後15分以内に歩くことによって血糖値スパイク(食後高血糖)も防ぐという作戦です。ときどき会議の相手に「あれ? 後藤さん、歩いてますか?」とバレることもありますが(笑)、仕事中も歩くことができていいですよ。

体重を落として、健康診断の数値が正常になったという数字以外に、実感している変化はありますか。

後藤:以前は、嫌なことがあるとやけ食いしてしまうことがありましたが、それが一切なくなりました。食事を改善したことで血糖値が乱高下しなくなったためか、精神的な浮き沈みもなくなったのです。メンタルが安定して、仕事の集中力が高まりました。

 医学的根拠を知り、腹落ちしてから生活改善に取り組んだのはよかったです。ヘルステックを駆使して「見える化」すると、やる気を持続できて、気が付いたら苦しさより楽しさのほうが勝っていました。調子が良すぎるので、モチベーション高く健康のための習慣を続けています。もう、元の生活には戻れません。

 実際に自分でロンジェビティのための生活改善を実践して気づいたのは、ロンジェビティを達成するには、それを実現するためのスキル、つまり「ロンジェビティ・スキル」が必要だということ。そして、このスキルを磨いていくことで、喫緊の社会課題である「いかに健康に働き続けるか」という課題も解決していけるのではないか、という発見でした。ロンジェビティ・スキルという言葉は私の造語です。


 次回は、リスキリング第一人者である後藤氏が考えるロンジェビティとリスキリングの関係性、健康で長く働き続ける「キャリア・ロンジェビティ」をいかに達成していくかについて詳しく聞いていく。

(図版制作:増田真一)

日経Gooday(グッデイ) 2025年12月18日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]

テック界の世界的リーダーである著者が、自ら実践している健康法を紹介する本書。最新の医学エビデンスだけでなく、ユーザーの立場から書かれているのが特徴だ。「健康長寿」に関わる超一流の専門家が次々登場、著者が彼らに直接、ユーザー視点で切り込み、実践しやすい最適なソリューションを引き出す。

ピーター・H・ディアマンディス(著)、尼丁千津子(訳)/日経BP/2200円(税込み)