米国では今、富裕層を中心にロンジェビティ(健康長寿)への関心が盛り上がっている。老化や寿命は「避けられない運命」ではなく、科学とテクノロジーによって「管理・介入できる対象」であり、それにより健康寿命を最大化しようとする動きだ。その先導役の一人が、Xプライズ財団の創設者兼会長として知られる起業家のピーター・H・ディアマンディス氏だ。医学の専門職学位(MD)を持つ同氏の最新刊『科学的根拠による体調メンテナンス大全』(尼丁千津子訳、日経BP)から、すぐに役立つ食や睡眠に関する長寿実践法を抜粋してお届けする。前回に引き続き、ディアマンディス氏の睡眠法について。第2回。
40年前(大学・医学生時代)、私はできるだけ少ない睡眠時間で済ませることを自慢していた。適切だと思っていた睡眠時間はだいたい5時間半で、言い訳はいつも「死ねばいくらでも眠れるさ」だった。翌日の朝イチから全開で動けるよう、夜行便(レッドアイ)の機内で眠るのが常だった。だが、私はとんでもなく間違っていた。今の知識を当時の自分も知っていればよかったとつくづく思う。
今は、質の高い深い睡眠を8時間とることを最優先にしている。方法は次の通りだ。
①いつ、どれくらい眠るか
目標は毎晩8時間、最低でも7時間としている。いつも達成できるわけではないが、常にそこを目指す。かつては夜型で、よく午前2時まで起きていたが、この10年で就寝時刻をかなり早めた。たいていは午後9時15~30分までにベッドに入り、午後10時には眠る。起床は5時30分~6時頃で、目覚ましなしで起きることが多い。
②就寝前の切り替えと就寝
良い睡眠の最重要ポイントのひとつは、就寝時刻の一貫性であり、これに就寝前の切り替えをうまく組み合わせることだ。
• 決まった就寝時間:想像以上に重要だ。決めたリズムを守ることが質の高い睡眠には不可欠だ。午後10時から午前6時までの8時間は、午前0時から午前8時までの8時間と同じではない。鍵となるのは一貫性だ。
• 切り替えの時間:白熱したズーム会議やメール作業の直後に、すぐ眠れるとは思わないほうがいい。脳と体には少なくとも30分(人によっては60分)のクールダウンが必要だ。私の場合、午後9時から9時半までがクールダウンの時間で、照明を落とし、ブルーライトカットの眼鏡をかけ、動きをゆっくりにする。この時間はテレビ、スマホ、パソコンを避ける。最後の15分は、その日の感謝を振り返る瞑想かオーディブルで本の朗読を聴く(タイマーを15分にセット)ことに充てる。他に、入浴(後述)、お祈り、ベッドでの読書などもある。
③アイマスク
アイマスクには多くの利点があり、正直、もはやアイマスクなしでは眠りにくい。第一に、完全な暗さはメラトニン分泌を高め、入眠を早める。第二に、光を浴びることは、レム睡眠を乱す。レム睡眠は認知機能に不可欠だ。第三に、私のように移動が多い人にとって、どこにいても一定の睡眠環境をつくる簡便な解決策になる。
私は「マンタ・スリープマスク」を愛用している。外光を100%遮り、各眼の周りにリング状のクッション素材がついていて、まぶたへの圧迫を避ける設計で、着け心地がよい。このアイマスクにすっかり慣れ、3つ持っている。どこへ行くにも必ずひとつ携帯する。他にも優れた製品はあると思うが、私の定番はこれだ。

④夜は涼しく保つ
複数の研究(米国立衛生研究所、米国睡眠医学会、ハーバード大学)によれば、睡眠に最適な室温は15~19℃とされる。日が暮れて深部体温が自然と下がり始めると入眠のサインになるが、室温を低めに保つとこのプロセスが進みやすくなる。室温が低めだとメラトニンの分泌が促され、特に徐波睡眠(SWS)やレム睡眠といった睡眠段階が整う。
さらに、寝室を涼しくしておくと体に熱がこもらず、寝汗や落ち着かなさによる眠りの中断が起きにくくなる。私の習慣では、この点で2つの工夫をしている。
• 室温:まず、研究結果に従い、寝室のエアコンを17.2℃と涼しめに設定している。これにより深部体温を下げて深い眠りに入りやすくなる。
• 「エイトスリープ」冷却マットレス:次に、「エイトスリープ」を購入した。これはマットレスの上(シーツの下)に敷く製品で、夜の各段階に合わせて設定した温度まで体を冷やしてくれる。就寝時に温度を「マイナス5」に設定し、ひんやりとしたベッドに入る。このマットレスの優れた点は、一晩を通じて温度を細かく調整できることだ。
例えば、夜中には自動的にさらに涼しくでき、朝は「プラス4」に上げて、心地よく目覚めるようにしている。さらに、左右で独立して温度を設定でき、パートナーが別の温度を好む場合にも対応できる。最後に、このシステムは「Oura Ring」のように、総睡眠時間、レム睡眠、深睡眠などの睡眠指標もモニタリングしてくれる。
• 入浴する:これは私の習慣には入れていないが、就寝の1、2時間前に風呂に入ると入眠潜時(寝つきまでの時間)が短くなることが多くの研究で示されている。その理由は次の4つある。
第一に、温浴でいったん深部体温が上がり、その後、急速な放熱と体温低下が、就寝前に自然に起こる深部体温の下降を模倣して、体に「眠る時間だ」と合図する。第二に、温浴が筋肉のこわばりを緩めて緊張を解き、心身をリラックスさせることで、寝つきを助ける。第三に、温浴は末梢(手足)の血流を増やす。手足が温まると体表から熱が逃げやすくなり、深部体温が下がって入眠が進む。最後に、温浴はエンドルフィン(脳内の快感・鎮痛物質)の分泌を促し、気持ちが落ち着いて眠りに入りやすくなる。
⑤ブルーライトカット眼鏡
人間の脳は、アフリカのサバンナで日の出とともに目覚め、日没で眠るように進化してきた。朝日の強い青色光は、脳に「起きる時間だ」と合図する。残念ながら、その青色光はパソコンの画面からも大量に出ている。夕焼けのような赤い光は、メラトニンの分泌を促し、睡眠の準備を整える合図になる。現代のハイテク製品に囲まれた生活では、就寝前の明るい照明やパソコン、携帯電話、テレビは睡眠を乱す要因だ。ブルーライトカット眼鏡をかけると、脳に誤った合図を送るのを防ぐことができる。
こうした知識に基づき、私は就寝の約1時間前にブルーライトカット眼鏡をかけ、メラトニンが最適に分泌され、素早く寝つき、ひと晩中ぐっすり眠れるようにしている。私は、バイオハッカーのデイブ・アスプリーがプロデュースした「トゥルーダーク」という製品を使っている。一方朝は、日の出を見るために外に出るのが好きだ。視覚系と脳に覚醒の合図を送り、頭と体をしっかり目覚めさせて一日を気持ちよく始める。
⑥下顎前方移動装置(マウスピース)
睡眠時無呼吸症候群は本当に厄介だ。これは睡眠中に呼吸が何度も途切れる睡眠障害の一種で、睡眠が細切れになり、酸素の摂取量も低下する。放置すると、日中の疲労、認知機能の低下、気分の乱れ、事故リスクの上昇につながる。さらに、高血圧、心疾患、脳卒中、2型糖尿病とも関連している。
それに当然ながら、閉塞性睡眠時無呼吸症候群といびきには密接な関係がある。いびきは睡眠中の呼吸時に喉の奥の部分[軟口蓋や咽頭]が振動することで生じる。閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に気道が繰り返し、部分的または完全に塞がれてしまう。この閉塞により、大きないびき、呼吸の中断、息苦しくてあえぐような動作が起こる。これらは睡眠時無呼吸症候群の典型的な兆候であり、医療機関での検査が必要だ。
睡眠検査を実施している機関(グーグル検索で多数見つかる)を受診するほか、「いびきラボ(SnoreLab)」といったアプリを使って、大きないびきや息苦しさなどの兆候を記録することもできる。

マウスピースなしにはもう眠れない
私は以前、CPAP(シーパップ、持続陽圧呼吸療法)装置を使っていたが、それは拷問器具と映画『エイリアン』の怪物を足して2で割ったような代物だった。CPAPは効果はあるが、大きくて邪魔で着け心地もよくない。
現在では、自分の歯の形に合わせた特注の「下顎前方移動装置」と呼ばれるマウスピースを使っている。これは睡眠時無呼吸症候群やいびきを治療するために用いられる歯科器具だ。下顎と舌を少し前に移動させることで、睡眠中の気道を開いた状態に保つように設計されている。さらに歯ぎしりを防ぐ効果もある。私はこれがないと眠れないほど気に入っている。マウスピースは、歯科医で上下の歯型をとってもらい、自分の歯にぴったりと合うものを歯科技工士につくってもらう必要がある。したがって、市販品のお薦めはない。
(残りの5つの方法は次回に)
ピーター・H・ディアマンディス(著)、尼丁千津子(訳)/日経BP/2200円(税込み)
